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73話 朋広、ショウカの師に会い 三号、王都を見つめ異変を探す

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 朋広達はショウカの案内で遂にその師匠が住むという街に到着した。

 王都の南にあるその街は都ほどではないにしろ結構活気のある場所だ。 港もあり市場なども繁盛している。 だがショウカの師匠が住む家は中心部からは離れているとの事だった。

「師匠は静かな場所の方を好みますので」
「まぁ、占いをするなら騒がしいより静かな方が集中できるでしょうからね」

 そんな会話をしながら進んで行くと妙に浮いている景色の一角が見えてくる。

「あれ? あそこだけ随分和風テイストな建物の感じが......」

 朋広はなんだか懐かしさすら感じた。

「ここが師匠の住む屋敷です」

 どうやらこの和風テイストな建物がショウカの師匠の住む場所のようだ。
 土壁に木製の門。 入口は威圧感のある武家屋敷のように朋広は感じた。

「立派な門構えだなぁ」

 そしてその立派な門は固く閉ざされ、中心には何やら紙が貼ってあるのが見てとれた。

『本日は 苦しくも来客予定のため 占星術は行わず。 市場にいる可能性あり。 二刻程で戻る予定。 この場合市場においても占いはせず。 居ても約束のない面会は不可』

「うわ! まさかの文字通り門前払い!」

 朋広は声をあげる。

「どういう事? パパ」

 華音がきいてくるので

「ショウカさんの師匠は来客の予定があるみたいだ。 市場にいるかもしれないけど占いはできないし、約束のない相手とは会えないって」

 と、説明した。

「ええ! ここまで来たのにー」
「どうしますか朋広様。 宿をとって日を改めますか?」

 愚痴る華音。 朋広はサオールの提案に同意する。

「そうだね。 木板に伝言を書いて残しておこうか」

 だが貼り紙を見ていたショウカがそれに待ったをかけた。

「その必要はありません朋広様。 師匠は会う気がないのではなくてその逆です。 ご案内しますのでついてきてください」

 そういって土壁沿いに歩きだす。

「ど、どういう事ですショウカさん? 約束している来客に対応するため市場で買い物とかしてるんじゃないんですか?」

 ショウカ以外は頭にハテナマークをつけている。

「来客を断りたいのは事実でしょう。 しかしそれは朋広様達が来られて会っているのを邪魔されたくないためです。 どうやら師匠は皆さんに会える事を待っていたようですね」
「でもあの貼り紙にはそんな事書いてなかったでしょー?」

 ニコニコ語るショウカに華音が質問し、他のメンバーもウンウンと頷く。

「師匠にはひとつ困った癖がありまして、謎かけやイタズラが好きなんです。 あの文の中には別の意味が隠してありました」
「別の意味...... ですか?」
「はい。 貼り紙の各文章の頭だけ取り出すと『ほ、く、せ、い、に、こ、い』 つまり北西で待っている。 になります」

 ショウカは続ける。

「先程の正門から見て北西は裏手にあたり......」

 道の一角を曲がると土壁は生け垣へと変わった。

「これは生け垣! 垣根もある! 竹と植物を器用に組み合わせている。 ......いい趣味だな。 まさかこんな所で生け垣や垣根を見る事ができるなんて」

 生け垣は土壁程高くなく、中の風景も朋広達に見えた。

「家はなんだか時代劇で見る峠の茶屋って感じだ。 本当に和風テイストすぎるんだが」

 だが朋広にとって驚くのは家だけではなく、整然と配置された植物や畑にも目を奪われる。

(これはまるで庭園だ。 この世界の住人にこんな知識と技術があるのか? だとしたらショウカさんの師匠はとんでもない人物だぞ)

「あ、パパ池があるよ! ......なぜかお庭の池で釣りをしている人がいるんだけど......」
「ふふふ。 その池が正門から見て北西にあたるのです華音様。 ......師匠。 ご無沙汰しております」

 ショウカは垣根越しに釣りをしている人物に声をかけた。 その釣り人はこちらを振り向くと......

