水滸幸伝 ～王倫・梁山泊にて予知夢を見る～

第一回 梁山泊首領王倫

 中国宋の時代、第四代皇帝仁宗の統治下。
 ある時全国に疫病が蔓延してしまい、皇帝は対策にあらゆる手を尽くしたが効果がなく、最後の手段として竜虎山に住む仙人張天師に祈祷の依頼を計画。大尉の洪信(こうしん)を使者として派遣した。

 洪信は張天師を都へ向かわせる事には成功するが、その留守中に天界を追放された百八の魔星を封印しているという場所「伏魔殿」の封印を解いてしまう。

 中には石碑があり「遇洪而開（こうにあいてひらく）」と刻まれていた為、この洪こそ自分の事だと確信した洪信は止めようとする者達に権力を振りかざしこの石碑を取り除かせた。

 すると突然地響きと共に閃光が走り三十六の天罡星（てんこうせい）と七十二の地煞星（ちさつせい）が天空へと飛び去ってしまう。これに恐れをなした洪信は、皆にこの事を固く口止めして都へ戻った。


 それから数十年の時が過ぎ、一一○一年。皇帝は八代目の徽宗の時代となっていたが、竜虎山の事件を知る者の多くはすでにこの世を去っていた。祈祷の効果か疫病は治まったものの、その後は汚職官吏や不正が蔓延る世となってしまっており、中でも蹴鞠が上手いというだけで皇帝に気に入られ異例の出世を遂げた寵臣高俅(こうきゅう)は、その権威で好き勝手に振舞い多くの者から恨みを買っている有様だ。

～東京開封府(とうけいかいほうふ・都)から北東の地～

 ……男は苦しさで目を覚ます。全身にはびっしょりと汗をかいていた。

「……」

 無言で腹の辺りをまさぐり、変化がない事を確認すると安堵の息を漏らす。

「生きている。また殺される夢を見たか」

 その物言いから何度も同じ夢を見ている事が分かる。男の名は王倫(おうりん)。官吏になる為の科挙(かきょ。試験)に落第し続け、自暴自棄になり現在では色々あって山賊集団の頭目になっていた。

(当時は白衣秀士(はくいしゅうし)と呼ばれもしたが今では三十一になりただ殺される夢を見る毎日、か)

 王倫は冷たい水で顔を洗い全身の汗を拭く。その後再び寝台に座ると考え込む。この山賊集団の規模は王倫を頭に副頭目が三人。彼等を含めた約七百人がこの地「梁山泊」を根城とし悪名を轟かせていた。

 王倫は夢の内容を思い出す。毎日の様に見ているのでそれは難しい事ではない。刀で腹を刺され崩れ落ちる自分。それを驚いた表情で見ている朱貴(しゅき)・杜遷(とせん)・宋万(そうまん)の副頭目。

「官軍すら寄り付かないこの梁山泊。だがあれは戦で敗れたような死に様ではない。風景は見慣れた山寨だった。だが朱貴、杜遷、宋万の前で私を刺したあの男は一体……？」

 王倫は男を思い浮かべるも自分の記憶にはない顔であった為、その考えをまとめる事が出来なかった。