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第二章 「魔法少女は報われない」
第六十九話 「飲み会」
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大学のサークル活動の延長として実施される飲み会。それは、経済的な理由で夜間の定時制高校までしか通えなかった俺にとっては、まったくもって想像もできなかった未知の世界。
いや、たとえ学費を払えるだけの資金力があったとしても、コミュ障の俺にとっては恐らく縁のなかった世界であろう。
――時に男女が出会いを求め、そのために己の非凡さを主張し優劣を競う場。
そして、その魑魅魍魎とした知られざる領域に今日はじめて俺は一歩を踏み出す……一抹の不安とともに――なんて語ってみたが、要はあれだ悠翔からの誘いを断れなかっただけだ。
「ゴメン、結衣。友達からどうしてもって言われちゃってさ」
と、悠翔から申し訳なさそうに話を切り出された時は、はっきり言って正直戸惑った。
いや。ホントにゴメンだよ……っていうかハードル高すぎるだろ。
周りほとんど知らない人間ばっかりなんて、文字通り借りてきた猫状態になる未来が容易に予測できるぞ?
しかも誘ってきた理由が、どうやらサークル仲間から彼女を連れて来いと言われて、断り切れなかったからというから、なおさら不安で仕方ない。
だいたい、俺なんかを彼女として紹介しちゃっていいのか? その時点で君の人生終わったよ? 悠翔君?
まぁせいぜい悠翔の面目を潰さないように、杏に教わった「今どきメイク?」とかして、ある程度の準備はしっかり整えておくかな。
え? なぜかって? だって、もし仮にだぞ、俺が全然イケてなくて、悠翔に恥をかかせて、それが原因で別れようなんて事になったら、安全で且つ貴重な栄養源を1つ失うことになるんだぞ? 考えただけでも恐ろしい。まさに死活問題だ。
「ひ、ひなさん。ど、どうしたんすか?」
「え? 何がですか?」
「だって普段メイクなんか、全然しないじゃないっすか?」
「――――秋彦さんは、私を何だと思ってるんですか?」
「いやいやいや! メイクしなくても十分可愛いのに、そ、そ、そんなことしたら…ぐはぁ!」
良し。立ち上がって少し近づいただけで、秋彦が禁断症状(末期状態)を発症して、床に転がっていたので、かなりイケていることに違いはない。準備はバッチリだ。
実際に自分で鏡を見た限りでも、絶世の美少女過ぎて、かなり浮世離れした状況になっている。もはや乾いた笑いしかでてこないし、まったく意味が分からん。
しっとりとした艶のある黒髪。どこか憂いを含んだ深淵を覗くような大きな黒い瞳は、見る者を虜にしてしまいそうなほど魅惑的だ。
透き通るような白い頬には、うっすらとピンク色のチークが乗っていて、儚げな雰囲気と同時に、どこか扇情的な色合いさえも伴っている。
そして、もともとの可愛らしい目元には、アイシャドーが乗って妖艶な感じというか、幼さの中に絶妙なエロさがあるというか、これはある意味やり過ぎたというか、何かそのままお持ち帰りされてしまいそうだ。
――はっ! もしや、これはフラグか!? いや待て落ち着け。これから向かうところは人の多いところなわけだし……大丈夫だ。大丈夫だと信じたい。誰か大丈夫だと言ってくれ!
