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32話 対策会議

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「事情は分かったけど......」

 私は助けを求めてきたネズミをこっそり宿屋に連れ帰り、とりあえず自室のテーブルの上に放してあげた。

 彼(?)はラットマウスという魔物。 ヨーダさんの本棚にあった魔物辞典(ヨーダ著)で読んだ記憶がある。 場所によっては『化けネズミ』と呼ばれて妖怪に分類される事もあるらしい。 サイズ的には普通のネズミと大差なく見分けもつきにくい。

 ただ普通のネズミに比べると圧倒的に知能が高く寿命も人間より長い。 中には今回の様に人語を解する個体も見受けられる。 
 因みにこのラットマウスは私がナイトを召喚する姿を見て協力を要請できる人間ではないかと判断したらしい。 魔物や人間に対して一定の理解を示せる存在って事ね。

 そして大切なのはここからなのだけど、このラットマウス、ネズミの振りをしてあの男の子からエサを貰っていたようなのだ。 彼はある時期から苦しみ出しあのような行動を取るようになってしまったとの事。

(恐らくそれはアイテムボックスと関わった時期と重なるだろう。 侵食を開始され、それに抵抗している部分が苦しみとなって現れているのだ)

 はこ丸の言う通り、男の子はこのラットマウスに拾ったという金色の指輪を見せていた。
 そして苦しむようになった男の子に恩を返すべく、助けられる機会をうかがっていたらしい。

「ネズミの振りしてエサを貰ってただけだってのにそこまでするなんてねぇ。 直接話した事もないんだろ?」

 ハーピーがマウスラットに話しかける。
ナイトもいるけど彼は無言ね。 魔物には魔物かなと思って出てきてもらってたんだけど。

「話しかけた時は驚かれました。 でもあの子はオイラを友達って言ってくれたんです! オイラ戦闘はダメだけど、友達を見捨てるのはもっとダメだと思うんです」

 ......ネズミがネズミらしからぬ事を言ってる様にしか見えないけど...... 悪い話ではないわよね。

 私も故郷にいた友達の事を思い出す。

「何だってぇ! 喰っちまうよこのげっ歯類が!」
「ひぃ!」

 ええ!? ちょっと遠い目をして故郷の事を考えただけの間でなんでこんな展開になってるの!?

「ちょっとみんな騒がないで! 特にネズミのあなたがここのご主人や娘さんに見つかったら営業停止に関わってきちゃうかも知れないから!」

 一人で泊まってるはずの私も変な目でみられかねないものね。

「それよりも......」

 私は要点をまとめる。 本題は対策を練る為の話し合いなのだ。

「また探し出せるかっていうのは置いておいて、まずはあの雷撃は何よ。 魔法使ってくるなんて聞いてないわよ」

 ナイトが居てくれたから助かったけど、あれじゃ近づけないじゃない。

(あの様子から判断すると、侵食はかなり進んでいると考えられる。 逆によく抵抗しているとも言えるが。 そしてあの雷撃は魔法ではない)
「違うの?」

 はこ丸が説明の為にあげた例は雷撃ウナギという魚だった。 この魚は体内に雷撃発生器官を持っていて、雷撃で身を守ったり捕食対象を動けなくする為に使用する。

 あの男の子の身体能力と雷撃は、アイテムボックス本体の特性が表面化してきている影響だとはこ丸は説明してくれた。

「つまり男の子の身体をどちらが支配しているかで......」
(使用する能力に大幅な制限がかけられる)

 ヨーダさんも積極的にアイテムボックスを狩っていた訳ではないので実戦による情報はそんなに多くないものの、雷撃以外の特性を持つ存在の確認はできていたらしい。

「あの子がまだ完全に身体を奪われていないならどうやって助けるの」
(アイテムボックスだけを消滅させればいい)
「いや、それはそうなんでしょうけど......」
(その段階まで進んでいるなら、それ自体は難しくないのだ)
「どういうこと?」

 アイテムボックス本体同士を接触させる。 詳しい説明はよく理解できなかったけど、つまり相手のアイテムボックスのみをはこ丸の領域に引き摺りこんで捕食すれば本来の男の子の人格だけが残るので元に戻り、はこ丸にとっても食事ができるという事になるらしい。

「じゃあとにもかくにも相手を捕まえなきゃ話にならないって訳ね。 でもそうなるとあの雷撃対策を考えないと」
「マスター、それならば私が適任かと」

 ナイトが名乗りをあげてくれた。 リビングアーマーの彼は雷撃で痺れる事もなく、アーマーが物理的に破損する事もないのでそれに対しては非常に相性が有利なのだ。

 ナイトに拘束してもらってはこ丸を接触させる。 うん、方向性は見えた気がしてきたわ。
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