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第二章 「魔法少女は報われない」
第五十七話 「起死回生」
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近未来的なメタルアーマーに身を包んだ人物が、やたらと派手にピカピカとライトを明滅させている自動小銃のようなものを、ガシャンという機械音とともに、慣れた手つきで素早くこちらへと向ける。
見た感じ、その装備って明らかにオーバーキルだろ? 熊でも殺れそうだぞ?
その圧倒的な威圧感に頭では逃げなきゃと思っているのに、膝は恐怖でガクガクと震え、身動き一つとれず、悲鳴すらも挙げることができない。
そして、そんな非現実的な様を眺めながらも、こみ上げるような諦観と他人事のような達観した感覚とともに、幼少の記憶が鮮明に脳裏へと蘇ってくる。
目の前の動くメタルアーマーは子供の時に、テレビでよく見たヒーロー物に出てくるような、いわゆるカッコいい主人公に似ているなぁと。
うちは貧乏で買えなかったけど、子供の頃はオモチャ売り場の変身グッズに憧れてて、欲しいって無理言ってよく泣いていたな。
それを見て不憫に思った母親が、ダンボールを切り抜いて似たようなのを作ってくれたっけ……今、思えば手作り感満載のチープなものだったけど、それが無性に嬉しかったんだよな。
ところで、ヒーローって一般人を殺していいんだっけ? 最近のヒーロー物は見ないからなぁ。そういう設定もあるのかな。
ダークヒーローってやつ? あ…っていうか、俺、異能持ちだし、怪人って言えばそうかもしれないね。
悪い事はしてないんだけどな……あ、でも能力で2人殺してたな。だけど、不可抗力と正当防衛だよね? 許されるよね?
はぁ…どうせなら、倒される側よりも、倒す側になりたかったなぁ。でも、まぁ憧れだったヒーローに殺されるのなら、それも運命なのかな。
挑発するような軽快な音楽が自動小銃から流れ、無駄にカッコいい音と光のエフェクトとともに、その銃身へと光源が集約していく。
そして俺の無駄な思考を遮るかのように銃口からレーザーのような閃光が放たれ、その光の帯が瞬く間に俺の細身の身体を貫く。
直撃した瞬間、視界がショートしたかのように暗転し、体からは一切の感覚が失われ、真っ暗な闇の中に意識が飛んだ。
―――――そして、俺は死んだ。
まぁ一瞬だったし、痛い思いをしなくて良かったかな。
「ねぇ。間違いなく死んだ?」
小柄でホッソリとした体つきのショートヘアの若い女が、電柱の陰から恐る恐るといった感じで顔を出す。
「あぁ…だが、どうして【不死身】の奴は殺し損ねたんだ?」
フルメタルアーマーの男が、地面に横たわる少女を一瞥しながらベルトの変身解除キーを操作する。
すると派手な効果音とともに、装備していたアーマーが体から剝がれるように宙を漂い、次の瞬間にはホログラムのような光を放ちながら虚空へと消える。
変身が解けるとその場には、普通の服装をしたイケメンの若い男。
電柱の陰に隠れている女と並べば、どこにでもいるカップルといっても問題ない雰囲気だ。
「そんなの、知らないわよ……って、どうでもいいけど…いつみてもエフェクトが派手ね…」
「どうでも…いいだろ。早く収容しよう。誰かに見られると厄介だ」
「わ、わかったわよ」
女はそういって、及び腰のまま地面に横たわる少女に警戒しながら近づくと、軽く焼け焦げたコートの上から、その小さく華奢な体にそっと触れる。
すると少女の体は一瞬で、まるで手品を使ったかのようにその場から忽然と掻き消える。
「お前が収容できるってことは…」
「そうね…間違いなく死んでたみたいね」
男の回答を促すような問いかけに、女が納得したように応える。
「いこう」
「うん」
そして男の短い呼びかけに、女も短く応じると、若い男女の二人組は、近くに停めてあった車へと乗り込み、そのまま夜の街へと消えた。
気が付くと真っ暗な闇の中で、ふわふわと体が宙を浮いていた。確か以前にも同じような感覚に陥ったことがあるような……。
何も存在せず無機質で、まるで物質の存在を拒絶するかのような空間――。
すると突然その空間が弾ける感覚とともに、気が付いた瞬間に体は地面に投げ出され、鈍器で殴られたかのような強烈な痛みが頭を襲う。
「…かっ、はぁ! く、くぅ! ふぅっ!」
同時に襲った酷い眩暈と吐き気で意識を失いそうになる。
「えっ! な、何! どうして!?」
「下がって! 【不死身】と同じような能力かもしれない!」
突然、聞こえてくる女の悲鳴と、警戒心を多分に含む鋭い男の怒声。
え? え、【不死身】って? おい、なんだ。どういうことだ、今の状況を誰か説明してくれ。
クラクラする視界の中、地面に落ちた痛みに耐えながら、必死に辺りを見渡そうと地面に手をつく。
地面は土か? そこには大量の落ち葉が目に入る。地面に転がったときに、これが衝撃を吸収してくれたのか……さっきまで、都心のど真ん中にいたはずなのに?
