【R18】美少女転生

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第二章 「魔法少女は報われない」

第六十五話 「アルバイト」

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 驚愕の新事実に動揺しまくる俺を他所よそに、フェラ右衛門がランクアップの特典?の説明を始める。
 その内容を簡単に語ってしまうと、基本性能の上昇及び、新しいフォームへの変身が可能となったという事。
 
 まず基本性能についてだが、ランクアップ前でさえ人外だったのだが、もはや自動小銃の一斉掃射くらいなら軽く耐えられるそうだ。
 まさに矢でも鉄砲でも状態だが、次は対戦車砲とか弾道ミサイルとか核兵器とか持ってこられそうだな。なにそれ怖い。

 そして、もう一方のフォームチェンジだが、装備の見た目と必殺技の属性が変わることくらいで、それ以外はあまり違いはないらしい。ちなみに秋彦の異能を逆に吸収できたかなと思ったが、これはダメだった。

「ほぅ、闇属性か……おい、やったな。レアだぞ」
「闇……属性?」
「言っておくが、可愛らしく首をかしげたって俺には効果ないからな」

 ――いや、そんなつもり全然ないし…………ぜ、全然、違うんだからねっ!

 それとも何か? 仕草が女っぽくなっている事実を突きつけて、俺をヘコますつもりか?
 いつかこのタヌキをギャフンと言わせてやりたいが……意外と色々情報を持ってるっぽいしな。

「おい…とにかく新しいアイコンで変身してみろ」
「あー……はいはい」

 指示通り新しいアイコンをタップして、くだんの魔法の言葉を念じる。
 すると突然、足元に妖しげな紫色に光り輝く魔法陣が展開し、一陣の風と共に、真っ黒な影が周囲から伸びたかと思うと、今度はあっという間にそれらが全身を覆う。

 おどろおどろしい雰囲気から連想すると、どちらかというと聖なる魔法少女というよりかは、悪魔的な何かって感じかな。
 そして、その派手なエフェクトが収まると、一瞬にして全身は真っ黒なドレスに包まれていた。
 まあ、全体的に「黒」って印象だ。
 瞳の色も、髪の色も特に変わらず黒のまま、ただ一点、特徴的な箇所といえば、血の色のような真っ赤な花飾りが頭についているところだろうか。

「おぉ、さすが闇属性だな」
「……前のタイプには、もう変身できないのか?」

 正直、見た目だけであれば、前のゴテゴテでひらひらドレスのパステルカラーよりは、こっちのやみバージョンの方が、まだ普通の範疇という意味ではマシだ。
 それでも、ちょっと仮装っぽい痛々しい雰囲気はあるけれど、まぁ………100歩譲って仮装と礼装の中間くらい?
 でも、やはり前のキラキラ魔法少女バージョンも捨てがたいのは事実だ――主にエロい方面で。

「相変わらずの変態ぶりだな……安心しろ、変身は可能だ」
「…………こっちの思考を勝手に読むな」

 相変わらずの歯に衣着せない物言いに、思わずジト目で奴を睨む。

 すると、フェラ右衛門は鼻で笑うような仕草をしてから、
「で? 知りたくないのか?」と、話を変えるかのように意味深なセリフを吐く。

 まぁ話の流れ的に、魔法少女のランクアップの説明を一通り聞き終えたこの状況で、俺が知りたいことといえば――――それは異能のことだ。
 考えてみれば、こいつは言うまでもなく、ハッキリ言って超常的な存在だ。

 もしかしたら、今のこのわけのわからん状況についても、何かしら情報を持っていて不思議ではない。
 だから俺は迷いなく応じる。いまはとにかく少しでも情報が欲しい。

「あぁ……知りたいさ。下手したら命を左右する問題だからな」

 俺のその言葉を聞くと奴は口角を吊り上げ、
「なら、知っている範囲で教えてやろう――お前の運命と、この世界の行く末を」と、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 おとぎ話の森の中を彷彿させるような、木目調の落ち着いた雰囲気。
 暖色系の照明も、緑の鮮やかな観葉植物も、柔らかい曲線をしたテーブルも椅子も、小さなチェストもその上のちょっとした雑貨も。
 普通の女の子だったら、きっと喜ぶんだろうなぁと思う。
 そんな、お洒落なカフェの一席、イチゴパフェの向こう側からこちらへと、美少女の小さくて可愛らしい顔がサムズアップする。

