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9話 パワーアップして伐採をしよう!

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 家は舞い降りた。森の中にブロック塀に囲まれた一軒家があるのはなんだかシュールな感じがする。その際、二階建ての我が家の外観はなんと三階建てに変貌を遂げていた。爺様が自分の部屋を増やしたからだ。同時に空き部屋もいくつか増えた。そして家族は力の制御を覚えるために裏庭に出てきた。

「ではまず上昇した身体能力を確認して貰おうかの」

 爺様はそう言って俺にジャンプの指示を出してきた。二十センチ程度跳びあがるつもりで、と付け加えて。俺は家族が見守る中、二十センチ程度のジャンプを意識して軽く跳んだ。......意味が分からない。いや、ジャンプの指示の事じゃない。なぜか三階建てになったはずの家の屋根が足元に見えるのだ。小さくなった家族も見える。

「は?」

 状況を把握した時には既に遅く、俺はバランスを崩し背中から落下を始めた。三階以上の高さから、だ。

「異世界で自分のジャンプで死ぬとかウソだろぉぉぉ!!」

 家族の悲鳴が聞こえる。最後に頭に浮かんだ事はこの世界って生命保険あるのかな? だった。

 ……あだだだだっ! 苦しい。息ができない。落下によるダメージか、だって? 違う。

「幸依苦しい! 大丈夫だから離れて」

 俺は泣き顔でしがみついている幸依をなだめながら引き離した。落下によるダメージは全くなかった。十メートル程の高さから落下した場合、地面との着地時の速度は時速五十キロ位になるはずなのに服が汚れただけで無傷とか。幸依が落ち着くのをしばらく待ってから、再び爺様の説明が始まる。

「正直すまんかった。あの程度で怪我をする事はないとわかっておったが、そなたらの常識で考えておらんかった。あんな光景を見せられれば取り乱すのも無理ないわい」

 爺様は再度申し訳ないと謝りながら、

「先に皆の耐久力を証明した方が良かったかもしれぬの」

 そう言いつつ爺様は手頃な石を拾って俺に渡してきた。

「その石を儂に思いきり投げつけてみるといい。何、儂は神じゃからなんの心配もいらんぞ」

 まぁ、爺様が言うからにはそうなんだろうけど、神に唾をはくどころか神に石を投げる行為を体験するなんて考えた事もなかったなぁ。

 
 ─洞口華音、後に述懐す。

「あれはね、投げるじゃなくて撃ち出すって感じだったよ。どかーんて」
「え? それじゃおじいちゃんは無事じゃすまなかっただろうって?」
「顔に当たったけど、石が粉々になっておじいちゃんはピンピンしてたよ」

 爺様は笑いながら言った。
 
「皆もこの状態じゃからこれで家族対抗雪合戦ならぬ、家族対抗石合戦ができるのじゃよ!」
「どこの戦国時代の部隊だよ! それに家族対抗ってのは家族対別の家族であって、家族が敵味方に別れる事じゃないから」

 それにまず石合戦なんてしないしな。うん、華音に早速ぶつけられた。確かに体は痛くはなかったけど、パパ的には心が痛かったかな。

 他にも石は握り潰せるわ、重そうな物を片手で持ち上げられるわで、スーパーマン一家と言っても過言じゃない状態になっていた。 今後は一家でこの力を周辺の開拓の為に使っていく事になる訳だ。まずは周辺の樹木を回収し、拓けた場所を爺様が造成の力で地形を変えていく、という流れになる。

 俺は趣味の一つである日曜大工セットを裏庭の倉庫から引っ張り出してきた。作業的に最初は伐採になると思うのだが、鋸はあるけど斧がない。これじゃ一本切り倒すにも時間がかかるだろう。

 どうしたものかと思ったが爺様がこの世界で使われている斧を出してくれた。俺達の世界の斧より大きくて厚みもあり、鉄製だった。重さもそれなりにあるだろうが、スーパーマンになっている俺に死角などなかった。俺はその斧を軽々と片手で持つと近場の樹木を目標にとらえる。一撃。......たったの一撃で斧が壊れた。

 ええい、異世界の樹木は化け物か! まぁ、実際は斧の方が瞬間的にかかる負荷に耐えられなかった訳だけど。

「お~い、爺様~?」

 爺様の方に死角があった。爺様はすまんすまんと言いながら、同じ斧をもう一本強化して渡してくれた。今度は無事に二撃で切り倒す事が出来た。今は子供達もやってみたいと言うので任せている。大木のはずなんだが、ばっさばっさと子供達に切り倒されていく。これが自然破壊か。幸依は倒された樹木を一人で持ち上げ、適当な場所に運んで積み上げていた。家族だけで森が丸裸にできそうだ。

「爺様、この大量の樹木どこに回収しようか?」
「やはりアイテムボックスに入れておくのが無難じゃろうな」

 アイテムボックス(通常)
使用者の最大魔力により容量は変化するものの、生物、大きい物、重すぎる物などは収納できない。液体や気体などを容器なしで保管する事も不可能。人族だと使える者の方が稀。

 アイテムボックス(爺様仕様)
使用者の最大魔力により容量、仕様は変化するものの、生物は収納できない。大きさ、重さの制限に縛りはない。液体や気体に関しては持ち主の特性により左右される。人族でこのタイプを所持している者は歴史上でも極稀。

 爺様はアイテムボックスの特徴と使い方を説明して、爺様仕様の物を家族分用意してくれた。これは確かにすごいものだと思う。爺様の気前もすごいと思うが。皆、その辺りの物を適当に出し入れしながら感動している。だが俺はさらにすごい事を閃いてしまった。

「なぁなぁ、爺様」
「なんじゃな?」
「これにさらに時間経過の概念を取り払う事とかってできないかな?」
「ふむ、アイテムボックスの空間内の時間を停止させるというわけじゃな。うーむ、出来ない訳ではないが、その部分にまで人を関与させると後々......」

 爺様は俺の狙いを察したようだ。だがなにか問題があるのか悩みながらぶつぶつ呟いている。しかし俺には切り札があった。今こそその切り札を使うとき! 俺のターン!

「いやー、実は冷蔵庫に晩酌用の白子があるんだけどこのままじゃ傷んじゃうなー。爺様にも分けてあげたかったけど」
「皆何をしておるのじゃ! アイテムボックスに機能を付け足すのではよう出すのじゃ!」

 神は堕ちた。俺と爺様が出会った居酒屋。爺様はお通しで出てきた白子に感激していたのを思い出したのだ。偶然とは言え、白子持ってて良かった。これで冷蔵庫の代用品が手に入った事になる。

 アイテムボックス(爺様+洞口家仕様)
中の空間では時間の経過が行われないため、収納した時の状態を維持する事が出来る。使用者の最大魔力により容量、仕様は変化するものの、生物は収納できない。大きさ、重さの制限に縛りはない。液体や気体に関しては持ち主の特性により左右される。現状、アイテムボックスの最上位に位置する。
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