「おお。 ショウカですか。 そろそろ来る頃だと思っていましたよ。 裏門からこちらにおいでなさい」

 丁寧な物腰で朋広達を迎え入れてくれた。

 男の名はショウゲン。 齢六十を超え、長い白髪を束ね好好爺な感じの細目の老人である。 妻はいたが子はなく、妻亡き後は身寄りのない子供を弟子として引き取り育てた。

 色々な知識、技術に精通しており、中でも占いや易関係を得意とする。 その名声から王都へもよく足を運んでおり、身分や立場のある者に頼まれ運勢を見たりしていた。

 ちなみに王都でリンの剣難の相を見抜き助言を残したのもこのショウゲンである。

 育てられた弟子達もその知識や技術を受け継ぎ各地で独り立ちしていた。 その一人が逸材として注目を浴びたショウカだった。

「ほら。 こういうイタズラをする人なんですよ」
「本当だ。 まさかの暗号クイズだったとは...... 出直さなくて良かったんですね」
「あ、じゃあ華音も知ってるのがあるよ!」

 朋広が呆気にとられ華音は木板を取り出しマジックで何やら書きはじめた。

「はい、ショウカさん」

 華音はショウカに木の板を渡す。

『ショウカたさんたのしたたしょうはイタズラた好きた。 ヒント=たぬき』

 朋広が横から覗き込み、あーなるほどと言っている。 だがショウカは真剣な顔をして悩みはじめた。

「ヒント? ですがこれはすでに正解を示唆しているような......」
「あれ? ヒントは動物のたぬきだよー」
「いや、そんな動物は知りませんが、たを抜けば良いのでしょう? しかしそうするとイタズラのタを抜いてしまってよいのか悩んでいました」

 なんとショウカはたぬきを知らずに問題を解いていた。 だからヒントではなく正解が最初から教えられていると思ったのである。

「え? あ! そのタは抜いちゃだめ! 華音うっかりしてたよ」
「ショウカさんがたぬきを知らないって事もな」
「うー」

 華音が慌てて朋広がからかう。

「『へ』抜きとか『も』抜きっていう方法も問題としてはありなんですか?」
「へ? 動物とか道具とかで皆が知っている名前があるならヒントとしてはありですね」
「なるほど...... 私の師匠はイタズラ好き、ですか。 ふふふ」
「えへへ」

「お、おいらも何か考えてみよう」
「わ、わたしも」

 朋広達とショウカが和気藹々としている姿をショウゲンは見ている。

「......よい主君に巡り会えたと見える」

 ショウゲンは自分の釣竿を脇へ置き朋広との対面に備えた。


「師匠。 私達が来る事をご存知だったのですか」
「ええ。 占いにも出ていましたが近日中にくるであろうとね」
「そうですか。 では私が主君を得た事も師匠を訪ねた理由も?」
「ええ。 大体は把握していますよ。 都では大活躍だったそうですね。 そちらの方が朋広様ですか。 なるほど、よい相をしておられます」

 ショウゲンは朋広に挨拶をする。

「え? 占いってこんなに詳細な事まで分かるものだっけ。 やだ怖い」

 朋広はこれはご丁寧に。 と返すつもりが本音の方を口にしてしまった。 それに好奇心の塊の華音が便乗する。

「はじめまして。 娘の華音です。 その魚釣りで占いをするんですか?」
「お、おい華音! さすがにそんな訳」

 便乗した華音を朋広が否定しようとしたが

「魚釣り...... ええ。 よくわかりましたね、その通りです。 釣れた魚で結果が分かるのですよ」

 ショウゲンは温和にニコリと微笑む。

「......まじですか」
「「「す、すごい!(すげー!)」」」

 朋広が言葉を失い子供達は騒ぐ。

「ちょっ! 師匠! この子達を変に惑わせないでくださいよ」
「いやいや。 この子達が可愛くてつい、ね」
「え? 魚釣り占いじゃないの?」
「違いますよ華音様。 釣りではせいぜい釣れた魚の飯時の調理法くらいしかわかりません」

