【R18】美少女転生

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プロローグ 「自助努力には限界があります」

第三話 「変調」

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 いつまで経っても、俺が夢から目覚めることはなかった。そして、山積みになった空のカップ麺の容器を眺めながら、俺はボーっと思考を放棄する。

 なぜ、容器が山積みになっているかって?

 そんなもの理由は簡単で、食べても食べても空腹感が全く満たされないからだ。この容器の山はその残骸だ。お陰で俺の食糧在庫も非常事態だ。
 おまけにノドの渇きも満たされない。ラーメンの汁がしょっぱいからではない。水道水(別称:東京水)を飲んでも同じなのだ。

(マジかよ……過食症なのか? この体…)

 そして、空腹にも関わらず、俺が食事をあきらめてしまっている理由。それは食欲が全くわかないないからだ。

 空腹なのに食欲がない。
 無理に食べようものなら、気持ちが悪くなっておう吐する。
 何が何だかさっぱり分からない。

 ――なにこれんでるし。

 空腹感に耐えかねて、とりあえず横になる。いずれにせよ、このままではジリ貧だ。動かないようにして、体力を温存せねば間違いなく死ぬ。
 人は死にそうになると、自分の死期がなんとなくわかるという。そして、俺にはそれが近づいてきているという気配がわかった。
 そんな予感が、さっきから俺の頭の中をグルグルと駆け巡っていたからだ。

 明日には、衣服が届く。そうしたら買い物に出ればいい、きっと甘いものなら満腹感は得られるはずだ。
 食事だって、カップ麺だけどしっかりとっているし、水だって飲んでるし、いきなり脱水症状で死ぬことも、餓死することもないはずだ。
 とにかく自分に都合の良いことを考えながら、横になりつつ、うなり声をあげていると、やがて窓から差し込む光は、オレンジ色になり、薄暗くなる。

 もちろん今の体の状況がわからない以上は、何の根拠もない。そんな事は分かっているが、そう考えずにはいられないのだ。
 けれど、ノドの渇きと空腹感からくる恐怖は変わることなく、少しづつ俺の心をむしばんでいく。何時間も、ただひたすらに折れそうになる心で耐える。
 結局俺は、その日は不安から一睡もできず、そのまま朝を迎える羽目になった。

 朝日が差し込む窓をうらめしく見やる。だが、あとは宅配業者が注文した洋服を持って早く来るのを祈るのみだ。

 早く来い。早く来い。はーやく来い♪

 うん。歌える。まだ余裕あるな俺。まだまだイケる。大丈夫だ。俺が大丈夫と言っているんだから大丈夫だ。
 そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴る音がする。

 キターーーーッ!!!

 俺は弁当容器の腐れ汁など気に留めることもなく、それらを踏みながら突っ走り、そのままの勢いで玄関ドアをバーンッと開ける。
 すると宅配業者の兄ちゃんは、一瞬驚いたような表情をしてから、そのまま俺の胸元に視線を向ける。
 あ、そうだね。今俺の着てる服ってぶかぶかだし。ちょっ、ちょっと、どこ見てんのよ!って感じですよねー。

 さっと胸元を隠すと、兄ちゃんは気まずそうな顔をしてから、
「あ、お届け物です。代引きで2万6千532円です」と、軽く会釈する。

 くぅ…やはり痛い出費だ。これで俺の今月の生活費は残り二千円程度だ。そして、生活保護金の支給まで、残り二週間もある。

「これで、お願いします」

 俺は財布に控えていた諭吉さん他数名を取り出すと、それを兄ちゃんに渡す。
 想定以上に薄くなった我が財布。普通の状態でも、やばいなこれ。

「はい。お釣りです。ありがとうございました」

 爽やかに立ち去る兄ちゃんを見送りながら、俺は我が財布の大幅な戦力ダウンに改めて戦慄を覚えていた。
 だが、こうもしてはいられない。俺は早速届いた荷物の梱包を解き、中の品を確かめる。ワンピースと下着と靴、それとキャミにニーソだ。
 なぜニーソかって、バカを言うな。これはどう考えても外せないだろう。

 いそいそと着替えをして、鏡の前に立ってみて、思わず乾いた笑いが漏れる。

 ……ナニコレ、可愛すぎるだろ。

 美人は何を着ても似合うというが、それを地で言っている感じだ。
 自分の服もろくに選べない俺が、限られた予算で選んだ服でこうなのだから、プロのスタイリストさんが選んだらどうなってしまうんだ?

 そして俺はそのまま、なけなしの二千円を握りしめ、いつものコンビニに向かう。空腹感を満たせそうな甘いものを買うためだ。
 コンビニを入って一直線に向かう先は菓子コーナー。俺御用達ごようたしのサワークリーム味のポテチが無くなってからは、ここに来るのは久しい。
 そこで目についたチョコレートをむんずと手につかむと、会計を済ませるべく、バンッと勢いよくそれをレジに置く。

 どうでも良いけど、男の店員やら客やらが、オスの視線でチラチラとこちらを見てくるんだよね。男の視線って結構わかるもんなんだな。
 きっと「やまみや」さんも、俺の視線、分かってたんだろうなぁ。

 支払いを済ませて、急いでコンビニを出ると、そのままレジ袋から取り出したチョコレートの箱を震える手で開ける。

 早くこれを喰って、このどうにもならない空腹感を満たすのだ。

 そしてそれをむさぼるように食べると、すぐに甘いチョコレートの風味が口の中に広がり、幸せな気持ちで心が満たされる。

 しかし――。それだけだった。

 つまり、結局は空腹が満たされることはなかったのだ。
 いささか浅はかな希望的観測だったとはいえ、唯一の望みがいともあっさりと崩れ去り、俺は絶望的な気持ちで力なしにその場にしゃがみ込む。

「……こんなことって。どうして」

 青空が広がっていて、無駄に天気が良くて、気持ちのいい陽気なのに、俺の心は満たされぬ飢えと渇きでもはや限界を感じていた。
 立ち上がる元気すらなく、もうただどうしたら良いのかも分からず、自嘲気味な笑いが出そうになったその時だった。

「君、どうしたの? 具合でも悪いの?」

 声に反応してゆっくり視線を上げると、そこにはチャラそうな男が二人、こちらを見下ろすようにして立っていた。
 うわー。何か怖い。それが、いつわらざる俺の第一印象だ。
 いつもの俺なら、間違いなくこのシチュエーションは、オヤジ狩りフラグ立ちまくりのルート確定コースだろう。
 しかし、今の俺はオヤジでなく美少女だ。だから、今回は貞操の危険を感じざるを得ない。

「あ、いえ。だ、大丈夫です」

 そう言って、俺はその場を離れるべく立ち上がろうとするが、空腹で意識が朦朧もうろうとしていたこともあって、一瞬ふらついてしまう。
 すると、声をかけてきたチャラ男が、慌てたようにさっと手を差し伸べて転ばないように体を支えてくれる。
 なんだお前、意外といい奴だな。
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