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第二章 「魔法少女は報われない」
第七十七話 「終結」
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冷たい風が頬を撫でる。天井があった場所には、ぽっかりと突き抜けるように開いた空間。そこに映えるのは、青空とオレンジ色のちょうど中間色をした細長い雲。
綺麗な夕暮れの空を眺めながら、クラシックコンサートは昼からだったから、時間的にはもう夕方になるんだなぁと思い至る。
(みんな、無事に元の世界に戻れたのかな…)
人の気配の全くない世界。ピキピキという不快な音とともに広がる無数の亀裂。崩れゆく世界はどこか幻想的で儚げだ。
次々と背景が映り込んだステンドグラスのような綺麗な欠片が、パラパラと剥離するかのように砕けていく。
大の字になって、クレータの中心と化した固い地面に転がる。
――にしても、あのタヌキ野郎。これは、聞いてないぞ。
酷い眩暈のような症状と、半端ない倦怠感。もう一歩も動けそうもない。
最後に世界が壊れるって?……あのオカマ野郎、実は世界最強を気取る宇宙人だったのか? 戦闘力53万だったのか? 別に俺、元気な玉は放ってないよ? それと、元気な玉はもう持ってないよ? このまま、この世界が壊れたら、俺、どうなるんだ? 帰れるのか?
ひときわ大きな欠片が剥がれ落ちる。高層ビル一個分くらいのサイズ。剥がれ落ちた向こう側は真っ暗。吸い込まれそうな闇色だ。
「フェラ右衛門ー。いるかー? 終わったぞー……色々と」
このままだと、本格的にヤバそうなので声をかけてみるが、特に返事もない。あの野郎……。
遠くの方の空から、闇の部分がどんどん広くなり、次第に周囲の地面もバラバラに砕けて割れていく。
(まぁ、何とかなるかなぁ…)
いつの間にか夕焼け空は全部無くなって、闇よりも深い漆黒の空が広がっていて、クレーターの外周の地面がすべて崩れ始めて、そして最後には、自分の体を支えていた地面も崩れ落ちる。
どこまでも落ちていくような浮遊感。そんな浮遊感の中、俺は意識を失った。
――ゆっくりと、優しく体が揺すられる感覚を覚える。
「結衣さん……結衣さん?」
目を開けると至近距離には、ふっくらとした唇をした、お目々ぱっちりの美少女の顔。毎日こんな目覚めがしたいなぁ…。
思わずそのまま抱きしめる。華奢で小さな肩だけど、女の子独特の柔らかい感触。ゆるふあヘアに顔を埋めると、いつもの佑奈の匂いがした。
「寝坊助さんですか?」
と、ギュッと抱きしめ返されて、佑奈がスッと立ち上がる。
クッションの効いた座席。人影も疎らになった音楽ホール。膝の上には、今日の演目と、曲の紹介やら指揮者の紹介が書かれたプログラム。
――これは、夢?
「あ、う、うん…ちょっと寝不足…で?」
慌てて立ち上がると、その拍子に膝の上に置いていたプログラムがパサっと音を立てて床に落ち、それを佑奈が「あっ」っと言いながら拾ってくれる。
そして、それを差し出しながら、にっこり微笑んで佑奈が言う。
「良かったら。雑貨屋さん、見にいきませんか?」
「あっ…有難う。うん。松脂ケース? 買いに行くの?」
「えっ……何でわかったんですか? 前に話しましたっけ?」
「あー。うん。何となくそう思っただけー」
たははと、誤魔化すように笑う。
席を立ち佑奈の先導でロビーへと向かう。まさか……またイソギンチャク居ないよな…。
しかし、そんな心配は杞憂に終わる。何の変りもない、普通のロビーだ。何もかもがすべて元通り。他のお客さんもたくさんいるし、おしゃべりを楽しんでいる人たちもいる。平穏そのものだ。
でも、あれが……夢だったとは思えない……後でフェラ右衛門に事情を聴かなきゃ。
取り留めもなく、そんなことを考えながら、ふと視線を前にやる。
そこには、前を歩く佑奈の小さな背中。大事な大事な友人の背中。
あの極限状態の中、それでも自分の身を挺してまで守ってくれようとした、とっても強い女の子の背中。
「結衣さんっ」
と、突然、佑奈が振り返る。
そして――。
「有難う……っ」
と、少しだけ恥ずかしそうに、でも飛び切りの笑顔で彼女は微笑んだ。
「えっ、あ、うん」
なにが? と聞こうかと思って、でも聞けなかった。だってあれが事実で、フェラ右衛門の言う通りなら、佑奈は、きっと全部忘れてしまってるはずだから。
だから雑貨屋に付き合って行くことに対してのお礼だったのだと、そう思うことにした。
後でフェラ右衛門に問いただしたところ、相手の異能は音楽をトリガに対象の精神体を自分の作った仮想世界に閉じ込める能力ということだった。
なぜ、それをフェラ右衛門が知ってるかって? まぁ、未来から来てるわけで、そういった知識については豊富だそうだ。
ちなみに、攻撃を受けるのはあくまで精神部分だけで、肉体的なダメージは与えられないそうだ。だから、今回も多分オカマ野郎は死んでこそはいないが、精神的には間違いなくぶっ壊れただろうとのこと。
なんかでも、それって中途半端だよな。本当に大丈夫なのかな?
