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75話 正和、目覚め キョウレイ、再び勝利す

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 ここは天空にあるシロッコが住んでいた神殿の広間。 シロッコは正和の寝ている部屋は復活の際には狭いとして場所の移動を提案した。 成り行きを見守る村のメンバーが実際に行動をするシロッコとアリマを見つめている。

「さて、これから儂とアリマが正和君に魔力を循環させ必要な量を与えて回復させる」

 幸依やキエルらは頷く。

「じゃがアリマの内面には問題があり、その影響で我等は地形の一部を破壊してしまった」

 アリマは俯いている。

「儂の見立てでは正和君の身にはアリマの闇の魔力の残滓がある。 これに耐性をつける、もしくはこれを除去するには同じ属性、つまりアリマの力も必要じゃ」

 そして魔力を循環させる為には、シロッコ、正和、アリマが手を繋ぎ、輪になって行う計画だったと説明した。

「正直妾にはまだ不安がある。 魔力の調整よりもまた謎の影響で暴走する可能性が怖い」

 アリマは震えていた。 何よりも正和を巻き込み取り返しのつかない事態になってしまう事に恐怖を抱いて。

「うむ。 じゃから場所をここに変えた。 先程も言ったが理由は狭さ以外ない。 極論で言えば家の外でも構わん話でな? 暴走したエネルギーを隔離して村を守る為ではないのじゃよ」
「ど、どういう事かや?」
「簡単に言うと...... 神独特の思考。 それと出力と回路が問題だったのじゃ。 推測じゃが間違いないと思う」

 その説明はアリマや村の住人に理解されなかった。

「すまん。 この世界にはない概念の言葉を使った。 どう言うべきか...... 神は膨大な魔力を持つ故その使用魔力も桁が違う。 何が言いたいのかと言うと、蝋燭に魔法で火を灯すのにも一々魔力の適量などを無視してしまう思考を持つ者が神なのじゃ」

 まず蝋燭に火を灯す行為自体をやろうと考えないであろうがな。 と、シロッコは笑いながら言う。

「で、大量の魔力を一度に使用できるという事は、それを送り出す為の回路...... トンネルも巨大だという訳じゃ。 そこから第三者が神へ抱く印象は『膨大な魔力を大雑把に使う者』 となる」
「つまり?」

 アリマが怪訝な顔できく。

「お主が大量の魔力を一度に使用した時にこそ、暴走の条件が整うのではないか。 という事じゃ。 日常生活が問題ないのはそれが理由だったとすれば合点がいく」
「!! ......あ、じゃが妾は黒蟻相手に魔力循環の練習はしておったぞ? この行為、本当は暴走していてもおかしくなかったのではないかや?」

 アリマは不安な表情だ。

「儂に蟻と同じ事をして暴走したからじゃろう? それは神と蟻の魔力を通すトンネルの大きさの違いが原因だったんじゃ」

 入口も出口も巨大な神。 入口も出口も小さい蟻。 このふたつのトンネルが繋がっても送る量、受け取れる量、ともに限界がある。 これが逆に制限をかけてくれていたのだ。
 だからシロッコとアリマの場合には制限がかからず大量の魔力が移動し、暴走の条件を満たしてしまった。

「これらを踏まえると儂ら三人で魔力を一気に循環させるのは危険じゃが、間に黒蟻を配置し、蟻のトンネルに合わせて時間をかけて循環させる分には......」
「なるほど! 問題はないという訳じゃな! そして蟻を妾達の間に配置するという事は......」

 蟻は軽自動車位のサイズがある。

「そう。 だからここなのじゃよ」

 シロッコは両腕を広げて部屋の広さを示すかのように言い、周囲からは期待による歓声が上がった。


~ショウゲン邸~

 朋広はショウカを交えてショウゲンと色々話をして感銘を受ける。 ショウゲンもまた朋広の持つ概念に感銘を受け意気投合し、その間華音達は庭や池で時間を潰していた。

 そして空に星が見える頃。 ......しばらく夜空を見ていたショウゲンは占いに使う道具を動かす手を止め......

「星が示すのは探し物は見つからない結果でした。 そして道具の方でも同じ結果が出ています」

 神妙に言った。 落胆する朋広と華音。

「ですが......」

 ショウゲンは続ける。

「待ち人が現れるとも出ております」
「それはどういう意味でしょうか?」

 質問する朋広に対してショウゲンは言葉を選ぶ。

「探し物に関係する人物なのかどうかまでは分かりかねますが......」

 夜空を指差し

「北西の気運は一層強くなっております。 一度戻られてみてはいかがですか。 何か変化が起きるのかも知れません」

 所詮は占いですから都合の悪い事は気にしなくても構いませんよと付け加えショウゲンなりのフォローもした。

「そうですね...... 地図の方もかなり進みましたし、後は帰路を完成させながら一度帰ってみますか」
「私もあなた様方の相を見れた事、神に感謝いたしましょう」

 その言葉で朋広はシロッコの顔を思い浮かべる。

「ははは、神ですか。 会えたら伝えておきますよ。 ......あ、そうだショウゲンさん。 もし良かったら......」

 朋広は思い付いた事をショウゲンに話してみた。


~開拓村~

「う......」

 正和はうっすら目を開ける。 身体には魔力が循環しているように感じていた。

「ああ、正和」
「正和様! ううぅ」

 周囲から聞こえる音は人のどよめきとすすり泣く声と

「む、婿殿!」
「まだじゃアリマ! ここで気を抜いてはならんぞ」
「わ、わかっておる!」

 歓喜の声と叱責だ。

「ああ...... 僕は...... 戻ってきたんだな」

 正和はもう一度ゆっくりと目を閉じ、一言ぽつりと呟いた。


~人間領北東部・イザヤの町~

「よーし、あのデカブツは作戦通り町の中ではまった! これで建物が壁になり直接陣や兵を叩けんはずだ!」

 声を上げたのはオルウェンに協力するタッカー公配下の将ゼムオール。
 未知の兵器を封じるべくオルウェン側は大胆な作戦を選択した。

 ジラーフ平原で勝利したキョウレイ軍の進軍速度は驚くほど遅く、オルウェン側はこれを周囲の日和見勢力への示威行動と判断。
 その敗因の原因となった謎の兵器を封じるべく次の戦いの場に進路途中の町を選んだ。