そんなこんなで、ヘアスタイルを整えたり、お嬢様風の可愛らしいブラウスを選んだりと、ばたばたと準備を完了させ、待ち合わせの場所である新宿へと向かう。
基本的に移動は電車だが、徒歩の道中は夕方とはいえ日も落ちて薄暗いため、注意してなるべく人の多いところを歩くようにする。
女になって、こういう部分は気を遣うようになったのだ。
移動中は周囲からのチラチラと向けられる視線を感じながらも、何とか無事に合流地点へとたどり着くことができたわけだが、それにしても、どこに行っても周りから注目されるというのは居心地が悪い。
その上、今は異能者からいつどのタイミングで襲われるかわからない状況だし、つまり常に警戒が必要ということで必要以上にストレスがかかる。
目的地について、少ししたくらいでスマホにメッセージが入る。フェラ右衛門から借りたスマホのおかげで人の多いところでも、待ち合わせに&合流に困らなくなったのはありがたい。ホント便利だよね文明の利器は。
そして、メッセージに従って少し移動したところで、複数の男女が固まっている一団の中に見知った顔を見つけホッと一安心する。
「結衣っ!」
安心からか思わず笑みが漏れ、呼びかけられた声の主である悠翔の方へとパタパタと小走りで向かう。
「えぇぇっ!? この娘が悠翔の彼女? うぁぁマジ可愛いじゃん!」
「おぉ芸能人みたい? ちょっマジやばいっしょ? こんな娘、本当に存在するんだ? 何かアイドルとかやってたりする?」
「くっそー! 羨ましすぎるぞ! 天使降臨か!? ね、ね、ね、一緒に写真撮らない?」
と、まぁまぁこんな感じで概ね男性陣からは好評のようなのだが、一方の女性陣からは「か、可愛いねぇ…」とか若干引きつったような微妙な空気が感じられる。
これは、マズい。気合を入れ過ぎたために、一般女子の基準をぶっちぎってしまったか。もう少し自重すべきだった…。
そんなこんなで、男どもに取り囲まれてオロオロしていると、
「ねぇ、やめなよ。困ってるじゃん!」と、突然、見た目からして優等生タイプの眼鏡の女の子が割り込んでくる。
そしてその女の子は、今度は悠翔の方を見ると、
「悠翔も、少しはちゃんとしなさいよ。彼女なんでしょ?」
「ゴメン。美沙。皆の勢いが凄すぎて…結衣もゴメンね。びっくりさせちゃって」
美沙と呼ばれた眼鏡の女の子の苦言を含んだ声音に、さしもの悠翔も苦笑いするが、次の瞬間にはスッと間に体を入れながら、さりげなくこちらの肩に手をまわしてくる。
おぉ、悠翔が彼氏してるよ。きゃーカッコいい悠翔さん! にしても、最近の女の子は杏とかもそうだけどしっかりしてるなぁ。
で、その後はというと散々冷やかされた挙句、「歳は?」とか「好きな食べ物は?」とか「出身はどこなの?」とか「アニメ見る?」とか色々と質問されるわで、いつボロがでるかとマジでハラハラしたさ。
さすがにAV鑑賞とエロゲーとラノベが三度の飯より大好きで、エロ同人が趣味ですとは言えないからな。
駅から少し歩いた先で、先頭を歩いていた茶髪のチャラそうなにーちゃんが後ろを振り返る。
「お店、この辺じゃね?」
「あぁそうだね、あ、あれじゃない?」
指し示す方に視線をやると、そこはいわゆる焼肉居酒屋だ。そして、先ほどから周囲の話の内容を聞く限り、低価格の食べ放題、飲み放題コースらしい。やっぱり学生さんらしいねぇ。
当然、俺は未成年の設定なので酒は飲めないから、今日は食べる方専門になるのだが、いやぁそれにしても、肉は最高だよね。楽しみだなぁと思いながらも、服に臭いとかついたらやだなぁと考えている自分に気が付いて、本当に発想が女子化したなとつくづく思う。
一昔前なら愕然とした上にヘコんでいたのだろうが、今ではもう苦笑いしか出ないし…適応し過ぎというか、何というか、まあ成長したな俺。
「「「かんぱーいっ!」」」
前哨戦というか、牽制の上での席決めに少し疲れたが、取り合えず威勢よく始まった飲み会。若い男女がバイトの話だの何だのと思い思いに会話を始める。
酒池肉林というか、いやーオジサン、この勢いにはちょっとついていけないかも……にしても、君たち凄い勢いで飲んでくね。まさに浴びるようなという形容詞が当てはまるというか…大丈夫かね。
「ねぇねぇ。結衣ちゃん。隣いい?」
と、悠翔がトイレに立った隙に、さっきの茶髪のにーちゃんが近づいてくる。
「よっちん! 悠翔に怒られるぞ!」
「おい。抜け駆けすんなよ!」
ウザい…ウザ過ぎる…男にモテても全然嬉しくない上に、非常に不愉快極まりない…大体よっちんって何だよ。もう少しマシなあだ名はなかったのか?