それと、オカマ野郎はフェラ右衛門の知っている未来の世界線?でも、かなりイっちゃってた存在らしくて、今の段階で排除できたのはグッジョブだったそうだ。
能力が進化すると精神世界では、ほぼ無敵。さらに、こちらの能力もすべて無効化されてしまうそうだ。なにそれ……反則じゃん。
だから、未来を知っていれば、もっと他に何かできることがあるかもしれないとフェラ右衛門に聞いてみたんだけど、「未来は結果の積み重ねに過ぎないから、知っていても意味ないな」と、取りつく島もない感じだった。
もしかして、未来は変えられないのかもしれないし、本来は変えちゃいけないものなのかもしれない。
でも、少なくとも自分の周りの人たちだけは守りたい。
考えなしの迷惑野郎と罵られるかもしれない。見え透いた偽善と言われるかもしれない。独り善がりの我儘かもしれない。
「結衣さんっ! 可愛いのが見つかりました!」
そう言って無邪気にはしゃぐ可愛い友人の顔をみて、思わずこちらも表情が綻ぶ。
だからそれでも、俺は決めた。この笑顔を守ろうと。
――だって、それって何かカッコいいだろ?
《前編FIN...》
----------あとがき----------
美少女転生の前編を最後までお読み頂き、本当に本当に有難うございました!
区切りも良いので本作品の投稿は、いったんここまでとさせて頂きます。
それと、もし更にお気に入りの数が増えたら、また再び投稿を始めるかもしれませんが、
後編の少女たちの活躍と、この世界の終結は、皆様のご想像にお任せしようかなぁと思っていたりもします。
また執筆ができそうになったその時は、よろしくお願いいたしますっ(*´Д`)
綺麗な夕暮れの空を眺めながら、クラシックコンサートは昼からだったから、時間的にはもう夕方になるんだなぁと思い至る。
(みんな、無事に元の世界に戻れたのかな…)
人の気配の全くない世界。ピキピキという不快な音とともに広がる無数の亀裂。崩れゆく世界はどこか幻想的で儚げだ。
次々と背景が映り込んだステンドグラスのような綺麗な欠片が、パラパラと剥離するかのように砕けていく。
大の字になって、クレータの中心と化した固い地面に転がる。
――にしても、あのタヌキ野郎。これは、聞いてないぞ。
酷い眩暈のような症状と、半端ない倦怠感。もう一歩も動けそうもない。
最後に世界が壊れるって?……あのオカマ野郎、実は世界最強を気取る宇宙人だったのか? 戦闘力53万だったのか? 別に俺、元気な玉は放ってないよ? それと、元気な玉はもう持ってないよ? このまま、この世界が壊れたら、俺、どうなるんだ? 帰れるのか?
ひときわ大きな欠片が剥がれ落ちる。高層ビル一個分くらいのサイズ。剥がれ落ちた向こう側は真っ暗。吸い込まれそうな闇色だ。
「フェラ右衛門ー。いるかー? 終わったぞー……色々と」
このままだと、本格的にヤバそうなので声をかけてみるが、特に返事もない。あの野郎……。
遠くの方の空から、闇の部分がどんどん広くなり、次第に周囲の地面もバラバラに砕けて割れていく。
(まぁ、何とかなるかなぁ…)
いつの間にか夕焼け空は全部無くなって、闇よりも深い漆黒の空が広がっていて、クレーターの外周の地面がすべて崩れ始めて、そして最後には、自分の体を支えていた地面も崩れ落ちる。
どこまでも落ちていくような浮遊感。そんな浮遊感の中、俺は意識を失った。
――ゆっくりと、優しく体が揺すられる感覚を覚える。
「結衣さん……結衣さん?」
目を開けると至近距離には、ふっくらとした唇をした、お目々ぱっちりの美少女の顔。毎日こんな目覚めがしたいなぁ…。
思わずそのまま抱きしめる。華奢で小さな肩だけど、女の子独特の柔らかい感触。ゆるふあヘアに顔を埋めると、いつもの佑奈の匂いがした。
「寝坊助さんですか?」
と、ギュッと抱きしめ返されて、佑奈がスッと立ち上がる。
クッションの効いた座席。人影も疎らになった音楽ホール。膝の上には、今日の演目と、曲の紹介やら指揮者の紹介が書かれたプログラム。
――これは、夢?