顔を上げると周囲はうっそうとした感じの森、ここは山か? そして恐怖におびえる女と、それを庇うように立つ男。
なんだ、この修羅場は? 俺が何か悪い事をしたか?
「変身っ!」
突然、男が恥ずかしいセリフを大声で吐くと、音と光のエフェクトが響き渡り、その体をメタルアーマーが包んでいく。
ああ、こいつか。さっき俺を殺ったのは。
「ねぇ! どうするのよ! 【不死身】と一緒なんでしょ?」
「化け物め! 生き返っても動けないように、バラバラにしてやる!」
いきなり人を化け物呼ばわりって……おい……ちょっとまて…そりゃないだろ。おーい。
などど考えている間に、男は巨大なランチャーのような武器を空中から召喚する。
だから、オーバーキルですって、お兄さんてば。それ明らかに対人用じゃないでしょ。サイズからして対戦車砲でしょ。
こ、これは、マズいぞ。なんか生き返ったみたいだけど、バラバラにされたら文字通り手も足もでないじゃないか。そんな怖い事、言わないで!
そのまま土に埋められたり、東京湾に生コン漬けにされて沈められるのは勘弁だぞ。それって逆に死ねない分、正気を失って発狂するだろ!
『Let's Go! Charge! Destroy Target!』
キュイーンという、いかにもな効果音とともに、リズムにのったラップ調の英語のセリフが、ランチャーから繰り返し鳴り響く。
いや、あのさ……もうこれ以上、チャージしなくていいし、目標を破壊するとか言うなだし。その無駄にノリノリな雰囲気で人のこと惨殺しようとするの止めて欲しいし。
あぁ…あれを食らったらダメだ。間違いなくホントに肉片になる。これは、イチかバチかで、やるしかないだろう。うん、やるしかないよね。ダメ元だよね。
だから次の瞬間、俺は最後の力を振り絞って、男の方へと突っ込んでいった。
「バカか! 力で勝てるわけないだろ!」
男がこちらの無謀な行動を嘲るような調子で罵倒する。そう、力では勝てない。でも、俺には異能がある――――だから、俺はその勢いで男の腰に飛びつく。
「やめて!」
そして俺は能力を全開にするイメージで、男にそう「命令」した。
男の腰にしがみついたままの姿勢でギュッと目を瞑る。うまくいっていなければ、このまま男の力で引き剝がされて終わりだ。
誰も何も言わない不気味な静寂の中、ランチャーからのラップ調の英語だけが空しく鳴り響く。
「え? ……嘘? 【主人公】?」
事態の終焉を告げるかのような女の混乱した声音とともに、【主人公】と呼ばれた男はランチャー装備を解除した。
う、うまくいったのか?
悲鳴を上げながら、半狂乱の状態で逃げる女の姿が目に入る。しまった、追わなきゃ…だけど肝心な時に腰に力が入らない。
逃がせば、また狙われる……いや、逃がさなくても狙われるか。どうしろってんだよ…くそっ。
そして、女はそのまま停めてあった車に乗って逃げ去り、俺は棒立ちのフルメタルアーマー男と、ここがどことも分からない山奥に取り残されるのだった。
見た感じ、その装備って明らかにオーバーキルだろ? 熊でも殺れそうだぞ?