いや、たとえ学費を払えるだけの資金力があったとしても、コミュ障の俺にとっては恐らく縁のなかった世界であろう。
――時に男女が出会いを求め、そのために己の非凡さを主張し優劣を競う場。
そして、その魑魅魍魎とした知られざる領域に今日はじめて俺は一歩を踏み出す……一抹の不安とともに――なんて語ってみたが、要はあれだ悠翔からの誘いを断れなかっただけだ。
「ゴメン、結衣。友達からどうしてもって言われちゃってさ」
と、悠翔から申し訳なさそうに話を切り出された時は、はっきり言って正直戸惑った。
いや。ホントにゴメンだよ……っていうかハードル高すぎるだろ。
周りほとんど知らない人間ばっかりなんて、文字通り借りてきた猫状態になる未来が容易に予測できるぞ?
しかも誘ってきた理由が、どうやらサークル仲間から彼女を連れて来いと言われて、断り切れなかったからというから、なおさら不安で仕方ない。
だいたい、俺なんかを彼女として紹介しちゃっていいのか? その時点で君の人生終わったよ? 悠翔君?
まぁせいぜい悠翔の面目を潰さないように、杏に教わった「今どきメイク?」とかして、ある程度の準備はしっかり整えておくかな。
え? なぜかって? だって、もし仮にだぞ、俺が全然イケてなくて、悠翔に恥をかかせて、それが原因で別れようなんて事になったら、安全で且つ貴重な栄養源を1つ失うことになるんだぞ? 考えただけでも恐ろしい。まさに死活問題だ。
「ひ、ひなさん。ど、どうしたんすか?」
「え? 何がですか?」
「だって普段メイクなんか、全然しないじゃないっすか?」
「――――秋彦さんは、私を何だと思ってるんですか?」
「いやいやいや! メイクしなくても十分可愛いのに、そ、そ、そんなことしたら…ぐはぁ!」
良し。立ち上がって少し近づいただけで、秋彦が禁断症状(末期状態)を発症して、床に転がっていたので、かなりイケていることに違いはない。準備はバッチリだ。
実際に自分で鏡を見た限りでも、絶世の美少女過ぎて、かなり浮世離れした状況になっている。もはや乾いた笑いしかでてこないし、まったく意味が分からん。
しっとりとした艶のある黒髪。どこか憂いを含んだ深淵を覗くような大きな黒い瞳は、見る者を虜にしてしまいそうなほど魅惑的だ。
透き通るような白い頬には、うっすらとピンク色のチークが乗っていて、儚げな雰囲気と同時に、どこか扇情的な色合いさえも伴っている。
そして、もともとの可愛らしい目元には、アイシャドーが乗って妖艶な感じというか、幼さの中に絶妙なエロさがあるというか、これはある意味やり過ぎたというか、何かそのままお持ち帰りされてしまいそうだ。
――はっ! もしや、これはフラグか!? いや待て落ち着け。これから向かうところは人の多いところなわけだし……大丈夫だ。大丈夫だと信じたい。誰か大丈夫だと言ってくれ!
