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53話 リィンの実力
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「ギルドに来た女の子がハナキンともう一人を相手にリ・将棋で同時に対局だってさ」
「何? その子は強いのか?」
「いやハナキンは二人が指導側だ。みたいに言ってたな」
こんな感じで野次馬は集まってきた。ハナキンは注目されてテンションが上がっているようだ。
リィンは二人に対し先手でのぞむ。その心の内に静かなる怒りの炎を宿して。そして多数が見守るなか二人に対して差した初手は...... 端歩。 リ・将棋を知る野次馬からは驚きの表情が見れる。
続いてハナキン、カマーセが初手を指しリィンの二手目。なんとリィンは反対側の端歩を動かした。見学者も思わず声をあげてしまう。
「お嬢さんはやっぱり初心者だったみたいだ」
ハナキンが満面の笑顔でリィンに語り出す。
「定石で言うなら端の歩はありえないよ。まぁこれであのちんちくりんもどれだけめちゃくちゃな手を指したかが分かるってもんだ」
リィンはリノが指した手を真似しただけ。そしてハナキンの台詞は最初リィンがリノに抱いた印象と同じだ。
(だけど違う点がひとつ。私は彼女を知ろうとしてその指し方に驚きと敬意を抱いた。この人は彼女を自分の物差しだけで決めつけている)
彼女への侮辱は私への侮辱とばかりにリィンはある覚悟を決めた。今この場にいる者は鮮烈にリィンの名を覚える事となる。
そしてそれは突然始まった。
「じゃあここで」
パチ......パチン!
「え?」
「俺様は格好よくここに」
パチ......パチン!
「な、何?」
ハナキンとカマーセが指したと同時にリィンの番が終わっている。
「お、おいおいお嬢さん。いくらなんでももう少し考えて指した方が」
カマーセはそう言ってハナキンと顔を見合わせた。
「別に俺達に負けても当然なんだから気負う必要はないって。むしろこっちを参考にした方があいつには勝てるぜ」
リィンは何も言わない。だが、
「ん? まさか彼女はひょっとして......」
見物人の中から声が上がり一人の男が進み出てきた。その風貌からベテランの域を感じさせる。
「ああやっぱり! なんでこんな場所で...... いや、それよりも!」
男は近くのテーブルを運びアイテムボックスから自分のリ・将棋を取り出した。
「どうか私とも一局お願いできませんでしょうか! この何も知らぬ若造どもと扱いは同じで構いませんので!」
ギルド内では知られているAランク冒険者のその男の平身低頭さに周囲は愕然とする。
リィンはわずかに間をおくも
「どうぞ」
と、対局の準備を促した。Aランクの冒険者クラウスは感激して急いで用意を始める。リィンは大勢が見守る中三面指しをする事になったのだ。
「おおお、これはありがたい! いい土産話ができます」
(おいハナキン、なんでクラウスさんが?)
(さぁな。大方若い女の子に相手してもらいたいとかじゃねぇの? そんな機会普段なさそうだしな)
(なるほど)
カマーセとハナキンは見当違いの予想をして納得していた。
数刻後ハンソンの部屋。そこには一部始終を見て感激したレーアがその時の様子をハンソンに熱く語って聞かせている姿があった。
「そんなに凄かったのか」
「凄いなんてものじゃありませんでしたよ! 大の男が三人、手も足も出ずに一方的に負かされたんですから!」
「ほう」
「その様子から私は『相手の駒をより多く取った方が勝ち』っていう遊戯なのかと思い込む程でしたもの! 彼女の番に時間なんて殆どかからずずっと男達が考え込んでるだけの展開でした」
レーアが興奮してハンソンに聞かせる。
「それは凄いな」
「最終的には殆どの駒を取られて丸裸ですよ! クラウスさんはそこまでじゃなかったですけど」
「三人同時に相手にしてか......」
「格好良かったのはその後なんですよ。クラウスさんは負けても微笑んでましたけど、他の二人は無言で青い顔してて」
レーアはすっと無表情になりハンソンを見つめ言う。どうやらリィンを再現しているつもりのようだ。
「お二人に関してはお世辞にもなっていませんとしか。『定石以外』の手にも対応できなくては今回の様にしてやられるだけ。さらに定石の部分に関してもミスが目立ちます。上には上がいるのは事実ですが、今のままではその方達にはとても通用しないでしょう」
ハナキンはその時何か言いかけたらしい。しかし
「見せていただいた限りでは実力順はそちらの年配の方、カマーセさん、ハナキンさんと言ったところです。それでは私は失礼させて頂きます」
そう言ってギルドを後にした。
「凄いな。冒険者を近寄らせもしていないな」
「そうなんです! ハナキンさんはその後カマーセさんに俺とやる時は手を抜いてやがったのかとか真っ赤になって言いがかりつけはじめたり」
「お、おいおいそれはトラブルに発展じゃ」
「大丈夫です、そこはクラウスさんの一言で収まりましたから」
そこでハンソンは訪ねてきたリィンの素性をクラウスを通じて知ったレーアから説明されたのだった。
「何? その子は強いのか?」
「いやハナキンは二人が指導側だ。みたいに言ってたな」
こんな感じで野次馬は集まってきた。ハナキンは注目されてテンションが上がっているようだ。
リィンは二人に対し先手でのぞむ。その心の内に静かなる怒りの炎を宿して。そして多数が見守るなか二人に対して差した初手は...... 端歩。 リ・将棋を知る野次馬からは驚きの表情が見れる。
続いてハナキン、カマーセが初手を指しリィンの二手目。なんとリィンは反対側の端歩を動かした。見学者も思わず声をあげてしまう。
「お嬢さんはやっぱり初心者だったみたいだ」
ハナキンが満面の笑顔でリィンに語り出す。
「定石で言うなら端の歩はありえないよ。まぁこれであのちんちくりんもどれだけめちゃくちゃな手を指したかが分かるってもんだ」
リィンはリノが指した手を真似しただけ。そしてハナキンの台詞は最初リィンがリノに抱いた印象と同じだ。
(だけど違う点がひとつ。私は彼女を知ろうとしてその指し方に驚きと敬意を抱いた。この人は彼女を自分の物差しだけで決めつけている)
彼女への侮辱は私への侮辱とばかりにリィンはある覚悟を決めた。今この場にいる者は鮮烈にリィンの名を覚える事となる。
そしてそれは突然始まった。
「じゃあここで」
パチ......パチン!
