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第二章
消える!
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電話の主はだれ?
ランは一方的に切れた電話に対して不安を募らせた。聞いたことのあるような声だったが……。自分の名前を知っている人物? そして、『すべて消える』とは……どういう意味なのか? コードレスの受話器をテーブルに置いたら、恐怖が一気に脳裏を覆った。
得体の知れない不安が過り、独り、家の中に佇む。周りを見回しても特別な変化はない。
いや、待て、そう言えば……。ランは立ち上がり、改めてキッチンへ入った。
母親の姿が急に見えなくなったことを思い出した。ランは家中を探し回ったが、やはり母親の気配はない。更に心に大きな不安が覆って、ランは涙が溢れてきた。『消える』という言葉と、母親がいなくなったことは関係があるのであろうか。
まるで幼児がぐずるように家中を回ってみたが、母親の姿はない。
きっと買い物に出掛けたんだ。きっとそうだ。
ランは自分にそう言い聞かせた。しかし、更にその不安を煽るかのように、違和感を覚えた。何かが違う。経験のない違和感……。ランに新たな恐怖が襲ってきた。
何かが違う。
ランは耳を澄ませた。
静かだ。そう、静かなのだ。静かすぎるのだ。住宅街だから静かなのは当然なのだが、『静か』とは違う。ランは気が付いた。『沈黙』、『無音』……まったく音という音がないのだ。ランは床を踏みつけた。音が……しない。鼓動が早まった。今度はもっと乱暴に踏みつけた。やはり、音がしない。さきほど母親が用意してくれた紅茶のティー・カップをロー・テーブルの上で鳴らしてみたが、同じだった。ランは耳がおかしくなってしまったと悟った。そして、耳を両手で覆った。耳栓をされた感じだ。電話を切った直後に耳が聞こえなくなってしまったようだ。
もしかしたら、どこかで母親が自分を呼んでいるかもしれない。でも、自分が聞こえていないのではないか? そう思い、ランはカーテンを開け、窓から庭を臨んだ。すると、塀の上に不思議な光景を見た。空がないのだ。ランにとって、これ以上の表現の仕方は思いつかなかった。そして、さらに目を細めた。塀の上の見えるはずの近くの空は、西日のせいで若干赤く染まって見えるのだが、遠方に見える空の位置には何もないのだ。闇でもない、ただ何もないのだ。
ランは手荒にカーテンを閉め、二階に駆け上がった。その間も無音が続いていた。沈黙の中で自分の息使いさえも聞こえない。そして、自室のベランダに出た。ベランダから見える風景は見慣れた風景だったが、動きがない。動いている物も、そして人影もまったくない。やがて、遠方の風景が白い靄のように徐々に霞んでいくではないか! そして、ある一定の割合で風景がざっくりと消えていく。音はないが、まさにザク、ザクと抉り取られていくように消えていく。ランは無音の叫びを上げた。口だけが大きく開いた。目が霞んでいくように見えるが、実際には風景がざっくりと削りとられて、白い闇に覆われているよう見えるのだ。そして、そのあとの光景は霧や雲、煙でもなく、まさに霞んでいくのだ。
ランは一方的に切れた電話に対して不安を募らせた。聞いたことのあるような声だったが……。自分の名前を知っている人物? そして、『すべて消える』とは……どういう意味なのか? コードレスの受話器をテーブルに置いたら、恐怖が一気に脳裏を覆った。
得体の知れない不安が過り、独り、家の中に佇む。周りを見回しても特別な変化はない。
いや、待て、そう言えば……。ランは立ち上がり、改めてキッチンへ入った。
母親の姿が急に見えなくなったことを思い出した。ランは家中を探し回ったが、やはり母親の気配はない。更に心に大きな不安が覆って、ランは涙が溢れてきた。『消える』という言葉と、母親がいなくなったことは関係があるのであろうか。
まるで幼児がぐずるように家中を回ってみたが、母親の姿はない。
きっと買い物に出掛けたんだ。きっとそうだ。
ランは自分にそう言い聞かせた。しかし、更にその不安を煽るかのように、違和感を覚えた。何かが違う。経験のない違和感……。ランに新たな恐怖が襲ってきた。
何かが違う。
ランは耳を澄ませた。
静かだ。そう、静かなのだ。静かすぎるのだ。住宅街だから静かなのは当然なのだが、『静か』とは違う。ランは気が付いた。『沈黙』、『無音』……まったく音という音がないのだ。ランは床を踏みつけた。音が……しない。鼓動が早まった。今度はもっと乱暴に踏みつけた。やはり、音がしない。さきほど母親が用意してくれた紅茶のティー・カップをロー・テーブルの上で鳴らしてみたが、同じだった。ランは耳がおかしくなってしまったと悟った。そして、耳を両手で覆った。耳栓をされた感じだ。電話を切った直後に耳が聞こえなくなってしまったようだ。
もしかしたら、どこかで母親が自分を呼んでいるかもしれない。でも、自分が聞こえていないのではないか? そう思い、ランはカーテンを開け、窓から庭を臨んだ。すると、塀の上に不思議な光景を見た。空がないのだ。ランにとって、これ以上の表現の仕方は思いつかなかった。そして、さらに目を細めた。塀の上の見えるはずの近くの空は、西日のせいで若干赤く染まって見えるのだが、遠方に見える空の位置には何もないのだ。闇でもない、ただ何もないのだ。
ランは手荒にカーテンを閉め、二階に駆け上がった。その間も無音が続いていた。沈黙の中で自分の息使いさえも聞こえない。そして、自室のベランダに出た。ベランダから見える風景は見慣れた風景だったが、動きがない。動いている物も、そして人影もまったくない。やがて、遠方の風景が白い靄のように徐々に霞んでいくではないか! そして、ある一定の割合で風景がざっくりと消えていく。音はないが、まさにザク、ザクと抉り取られていくように消えていく。ランは無音の叫びを上げた。口だけが大きく開いた。目が霞んでいくように見えるが、実際には風景がざっくりと削りとられて、白い闇に覆われているよう見えるのだ。そして、そのあとの光景は霧や雲、煙でもなく、まさに霞んでいくのだ。
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