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14話 バオー!予期せぬ来訪者

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 あれから数日が経過した。まずは生活の中で変化した事を述べていこう。俺はアイテムボックスの性能に変化があった。木材の形状をより細かく分類できるようになったのだ。角材➡板状(複数)への選択だけじゃなく、角材➡細い角材(複数)とか、角材➡短い角材(複数)、全状態➡ウッドチップorおがくずor カンナくず、など大幅に選択肢が増えた。

 木材に関してはある程度の加工も加えられるようになり、曲げたりねじったりする事が可能になった。おかげでお気に入りのスーパー鋸くんなどはレギュラーから一気にベンチウォーマーになるという不遇っぷりだ。

 まだある。俺はここ数日正和の煉瓦作成も手伝っていたのだが、なんと粘土➡煉瓦(各種)を身に付けていた。申し訳ないがこれで終わりではない。

 工具対象だった強化の魔法が自身作限定という条件付きではあるが、木材、煉瓦に対応するようになった。耐久性と強度があがる。さらに同じ条件で『接合』することが出来るようにもなったのだ! 正和からは携帯製材所から携帯工務店になったと言われた程土木、建築に関しては恵まれた状況になった。

 幸依は水を作り出す魔法に続き、出現した水を氷に変えて収納する荒業と火を操る力まで身に付けた。爺様曰く魔力関係に覚醒したといわれていたので天才魔法使いの誕生か!? と家族に騒がれたのだが、これは爺様の見立てが間違っていた。なんと幸依は『生産・家事』の方向性に覚醒していたのだ。

 つまり幸依の力も創造に類するという事になる。俺が『生産・建築』だとすると対と言ってもいいだろうか。アイテムボックスも当然それに則った変化をみせ、野菜各種が色々な形に切り分けられ、魚が三枚におろされたり、卵が卵白と卵黄にわけられたりと、全国の主婦の皆様が羨ましがるような性能をみせつけた。いや、男の俺からみても羨ましい。正和は、いまは携帯台所って感じだけど父さんの例があるからいずれ携帯食堂とかになると思う。と言っていた。確かにあり得ない話じゃないな。

 同じ創造系の力なら俺が工具を強化できるように幸依も調理器具が強化できるんじゃないかと思ったのだが、案の定できた。さらに俺と同じ『条件付き』の力も認められた。理由は分からないが食材の品質が上がるのだ。これは発生させた水にも当てはまった。当然食事の美味しさも跳ねあがり、家族は感動し、神(爺様)は......震えて泣いた。

 正和と華音は特に目立った覚醒は見受けられないように思えるが、元々活発だった華音は輪をかけて活発になったような気がする。正和は一家の知恵袋のような立ち位置になり、お互いの意見やアイディアをまとめ、実現案を出し、それを家族で実現させる流れができていた。実際に家の横には色んな技術を確立させるため、試験的に建設した暖炉付き木製ログハウスが完成間近だった。

 ニース周辺では奇妙な事件が発生中。ニースは三階の空き部屋の一つで飼っている。簡単な扉をつけて正和が作った『ニースの部屋』と書いた木の表札をつけてあったのだが、先日その表記が変更された。『ニースのふしぎなダンジョン』に。そのダンジョンのボスであるニースは相変わらず寝ていたり、何もない空間をみつめていたりするのだが、毎朝部屋に行くと不思議な事に今まではなかった物が増えているのだ。これまでに事務所に置いてあるようなイスや破れた靴の片方があった。

 先日段ボール箱が一つあり、中身がトイレットペーパー二十四ロールだった時は家族が大喜びしてニースの食事が豪華になった。ついでに大きめクッションもプレゼントしてニースは夜はその上で寝ている。ただの部屋なのだが、なぜか俺達の世界のものをランダムに運び込むみたいなのでダンジョン呼ばわりされている訳だ。正和は一日一回の無料ガチャとか言って楽しみのひとつにしている。

 今日も家族で作業していると、予期せぬ来訪者がやってきた。鳩くらいの大きさの全身がすごく綺麗なエメラルドグリーンの鳥だった。

「わぁ! すごく可愛い鳥さんだ。おいでー、おいでー」

 華音が腕を伸ばして呼びかけると、鳥は素直に腕にとまってキレイな声でさえずりはじめた。

「うわぁ可愛い可愛い! なんて言ってるのかなー。鳥さん、私は華音だよ」

 華音はメロメロだ。爺様は華音を喜ばせようとこっそり神の力を行使する。

「鳥よ、日本語を話すのじゃー」
「ほげるピれ!」
「「え゛?」」

 華音と爺様が同時に固まった。ああ! 鳥さんは日本語の概念なんて理解してないからこっちからすると『意味のわからない日本語』で鳴く鳥さんになる訳か。なるほどなー。

「るるりゲら!」
「ひぃ! こわい!」

 さっきまで可愛い可愛いと破顔していた華音だが、今は顔を青くして強張らせている。目の前でキレイな声で鳴く可愛い鳥さんが、いきなり意味不明な日本語で甲高く叫ぶ鳥さんになったら軽くホラーと言えるかもしれない。

「離れてー! あっち行ってよー!」

 華音は動転しているのか顔を鳥さんからそむけ、腕を必死に伸ばして自分と鳥さんの距離を離そうとしている。腕を振り払っちゃえばいいのにな。爺様は慌てて元に戻そうとしている。あ、鳥さん飛んでいった。

「怖かったぁ。......なんなのあれぇ!」

 爺様のせいです、はい。華音、鳥にトラウマ持たなきゃいいけどな。ちょっと面白かったけど。やっちゃった感を出してしょげている爺様を正和が慰めている。笑いをこらえながら。これは鳥さんに罪はない。

「○!※□◇#△!」

 ん? 今度はなんだ? 皆がそちらに視線を向ける。

「◎△$!×¥●&%#?」

 家族全員に緊張が走るのがわかる。もちろん俺にもだ。そこには......人を背負っている男がなにか叫びながらこちらに近付いてきていた。異世界人だ! 心の準備も色んな準備も出来ていないまま、未知との遭遇である。
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