「え?」
「俺様は格好よくここに」
パチ......パチン!
「な、何?」
ハナキンとカマーセが指したと同時にリィンの番が終わっている。
「お、おいおいお嬢さん。いくらなんでももう少し考えて指した方が」
カマーセはそう言ってハナキンと顔を見合わせた。
「別に俺達に負けても当然なんだから気負う必要はないって。むしろこっちを参考にした方があいつには勝てるぜ」
リィンは何も言わない。だが、
「ん? まさか彼女はひょっとして......」
見物人の中から声が上がり一人の男が進み出てきた。その風貌からベテランの域を感じさせる。
「ああやっぱり! なんでこんな場所で...... いや、それよりも!」
男は近くのテーブルを運びアイテムボックスから自分のリ・将棋を取り出した。
「どうか私とも一局お願いできませんでしょうか! この何も知らぬ若造どもと扱いは同じで構いませんので!」
ギルド内では知られているAランク冒険者のその男の平身低頭さに周囲は愕然とする。
リィンはわずかに間をおくも
「どうぞ」
と、対局の準備を促した。Aランクの冒険者クラウスは感激して急いで用意を始める。リィンは大勢が見守る中三面指しをする事になったのだ。
「おおお、これはありがたい! いい土産話ができます」
(おいハナキン、なんでクラウスさんが?)
(さぁな。大方若い女の子に相手してもらいたいとかじゃねぇの? そんな機会普段なさそうだしな)
(なるほど)
カマーセとハナキンは見当違いの予想をして納得していた。
数刻後ハンソンの部屋。そこには一部始終を見て感激したレーアがその時の様子をハンソンに熱く語って聞かせている姿があった。
「そんなに凄かったのか」
「凄いなんてものじゃありませんでしたよ! 大の男が三人、手も足も出ずに一方的に負かされたんですから!」
「ほう」
「その様子から私は『相手の駒をより多く取った方が勝ち』っていう遊戯なのかと思い込む程でしたもの! 彼女の番に時間なんて殆どかからずずっと男達が考え込んでるだけの展開でした」
レーアが興奮してハンソンに聞かせる。
「それは凄いな」
「最終的には殆どの駒を取られて丸裸ですよ! クラウスさんはそこまでじゃなかったですけど」
「三人同時に相手にしてか......」
「格好良かったのはその後なんですよ。クラウスさんは負けても微笑んでましたけど、他の二人は無言で青い顔してて」
レーアはすっと無表情になりハンソンを見つめ言う。どうやらリィンを再現しているつもりのようだ。
「お二人に関してはお世辞にもなっていませんとしか。『定石以外』の手にも対応できなくては今回の様にしてやられるだけ。さらに定石の部分に関してもミスが目立ちます。上には上がいるのは事実ですが、今のままではその方達にはとても通用しないでしょう」
ハナキンはその時何か言いかけたらしい。しかし
「見せていただいた限りでは実力順はそちらの年配の方、カマーセさん、ハナキンさんと言ったところです。それでは私は失礼させて頂きます」
そう言ってギルドを後にした。
「凄いな。冒険者を近寄らせもしていないな」
「そうなんです! ハナキンさんはその後カマーセさんに俺とやる時は手を抜いてやがったのかとか真っ赤になって言いがかりつけはじめたり」
「お、おいおいそれはトラブルに発展じゃ」
「大丈夫です、そこはクラウスさんの一言で収まりましたから」
そこでハンソンは訪ねてきたリィンの素性をクラウスを通じて知ったレーアから説明されたのだった。
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