 町の住人を全て避難させ、無人となった町に誘い込み、動きが制限された兵器を町の中に潜ませた軍勢に襲撃させ破壊する。

 その先鋒を任されたのがタッカー配下で剛の者と呼び声が高いゼムオール将軍だった。
 身長は二メートル半を超え、巨大なハンマーを軽々と振るいその一撃を受けた敵をそのまま叩き潰すような戦い方をする男だ。

「ハッハー! 大将達の読み通り! こいつは接近戦には弱いと見える」

 謎の兵器からは多少の攻撃はあるのか、取り付こうとする味方の兵士が倒れているがゼムオールが薙ぎ倒す敵兵の方がはるかに多い。

「この戦い勝ったぞ!」

 ゼムオールが兵達の士気を上げる。



「キョウレイ様! 戦車が町中で敵兵に囲まれ攻撃を受けています! 敵の先鋒はゼムオール!」

 だが偵察からの報告にキョウレイは眉ひとつ動かさない。

「ふん。 落とし穴でも用意してくるかと思えば小賢しい真似を」

 キョウレイの言葉にショウホも同意する。

「町を囲いに使う点はともかく、動かされた住人がどう転ぶかは興味があります」
「......なるほどな。 町への被害はなるべく出さぬようにせよ」

 二人の会話に側近の将、ミークは首を傾げる。

「あ、あの閣下、軍師殿。 おそれながら。 戦車の危機はどうなされるのですか? ゼムオールの名は我が国にも届いております。 厄介な相手だと思いますが......」

 キョウレイは意に介さない表情のまま

「どうもせぬ。 あれは弾が無くなれば役に立たなくなるのは分かっている。 長く使うつもりはない代物よ。 それに元々あれは副産物に過ぎん」

 と言い、続いてショウホが説明を加える。

「戦車周辺の敵兵が壊滅するのは時間の問題ですから心配はいりません」
「軍師殿、それはどういう......」
「ふふふ。 すぐに分かります」


 戦車を潰そうと突撃をかけるゼムオール。
その巨大なハンマーを振るい強引に道を開いていく。

 だが戦車とゼムオールの間に一人の男が立ちはだかる。
 その男も長身ではあったが線は細く、巨体で筋骨隆々のゼムオールに比べるとどうしても小柄に見えてしまう。

「ハッハー! この俺の前に立ち塞がるか。 そのデカブツをガラクタに変える前に貴様も肉塊に変えてやろう!」

 ゼムオールは渾身の一撃を放つ。
対峙した白い長髪で線の細い男は右手に持っている青龍偃月刀でそれを受けようとする。

「馬鹿め! そんな物でこのゼムオール様の一撃を防げるものか。 潰れて後悔するがいい!」

 この戦場で最も甲高い音が響き渡った。


「ショウホが本命として遺跡から探しだした自動人形とやらの実力、見せてもらうぞ」

 キョウレイとショウホの期待した戦力。
 それは......


「ば、馬鹿な。 俺の一撃を...... 片手で止めるだとぉ!?」

 焦りの表情のゼムオール。
反対に対峙した男は涼しい顔だ。
 ゼムオールは力を込めて押しきろうとするが、相手を全く押し込む事が出来なくて驚く。

「こ、こいつ。 この体のどこにこんな力が......」
「力比べがしたいのか? なら今度は俺の番でいいか?」

 言うが早いかゼムオールのハンマーを弾きあげ、同じように青龍偃月刀をゼムオールに向かって降り下ろす。

「く、くうぅ!」

 ゼムオールはハンマーの両端を両手で持ちかろうじてその一撃を防いだ。

「ぐううぅ!?」

 ゼムオールは驚愕し目を見開く。
相手にそのまま力で押し込まれ身動きが取れなくなった事実に。

「き、貴様はいったい......」
「ゼムオールか。 いい名前だ」
「な、なに?」
「その名、今後は俺が使ってやろう」
「ぐ、ぐうぅ。 がああぁ!」

 ズシャリ。 その男はハンマーごとゼムオールを両断した。

「一号では格好がつかないと考えていたが...... もう聞こえていないか」

 この光景を見たオルウェン軍の兵士達は恐慌状態に陥りキョウレイ軍に打ち破られた。
 オルウェン軍はまたも敗戦したという事になる。

「向こうは先の敗戦もあって戦車を脅威と認識し潰しにくるだろう。 ......だが、その出てくる兵こそこちらの狙いなのだ」
「はい。 一号がやってくれたようです。 戦車を囮に敵の兵士を目的とし殲滅。 こちらと相手のパワーバランスを更に崩す作戦...... 成功しましたね」
「一点しか見ぬから他へ盲目になるのよ」

 キョウレイはミークを見て指示をだす。

「この戦いの結末も周囲に噂として流せ。 町への被害も極力避けた点も踏まえてな」
「これで日和見を決め込んでいる輩への決断材料は与えられたでしょう」
「これで余につかねば待っているのは滅亡だけだがな」

 キョウレイは笑った。
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