その圧倒的な威圧感に頭では逃げなきゃと思っているのに、膝は恐怖でガクガクと震え、身動き一つとれず、悲鳴すらも挙げることができない。
そして、そんな非現実的な様を眺めながらも、こみ上げるような諦観と他人事のような達観した感覚とともに、幼少の記憶が鮮明に脳裏へと蘇ってくる。
目の前の動くメタルアーマーは子供の時に、テレビでよく見たヒーロー物に出てくるような、いわゆるカッコいい主人公に似ているなぁと。
うちは貧乏で買えなかったけど、子供の頃はオモチャ売り場の変身グッズに憧れてて、欲しいって無理言ってよく泣いていたな。
それを見て不憫に思った母親が、ダンボールを切り抜いて似たようなのを作ってくれたっけ……今、思えば手作り感満載のチープなものだったけど、それが無性に嬉しかったんだよな。
ところで、ヒーローって一般人を殺していいんだっけ? 最近のヒーロー物は見ないからなぁ。そういう設定もあるのかな。
ダークヒーローってやつ? あ…っていうか、俺、異能持ちだし、怪人って言えばそうかもしれないね。
悪い事はしてないんだけどな……あ、でも能力で2人殺してたな。だけど、不可抗力と正当防衛だよね? 許されるよね?
はぁ…どうせなら、倒される側よりも、倒す側になりたかったなぁ。でも、まぁ憧れだったヒーローに殺されるのなら、それも運命なのかな。
挑発するような軽快な音楽が自動小銃から流れ、無駄にカッコいい音と光のエフェクトとともに、その銃身へと光源が集約していく。
そして俺の無駄な思考を遮るかのように銃口からレーザーのような閃光が放たれ、その光の帯が瞬く間に俺の細身の身体を貫く。
直撃した瞬間、視界がショートしたかのように暗転し、体からは一切の感覚が失われ、真っ暗な闇の中に意識が飛んだ。
―――――そして、俺は死んだ。
まぁ一瞬だったし、痛い思いをしなくて良かったかな。
「ねぇ。間違いなく死んだ?」
小柄でホッソリとした体つきのショートヘアの若い女が、電柱の陰から恐る恐るといった感じで顔を出す。
「あぁ…だが、どうして【不死身】の奴は殺し損ねたんだ?」
フルメタルアーマーの男が、地面に横たわる少女を一瞥しながらベルトの変身解除キーを操作する。
すると派手な効果音とともに、装備していたアーマーが体から剝がれるように宙を漂い、次の瞬間にはホログラムのような光を放ちながら虚空へと消える。
変身が解けるとその場には、普通の服装をしたイケメンの若い男。
電柱の陰に隠れている女と並べば、どこにでもいるカップルといっても問題ない雰囲気だ。
「そんなの、知らないわよ……って、どうでもいいけど…いつみてもエフェクトが派手ね…」
「どうでも…いいだろ。早く収容しよう。誰かに見られると厄介だ」
「わ、わかったわよ」
女はそういって、及び腰のまま地面に横たわる少女に警戒しながら近づくと、軽く焼け焦げたコートの上から、その小さく華奢な体にそっと触れる。
すると少女の体は一瞬で、まるで手品を使ったかのようにその場から忽然と掻き消える。
「お前が収容できるってことは…」
「そうね…間違いなく死んでたみたいね」
男の回答を促すような問いかけに、女が納得したように応える。
「いこう」
「うん」
そして男の短い呼びかけに、女も短く応じると、若い男女の二人組は、近くに停めてあった車へと乗り込み、そのまま夜の街へと消えた。
気が付くと真っ暗な闇の中で、ふわふわと体が宙を浮いていた。確か以前にも同じような感覚に陥ったことがあるような……。
何も存在せず無機質で、まるで物質の存在を拒絶するかのような空間――。
すると突然その空間が弾ける感覚とともに、気が付いた瞬間に体は地面に投げ出され、鈍器で殴られたかのような強烈な痛みが頭を襲う。
「…かっ、はぁ! く、くぅ! ふぅっ!」
同時に襲った酷い眩暈と吐き気で意識を失いそうになる。
「えっ! な、何! どうして!?」
「下がって! 【不死身】と同じような能力かもしれない!」
突然、聞こえてくる女の悲鳴と、警戒心を多分に含む鋭い男の怒声。
え? え、【不死身】って? おい、なんだ。どういうことだ、今の状況を誰か説明してくれ。
クラクラする視界の中、地面に落ちた痛みに耐えながら、必死に辺りを見渡そうと地面に手をつく。
地面は土か? そこには大量の落ち葉が目に入る。地面に転がったときに、これが衝撃を吸収してくれたのか……さっきまで、都心のど真ん中にいたはずなのに?