 釣り占いを否定したショウカはある一点を指差す。

「華音様、あちらを」

 指し示された先には華音も知っている鳥さんが垣根にとまって羽繕いをしていた。

「あ、あの鳥さんは!」

 ショウカが持つ鳥籠の中にいる鳥さんと同じ仲間だ。

「脚の部分を見れますか?」
「うん、見れるよ! あ、何か筒みたいなのがついてる」
「中には手紙を入れるんですよ」

 ショウカはショウゲンに向き直り

「姉さんから知らせが来ていたのですね」
「ええ。 ショウランもかなり貴方達に肩入れしてるようですね」
「まぁ...... 早く合流させろとせっつかれてはいますけど」

 困ったような、照れているかのような表情でショウカは師匠に受け答えをする。

「あなたが主君を得たという事にも驚きましたが、まさかショウランまでもが同じ人物に興味を抱くとは予想すらしませんでしたよ」
「姉さんの場合は色々と思惑が絡んでいるだろうとは思いますけどね」

 苦笑いしながらショウラン(ペンティアム)とのやりとりを思い出すショウカ。
 ショウゲンは朋広を見て言う。

「以前都の上空から北西に向かって星が流れました。 天文によれば都の運気が下がり北西で隆盛の兆し。 私はこれを現王朝の衰退と新王朝の誕生と読みましたが、我が弟子が力を貸しているというのであればそれも頷ける話です」

 朋広は焦る。

「!? 私は王朝なんて興すつもりはないですよ? 息子を回復させるために動いてるだけでその後の事はまだ深く考えてませんし」

 ショウゲンは一瞬その言葉に驚いたが、

「なるほどなるほど。 貴方の様な方にお会いできるとは。 私も昂る心を抑えるためにここで釣りの真似事などをしておりましたが、どうやら間違いではなかったようです」

 釣糸の先に針はついていなかった。
ショウゲンははやる気持ちを落ち着かせるために池に釣糸を垂らしていたのだ。

 と、いうのもこれもショウゲンの占いに起因する。 ショウゲンは以前一人でショウカが理想とする主君に出会えるか占った事がある。 しかしその時の結果は出会えないと出た。 

 当時朋広達はまだシロッコとこの世界には来ていない。 つまり朋広達の出現の前と後ではいくつかの運命を変えてしまったに等しいとも言えるのだ。 当然ショウゲンの占いは外れた事になり、極論で言えば彼が見た王都の上空の流星も本来なら出現しなかった可能性もある。

 しかしショウカばかりかショウランまでもが同じ人物に興味を抱いた事実はショウゲンが高揚するには十分過ぎる理由だった。

 ショウゲンは真面目な表情で朋広に伝える。

「貴方様の探し物の行方は夜、星を読む事とあわせて占いましょう。 それまではあばら屋で申し訳ありませんがここでゆっくりしていただきたいと思います」
「あばら屋なんてとんでもない! これ程の庭園を見たのは初めてですよ。 よければ色々とお話を聞かせてください」
「おお。 気に入っていただけたならよかったです。 こちらでは見ない趣でしょうから不安になっておりましたよ」
「いやいや。 実は私はこういう方が好みでして」

 朋広はテンションが上がり、ショウゲンが何気なく発した一言を気にも留めなかった。


~王都~

 街を見下ろしている猫は三号である。
 (ミストからの)名前はまだない。

 朋広達が王都を離れて以降、街に出られないミストの代わりに猫のフリをして見回りをするのが日課になっていた。

 犯罪者集団は今の所問題を起こさず朋広...... ショウカと交わした約束を守っている。 まぁ、集団が集団なだけにある種の問題は連日起こしているのだが。 

 基本的にはいつもと同じ日常。

「今日も報告できる事はなさそうだな。 そろそろミストの所に戻るか」

 屋根伝いに歩き始めた三号の側を一羽の鳥が飛んで来てすれ違う。 それを視界の角に捉える三号。 だが特に気にかける様子はない。

「うん?」

 ......はずだった。

 慌てて振り返る。 先程の鳥の姿はすでに見失っていた。

「今の鳥...... 脚に何かついていたような......」

 三号はしばしその場で考え判断を下す。

「どうやら帰るのは少しばかり遅くなりそうだ」

 そう呟き、先程の鳥が飛んで行ったと推測できる方向に三号は走り始めた。
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