「あ、う、うん…ちょっと寝不足…で?」
慌てて立ち上がると、その拍子に膝の上に置いていたプログラムがパサっと音を立てて床に落ち、それを佑奈が「あっ」っと言いながら拾ってくれる。
そして、それを差し出しながら、にっこり微笑んで佑奈が言う。
「良かったら。雑貨屋さん、見にいきませんか?」
「あっ…有難う。うん。松脂ケース? 買いに行くの?」
「えっ……何でわかったんですか? 前に話しましたっけ?」
「あー。うん。何となくそう思っただけー」
たははと、誤魔化すように笑う。
席を立ち佑奈の先導でロビーへと向かう。まさか……またイソギンチャク居ないよな…。
しかし、そんな心配は杞憂に終わる。何の変りもない、普通のロビーだ。何もかもがすべて元通り。他のお客さんもたくさんいるし、おしゃべりを楽しんでいる人たちもいる。平穏そのものだ。
でも、あれが……夢だったとは思えない……後でフェラ右衛門に事情を聴かなきゃ。
取り留めもなく、そんなことを考えながら、ふと視線を前にやる。
そこには、前を歩く佑奈の小さな背中。大事な大事な友人の背中。
あの極限状態の中、それでも自分の身を挺してまで守ってくれようとした、とっても強い女の子の背中。
「結衣さんっ」
と、突然、佑奈が振り返る。
そして――。
「有難う……っ」
と、少しだけ恥ずかしそうに、でも飛び切りの笑顔で彼女は微笑んだ。
「えっ、あ、うん」
なにが? と聞こうかと思って、でも聞けなかった。だってあれが事実で、フェラ右衛門の言う通りなら、佑奈は、きっと全部忘れてしまってるはずだから。
だから雑貨屋に付き合って行くことに対してのお礼だったのだと、そう思うことにした。
後でフェラ右衛門に問いただしたところ、相手の異能は音楽をトリガに対象の精神体を自分の作った仮想世界に閉じ込める能力ということだった。
なぜ、それをフェラ右衛門が知ってるかって? まぁ、未来から来てるわけで、そういった知識については豊富だそうだ。
ちなみに、攻撃を受けるのはあくまで精神部分だけで、肉体的なダメージは与えられないそうだ。だから、今回も多分オカマ野郎は死んでこそはいないが、精神的には間違いなくぶっ壊れただろうとのこと。
なんかでも、それって中途半端だよな。本当に大丈夫なのかな?
それと、オカマ野郎はフェラ右衛門の知っている未来の世界線?でも、かなりイっちゃってた存在らしくて、今の段階で排除できたのはグッジョブだったそうだ。
能力が進化すると精神世界では、ほぼ無敵。さらに、こちらの能力もすべて無効化されてしまうそうだ。なにそれ……反則じゃん。
だから、未来を知っていれば、もっと他に何かできることがあるかもしれないとフェラ右衛門に聞いてみたんだけど、「未来は結果の積み重ねに過ぎないから、知っていても意味ないな」と、取りつく島もない感じだった。
もしかして、未来は変えられないのかもしれないし、本来は変えちゃいけないものなのかもしれない。
でも、少なくとも自分の周りの人たちだけは守りたい。
考えなしの迷惑野郎と罵られるかもしれない。見え透いた偽善と言われるかもしれない。独り善がりの我儘かもしれない。
「結衣さんっ! 可愛いのが見つかりました!」
そう言って無邪気にはしゃぐ可愛い友人の顔をみて、思わずこちらも表情が綻ぶ。
だからそれでも、俺は決めた。この笑顔を守ろうと。
――だって、それって何かカッコいいだろ?
《前編FIN...》
----------あとがき----------
美少女転生の前編を最後までお読み頂き、本当に本当に有難うございました!
区切りも良いので本作品の投稿は、いったんここまでとさせて頂きます。
それと、もし更にお気に入りの数が増えたら、また再び投稿を始めるかもしれませんが、
後編の少女たちの活躍と、この世界の終結は、皆様のご想像にお任せしようかなぁと思っていたりもします。
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