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第三章 死神VR

第十五話 カツラギの野望

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 第十五話 カツラギの野望


――ルプリ公爵邸 応接室――

 辺りにはほんのりと甘い香りが漂っていた。

「それでは、夢の中の王子の行方はまだ分からないのですね。」

 カツラギはティーカップを差し出すと、探るような眼差しでリプルへ訊ねた。

「ええ、あれから夢の海にも現れず、行方が分からないんです。」

 私は紅茶を受け取りながら困り果てた顔で答えた。
 先日のシフォンの突然の失踪。
 聖杯の扉を潜り何とか戻って来れたが

 『あなたのユーザIDの使用期限は残り七日間です。』

 あの謎のメッセージが少し気になっていた。
 (一体あのメッセージは何だったのだろう。)
 口元に手を当てて考え込んでいると、思いもかけない言葉が突然に届けられた。

「そうですか。
 実は旦那様、いや『天音 さくら』さんへ折り入って御相談があります。」

「えっ……。」

 カツラギ様の思わぬ言葉に私は耳を疑った。
 『天音 さくら』
 それは私の本当の名前だった。
 皆に愛され幸せな毎日を送っていると忘れてしまうけど、私はこの世界の人間ではない。
 『天音 さくら』久しぶりに聞く自分の名前。
 (でもどうしてカツラギ様がその名前を……)
 不思議な顔で見つめていると、視線に気がついたカツラギが慌てて手を振った。

「そんなに警戒しなくても大丈夫です。
 私は貴女を助けに来たのですから……。
 申し遅れました。
 私はカツラギコーポレーション CEO葛城と申します。
 この度は弊社トラブルに貴女を巻き込んでしまい大変申し訳ございません。
 また、今まで素性を隠していた事をお許し下さい。」

 そう言うと椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。

「えっ、トラブル?
 巻き込まれた?
 一体どうゆう事なんですか?」

 カツラギ様の突然の言葉に私は半ばパニック状態になっていた。
 訊けば、この世界はカツラギコーポレーションが作った乙女ゲーム
 『シンデレラ プリンセス~運命的なキラキラ~』の中だと言う。
 現在『シンデレラプリンセス』のプログラムは原因不明のエラーによりロックダウン。
 『死神VR』という謎のAIにより乗っ取られかけていると言う。
 幸運にもプログラマの気転でAI駆除システム『VR眠り姫』を起動し拮抗状態。
 現在は、昼夜を問わず必死の奪還作戦を決行中。

 分析チームの解析から現在分かっている事は二つ。
 ・『死神VR』がリプルというヒロインへ異常な程アクセスし執着している。
 ・王子キャラのどれかのアバターを借りてゲーム内へ侵入している。
 
 この事から必ず死神はリプルへの接触を試みると思われる。

「当初、死神の目的は全くの不明。
 どうして一般人の貴女がゲーム内に拉致され、毒を盛られたのか?
 私共が事態を把握した時には貴女は昏睡状態で大変危険な状態でした。
 その為に我々兄弟はずっとこの世界で慎重に潜入捜査を行って来ました。
 それは奴がどの王子に化けてシンデレラプリンセスへ潜入しているか?
 それが分からなかったからです。
 我々の目的はただ一つ。
 『死神をゲーム内で暗殺しゲームを奪還するコト』
 死神の駆除さえ出来ればシンデレラプリンセスのロックダウンは解除される。
 当初、私は死神は貴女に毒を盛った犯人ではないかと思っていました。
 何故なら貴女がこの世界へ強制ログインさせられたのも……
 呪いをかけられて眠りについたのも……全て死神の仕業だからです。」

「それは一体どうゆう事ですが?」

「つまりは貴女を殺しに来る……そういう事です。」

「……っ、私に毒を盛った犯人が死神で私を殺しに来る?」

「だが調べる内にどうやらそうではないらしい。
 貴女が眠りの呪いにかかったのは我々のAI駆除システム『VR眠り姫』のせいでした。
 結論を言えば、私は死神は夢の中の王子『シフォン』ではないかと考えています。
 どうやら死神は貴女に恋心を抱いているらしい。」

「えっ、シフォンが死神?」

 私は激しく動揺した。
 (あの優しいシフォンが死神?)
 暖かい抱擁も、情熱的な口づけも、あまりにリアルでプログラムとは思えなかった。

「しかしながら、シフォンが消えた今となっては、それももう終わりました。
 情報を保持出来なかったのか?
 我々が放ったAI駆除システム『VR眠り姫』によって駆逐されたのか?
 後は、さくらさんがこのゲームを終わらせて離脱するのみです。」

「ゲームを終わらせる?」

「はい『シンデレラ プリンセス~運命的なキラキラ~』は乙女ゲーム。
 つまりは誰かの愛を受け入れてクリアしていただければ元の世界へ戻れます。
 ただ、お急ぎ下さい。
 さくらさんの使用しているテスト用ユーザIDの使用期限は残り七日間です。
 七日が過ぎると自動的にIDは失効し消滅いたします。
 一度BANされたデータは再使用不可能。
 この世界での死を迎え、二度と元の世界へ戻る事は出来ません。
 さくらさんは誰の愛を受け入れてクリアされますか?」

 (えっ、そんな急に誰かを選べと言われても)
 ふと、幼馴染のニット、フライス第二王子、タフタ兄様達の顔が浮かんで来る。
 みんな優しくて大好きだったけど、私は、やっぱりシフォンのコトが好きだった。

「あっ、あのっ、
 シフォンは本当に消滅してしまったのでしょうか?」
 
 そう訊ねる私にカツラギ様は自信を持って答えた。

「はい。
 全ての王子キャラを調べましたがAI反応がありません。
 死神は完全に消滅いたしました。
 御安心下さい。」

「……っ、そんな」

「それでは、最終イベント『王国求婚舞踏会』を発動いたします。」

 カツラギがそう宣言すると『シンデレラ プリンセス~運命的なキラキラ~』
 最終イベントプログラムが起動した。
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