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長旅よりむしろこっちの方が疲れた

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 あたしと両親が落ち着いてからラインヒルデが補足説明をしてくれた。

 あたしとマティルデは聖女適性試験を受ける前に天啓を授かって神聖帝国を離れたことになっている。イストバーンとラインヒルデを救え、との使命をもってその身を呈して二人の暗殺を防いだ、だってさ。

 なのであたしとマティルデが最低の屑と正義の人形に成り果てたことは両親共に知らないままだ。それでいい。あたしが悪意に相応しい末路になったせいで自害しただなんて母……お母様に教える必要なんざ無い。

 で、あたしは役目を果たしたとかでめでたく公爵家への帰還が認められた。だから今日からあたしはただのギゼラじゃなく公爵令嬢ギゼラ、と立場上は戻ったわけだ。……なんだけど、それを触れ回る気は一切無いらしい。

「どうして?」
「逆に聞くが、ギゼラはこれから我が家の娘として振る舞って社交界で交流していくつもりか?」
「いえ。わたくしは既にイストバーンの妻になっていますので」
「ならここぞという時に我々を利用しなさい」

 お父様は優しい笑顔であたしの頬を触れるか否かってぐらい軽く触れた。不思議と不快じゃなかった。
 あんなにあたしを皇太子妃にするのに必死だった権威の亡者がねえ。憑き物が落ちたみたいだ。あまりに記憶と齟齬がありすぎてあまり現実感が湧かないんだが。

 で、イストバーンとあたしが結婚したことは既に両親にも伝わってた。その件はラインヒルデがけしかけたのもあって彼女が事前に両親に謝罪してたらしい。後で母から妻となりいずれ母親になる娘に向けての教えを貰った。

 マティルデは一般留学生扱いになるかと思いきや、前回と同じように聖女候補者として見なされるらしい。まあイストバーン達の暗殺阻止は聖女の天啓ありきで説明するしか無いんだから仕方がない。

「それから……」

 ラインヒルデは何故かあたしとマティルデだけを手招きした。顔を見合わせたあたしとマティルデは二人して応接室の端に寄ると、ラインヒルデが深刻な表情でとんでもないことを教えてきやがった。

「実はな、今帝国学園には悪女と聖女がいるんだ」
「……はあ?」
「何のことを言っているのか分からんだろうが、ギゼラ達なら会えば一発で分かる」
「マジでなんのこっちゃなんだが?」

 悪女と聖女って、そりゃ前回のあたしとマティルデだろ。今回は散々だった前回とは全く別の道を歩いてるのに。まさか実はもう一人ずつあたし達がいて本来の人生を送ってるとかじゃねえだろうな。

 その後はラインヒルデと分かれてあたし達は公爵邸へと向かい、ささやかながら歓迎の晩餐が開かれた。話題はあたしの事中心で、イストバーンとマティルデが興味津々だったから幼少期の武勇伝って体のやんちゃっぷりを暴露された。さすがに恥ずかしい。

 で、あたしはてっきり元のあたしの部屋で寝泊まりするのかと思ったら、なんと別室だった。それもイストバーンと同室。「ほどほどになさいね」とかお母様に釘を差されつつも生暖かい眼差しを向けてくる辺り、どう考えても確信犯だよな。

「……んで、どうする?」
「どうするも何も、求めあってもいいって認めてくれたってことだろ」
「あー、まさかこんな押せ押せされるとか思ってなかった」
「いや、別に寝る度にする必要は無いじゃんか。今日はとりあえず長旅で疲れてるし」
「は? ……馬鹿、あたしの実家にまで来ときながら恥かかせんな」
「――っ。俺の嫁さんが可愛すぎる件について」

 そんなわけであたし達は若さを持て余しておたのしみしちゃいましたとさ。
 何が長旅で疲れてる、だ。馬鹿。
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