そんなこんなで、ヘアスタイルを整えたり、お嬢様風の可愛らしいブラウスを選んだりと、ばたばたと準備を完了させ、待ち合わせの場所である新宿へと向かう。
基本的に移動は電車だが、徒歩の道中は夕方とはいえ日も落ちて薄暗いため、注意してなるべく人の多いところを歩くようにする。
女になって、こういう部分は気を遣うようになったのだ。
移動中は周囲からのチラチラと向けられる視線を感じながらも、何とか無事に合流地点へとたどり着くことができたわけだが、それにしても、どこに行っても周りから注目されるというのは居心地が悪い。
その上、今は異能者からいつどのタイミングで襲われるかわからない状況だし、つまり常に警戒が必要ということで必要以上にストレスがかかる。
目的地について、少ししたくらいでスマホにメッセージが入る。フェラ右衛門から借りたスマホのおかげで人の多いところでも、待ち合わせに&合流に困らなくなったのはありがたい。ホント便利だよね文明の利器は。
そして、メッセージに従って少し移動したところで、複数の男女が固まっている一団の中に見知った顔を見つけホッと一安心する。
「結衣っ!」
安心からか思わず笑みが漏れ、呼びかけられた声の主である悠翔の方へとパタパタと小走りで向かう。
「えぇぇっ!? この娘が悠翔の彼女? うぁぁマジ可愛いじゃん!」
「おぉ芸能人みたい? ちょっマジやばいっしょ? こんな娘、本当に存在するんだ? 何かアイドルとかやってたりする?」
「くっそー! 羨ましすぎるぞ! 天使降臨か!? ね、ね、ね、一緒に写真撮らない?」
と、まぁまぁこんな感じで概ね男性陣からは好評のようなのだが、一方の女性陣からは「か、可愛いねぇ…」とか若干引きつったような微妙な空気が感じられる。
これは、マズい。気合を入れ過ぎたために、一般女子の基準をぶっちぎってしまったか。もう少し自重すべきだった…。
そんなこんなで、男どもに取り囲まれてオロオロしていると、
「ねぇ、やめなよ。困ってるじゃん!」と、突然、見た目からして優等生タイプの眼鏡の女の子が割り込んでくる。
そしてその女の子は、今度は悠翔の方を見ると、
「悠翔も、少しはちゃんとしなさいよ。彼女なんでしょ?」
「ゴメン。美沙。皆の勢いが凄すぎて…結衣もゴメンね。びっくりさせちゃって」
美沙と呼ばれた眼鏡の女の子の苦言を含んだ声音に、さしもの悠翔も苦笑いするが、次の瞬間にはスッと間に体を入れながら、さりげなくこちらの肩に手をまわしてくる。
おぉ、悠翔が彼氏してるよ。きゃーカッコいい悠翔さん! にしても、最近の女の子は杏とかもそうだけどしっかりしてるなぁ。
で、その後はというと散々冷やかされた挙句、「歳は?」とか「好きな食べ物は?」とか「出身はどこなの?」とか「アニメ見る?」とか色々と質問されるわで、いつボロがでるかとマジでハラハラしたさ。
さすがにAV鑑賞とエロゲーとラノベが三度の飯より大好きで、エロ同人が趣味ですとは言えないからな。
駅から少し歩いた先で、先頭を歩いていた茶髪のチャラそうなにーちゃんが後ろを振り返る。
「お店、この辺じゃね?」
「あぁそうだね、あ、あれじゃない?」
指し示す方に視線をやると、そこはいわゆる焼肉居酒屋だ。そして、先ほどから周囲の話の内容を聞く限り、低価格の食べ放題、飲み放題コースらしい。やっぱり学生さんらしいねぇ。
当然、俺は未成年の設定なので酒は飲めないから、今日は食べる方専門になるのだが、いやぁそれにしても、肉は最高だよね。楽しみだなぁと思いながらも、服に臭いとかついたらやだなぁと考えている自分に気が付いて、本当に発想が女子化したなとつくづく思う。
一昔前なら愕然とした上にヘコんでいたのだろうが、今ではもう苦笑いしか出ないし…適応し過ぎというか、何というか、まあ成長したな俺。
「「「かんぱーいっ!」」」
前哨戦というか、牽制の上での席決めに少し疲れたが、取り合えず威勢よく始まった飲み会。若い男女がバイトの話だの何だのと思い思いに会話を始める。
酒池肉林というか、いやーオジサン、この勢いにはちょっとついていけないかも……にしても、君たち凄い勢いで飲んでくね。まさに浴びるようなという形容詞が当てはまるというか…大丈夫かね。
「ねぇねぇ。結衣ちゃん。隣いい?」
と、悠翔がトイレに立った隙に、さっきの茶髪のにーちゃんが近づいてくる。
「よっちん! 悠翔に怒られるぞ!」
「おい。抜け駆けすんなよ!」
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