顔を上げると周囲はうっそうとした感じの森、ここは山か? そして恐怖におびえる女と、それを庇うように立つ男。
なんだ、この修羅場は? 俺が何か悪い事をしたか?
「変身っ!」
突然、男が恥ずかしいセリフを大声で吐くと、音と光のエフェクトが響き渡り、その体をメタルアーマーが包んでいく。
ああ、こいつか。さっき俺を殺ったのは。
「ねぇ! どうするのよ! 【不死身】と一緒なんでしょ?」
「化け物め! 生き返っても動けないように、バラバラにしてやる!」
いきなり人を化け物呼ばわりって……おい……ちょっとまて…そりゃないだろ。おーい。
などど考えている間に、男は巨大なランチャーのような武器を空中から召喚する。
だから、オーバーキルですって、お兄さんてば。それ明らかに対人用じゃないでしょ。サイズからして対戦車砲でしょ。
こ、これは、マズいぞ。なんか生き返ったみたいだけど、バラバラにされたら文字通り手も足もでないじゃないか。そんな怖い事、言わないで!
そのまま土に埋められたり、東京湾に生コン漬けにされて沈められるのは勘弁だぞ。それって逆に死ねない分、正気を失って発狂するだろ!
『Let's Go! Charge! Destroy Target!』
キュイーンという、いかにもな効果音とともに、リズムにのったラップ調の英語のセリフが、ランチャーから繰り返し鳴り響く。
いや、あのさ……もうこれ以上、チャージしなくていいし、目標を破壊するとか言うなだし。その無駄にノリノリな雰囲気で人のこと惨殺しようとするの止めて欲しいし。
あぁ…あれを食らったらダメだ。間違いなくホントに肉片になる。これは、イチかバチかで、やるしかないだろう。うん、やるしかないよね。ダメ元だよね。
だから次の瞬間、俺は最後の力を振り絞って、男の方へと突っ込んでいった。
「バカか! 力で勝てるわけないだろ!」
男がこちらの無謀な行動を嘲るような調子で罵倒する。そう、力では勝てない。でも、俺には異能がある――――だから、俺はその勢いで男の腰に飛びつく。
「やめて!」
そして俺は能力を全開にするイメージで、男にそう「命令」した。
男の腰にしがみついたままの姿勢でギュッと目を瞑る。うまくいっていなければ、このまま男の力で引き剝がされて終わりだ。
誰も何も言わない不気味な静寂の中、ランチャーからのラップ調の英語だけが空しく鳴り響く。
「え? ……嘘? 【主人公】?」
事態の終焉を告げるかのような女の混乱した声音とともに、【主人公】と呼ばれた男はランチャー装備を解除した。
う、うまくいったのか?
悲鳴を上げながら、半狂乱の状態で逃げる女の姿が目に入る。しまった、追わなきゃ…だけど肝心な時に腰に力が入らない。
逃がせば、また狙われる……いや、逃がさなくても狙われるか。どうしろってんだよ…くそっ。
そして、女はそのまま停めてあった車に乗って逃げ去り、俺は棒立ちのフルメタルアーマー男と、ここがどことも分からない山奥に取り残されるのだった。
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