「ねぇ、結衣ゆい! 私にもあのバイト紹介してよ!」

 いきなりこちらを呼び出して、唐突にそんなお願いをしてきたのはあんだ。
 俺はあの日以来、再び襲撃があるかもしれないという危機感から、悠翔はるとあん佑奈ゆな沙月さつきの4人には頻繁に連絡するようにしている。

 その連絡はフェラ右衛門に貸与されたスマホで行っているのだが、正直、契約料や通話料がどこから誰に請求されるのかは謎だ――まあ、普通に使えるようなので使ってしまっているのだが……。
 ある日、突然多額の請求書が届かないことを祈ろう。

「えっーと…イベントがもう終わっちゃって…」

 あんのルックスであれば、その手の面接があったとしても、きっと問題なくパスするだろうと思う。しかし、存在しないバイトの紹介をするというのは甚だ無理な話である。

 そう。俺はあの日の言い訳として、魔法少女のイベントのアルバイトをやっていたと嘘をついたのだ。
 まあ、状況が状況だったし。あんの避難誘導をしたファックも、気を利かせて変身系の術で人間に化けて、うまく誤魔化してくれていたので、これ幸いとばかりにちょっと強引に話を作らせてもらったのだ。
 ちなみに、杏を追いかけていたも、着ぐるみを奪った変質者ということで話の辻褄を合わせてある。

「え、そうなの? むむぅー残念~!」

 心の底から残念そうな声をあげる杏。
 子供のころからの憧れだったというから、その気持ちはわからなくもないが……そんなに魔法少女がやりたかったのか?
 でも今日、彼女の呼び出しに応じたのは、彼女のバイトの世話をするためではない。
 だから、この話は早々に切り上げ本題に移らなければならない。

「……それでね。あん、少し話をきいてもられるかな……」

 がっくりうなだれるあんを、再起動させるべく話を振る。
 フェラ右衛門の話が全て真実とは思わない。でも、最低限伝えるべき事は伝えるべきだろう。
 人間達が、今この瞬間も同じ世界に生きているのは事実だから。

 こちらの話し方が変わったのに気が付いたのか、あんの表情が少しだけ緊張する――その表情をじっと見ていることができず、反射的に少しだけ視線を落とす。
 それは、彼女を巻き込んでしまう後ろめたさと、現状の関係を維持したいと思う自らの傲慢さのせいだ。

 ――単なる我儘なのは、十分に理解している。

 でも、誰からも相手にされず、一人でいる辛さは、もう味わいたくなかった。
 たわいもない話ができる相手が、単純に欲しかった。
 ぼっち耐性がなくなったと言えば、それは嘘だ。
 きっとまた一人になっても、一人でそこそこやっていけるだろう。なんとなくそんな感じはしている。
 はっきりいって自分でもずるいと思う。そして、周りにとっても迷惑な話だと思う。
 それでも、やはり自分は失いたくなかった。
 今のこのぬくもりを。この暖かさを……。

「できれば、あんの事は遠ざけてあげたい…でも…」
「大丈夫だよ」

 そして、目の前にはどこまでも柔らかく、そして優しく微笑む少女の姿があった。

「大丈夫! だって結衣ゆいとは友達だから」

 にっこりと笑うあんは、そう言ってグッと胸の前で握りこぶしを作る。

 ――あぁ…すべてを話してしまいたい。

 すべてを包み隠さず話せたらどんなにか楽だろうか――一瞬だけ、そんな感情が沸き上がる。
 これから先、ずっとこのをだまし続けるのか? 本当にそれでいいのか?
 でも、彼女に真実をすべて語ってどうなる? 何かが変わるのか? それでもし、彼女が離れて行ってしまったらどうする?
 すでに自分と接触してしまった彼女を守るのに、それはかえって不都合ではないのか? 
 それに物理的に距離を置けば、本当に彼女は救われるのか? それは否だ。

 ――だから、彼女を守るために嘘をつこう。

 それは偽善かもしれない。でも、必要な偽善だ。
 彼女を、今の自分を、この関係を守るためならば、敢えて偽善者とそしられようと甘んじて受けよう。
 だって、それが彼女にとっても自分にとっても、一番の最善の選択肢のはずだから。

「……ねぇ。あんは、後天性の遺伝子異常って言って意味…わかる?」
「…………えっ…結衣ゆい…病気…なの?」

 こちらの問いかけに、あんは色を失った表情で絶句した。
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