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第四話 電車内の亡霊:言ってはいけない。

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 第四話 電車内の亡霊:言ってはいけない。

 顔は血色がなく蒼白く目は窪み、黒く覆われ眼球は全く見えない。
 不気味な顔で俺を指さしブツブツと何か言っていた奇妙な女。
 脱線事故のモノレールで『あの女』に出会ってから数日後。
 俺は気になり、噂話をしていた看護師を捕まえ問い詰めた。

 訊けば、病院内で赤い光について噂が出たのが数か月前。
 ある看護師が電車の窓から不思議な光が見えると言い出した。
 その揺らめく深い赤はまるで血液の様な表情を見せていたと言う。
 そして気がつくと自分の肩に『指』がかけられているらしい。
 あまりの怖さに振り向く事は出来なかったが、それは猿のような長い指。
 不安になって周りに相談したが院内のイジメにあって曲解された言う。
 日頃、彼女に嫉妬していた先輩看護師が嘘の噂を流したのだ。

 『彼女は仕事のやり過ぎで精神障害を患っている』

 そんな根も葉もない噂が広がり、誰も彼女の相談に乗ろうとしなかった。
 病院側もオーバーワークが発覚する事を恐れて見て見ぬふり。
 彼女は精神的にも追い込まれ次第に発言も狂気的になって行った。

 「それで彼女はどうなったんですか?」

 「分からないわ。
  だって彼女は失踪してしまったから……」

 訊けば彼女は、嘘をついていないと証明すると言って失踪したらしい。
 噂では証拠を撮影して動画を投稿サイトに上げると言っていたとか。

 『血の様な赤い光』
 『肩を叩く猿の様な長い指』
 『指を指す女』

 結局知りたい事は何一つ分からなかった。
 俺は諦めて帰りのモノレールへ乗った。
 (窓の外を見なければ大丈夫)
 ブラインドを下げ外の風景が見えないようスマホを取り出し下を向く。
 ふと思い出して動画投稿サイトを開く。

 『赤い光』
 『猿の指』
 『モノレールの女』

 色々検索するが手掛かりは出て来なかった。
 (うーん。手掛かりなしか。)
 考え方を変えて教えて貰った名前で検索してみる。
 数珠繋ぎで数回進んだ後で気になるタイトルの動画がヒットした。

 『絶対に言ってはいけない』

 投稿者名が同じ名前。
 再生回数は数える程しかないがタイトルの画像が血液のような赤い光。
 『あの風景』だった。
 それは実際に見た人間にしか分からない血液のような赤。
 (コレは……)
 直観的に胸騒ぎがして思わずクリックする。
 
 「今晩はっ、これから……」

 動画を見ると電車内で若い女性が自撮りをしている。
 少し斜め上からの引きの映像。
 シートに腰掛ける彼女の全身と共に電車内の風景も映っている。
 特徴的な丸い窓に向い合せのシート。
 まさにそれは今自分が乗っているモノレールの風景だった。
 内容はやつれた女性が興奮気味にあるモノを撮影すると言っていた。
 本人のテンションばかりが高い、ただ車窓を永遠と撮るだけの動画。
 コメントもなく無言。
 ハァハァと荒々しい鼻息だけがマイクに入っている。
 再生回数が少ないのも頷ける。
 ただただ垂れ流しの車窓動画。
 編集をする事なく長時間撮り続ける理由。
 多分それはこれが加工ではなく『本物』だと証明したいからだろう。
 暫くすると女性が興奮気味に叫び出した。

 「ほらっ、ほらっ、出た赤い光。
  皆さん見えますか?
  本当だったでしょ。」

 そう興奮して叫ぶ彼女の声とは裏腹に動画には何も映っていない。
 それにも関わらす彼女は頻繁に振り向きカメラに向かって叫んでいる。
 すると突然、カメラの風景が電車内に切り替った。
 完全な撮影ミス。
 一列に人が座る向かいのシートばかりが映り、後頭部しか映っていない。

 (おい、おい、何やってんだよ。
  素人だなおい。
  自撮りも満足に出来ないのかよ。)

 俺はそう思いながらも、ゆらゆらと揺れる後頭部の横に映る変なモノ。
 頻繁に画像が揺れる為、確認しづらいが彼女の肩だろうか。
 シワシワの黒茶色の物体が写り込んでいるのが見えた。

 「……っ?」

 動画を一時停止して拡大してみる。

 それは黒茶色のミイラのような指。
 妙に長く人間のモノではなかった。
 最初は指先だけが映っていた。
 動画で赤い光の事を言う度に、スーと指が首筋に伸びて絡みついていく。
 彼女はそれに気がついていないのだろうか?
 次第に彼女の話す声が枯れていく。
 そこで突然、動画は終わった。

 意味が分からなかった。
 彼女は疑いを晴らす為に動画を捏造したのだろうか?
 (それにしてはチープ過ぎる)

 何かモヤモヤとしたこの感覚。
 まるで大事な何かを見落としている気がした。
 もう一度、今見た風景を最初から思い出す。

 (……あっ)
 ある事に気がつき背筋が凍る。

 「これは誰が撮影している?」

 思わず俺は口に出して呟いた。
 彼女全体が映る程の斜め上からのアングル。
 窓を背に座っているのに彼女の後頭部を映すアングル。
 どれもこれも自撮りの域を越えている。

 「〇×△◇■□」

 その瞬間、寒気と共に強烈な視線を感じて思わず顔を上げた。
 『あの女』が立っていた。
 以前と同じように俺を指さして首を振って何が呟いている。
 いや違う。
 俺を指さしているんじゃないっ。
 その指は俺の後ろを指さしていた。
 『ドサッ』
 俺の肩に何か重いモノが乗せられたが怖くて見る事が出来ないっ。
 その冷たいモノはゆっくりと俺の首筋に伸びて来る。
 女は俺の背後を指さしながら近づいてくる。
 近づくにつれて女の言葉がはっきりと聞こえ始めた。
 
 「〇×△◇■□
  〇って△い■ない。
  〇ってはい■ない。
  赤い光のコトを言ってはいけない。」

 消毒液だろうか独特な香りが微かに舞った。
 遠のく意識の中で、俺は気がついた。
 蒼白い黒く覆われた眼球の指差す女。
 それはさっきまで動画に映っていた看護師だった。
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