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無茶は駄目、休んでくれ

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「ラインヒルデ皇女殿下。これも毒盛られてるかもしれないので預かりますね」

 余裕が出来たからか、マティルデの声が耳に入ってきた。見上げたら青ざめた様子のラインヒルデが持っていたグラスをマティルデがにこやかに没収していた。そしてやりましたとばかりにこちらに合図を送ってくる。

 それから人混みをかき分けてこちらにやってきたのはヨーゼフ様だった。彼は先程イストバーン様方に毒入りグラスを渡していた給仕の腕を締め上げていた。何やら必死こいて自分じゃない的な言い訳を発してるけれど、聞く耳は持たれない。

「マティルデ。彼が君の言っていた、殿下を害した犯人かい?」
「はい、その人が実行犯に違いありません。わたし、ちゃんと見てましたから。少なくとも皇女殿下は彼から受け取ったグラスをそのままイストバーン殿下にお渡ししただけでしたよ」
「なら後はこの者から事情聴取するしかないか。おい、連れて行け」

 ヨーゼフ様に命じられた警備兵が給仕を引っ立てていく。給仕は観念したのかがっくりと項垂れて力なく連れて行かれた。そのついでとばかりにマティルデもラインヒルデのグラスを近衛兵に押し付けて持って行かせる。

「ところでギゼラ様。イストバーン殿下はまだ気分が優れない様子。一旦医務室にお運びしませんか?」
「え? あ、ええ。そうですね。それじゃあ……」
「ほら、そこで自分で担ごうとしない。命じれば動いてくれる人が沢山いるんですし、遠慮なく力を借りましょうよ」
「ですが……」
「でももだってもありません。自分を曲げないのも立派ですけどたまには柔軟に、です」
「うぐっ」

 そんなわけで会場内が騒然となる中、イストバーン様は医務室に運ばれていった。当然救命措置をしたあたしも同行して、念の為にとラインヒルデも診察を受けることになった。そして事態収集にヨーゼフ様を残して何故かマティルデが後に続く。

「ラインヒルデ皇女殿下。さっきのお酒ですけれど、飲んでませんよね?」
「あ、ああ……。ギゼラが叫んできたから少し口に含んだだけで、すぐ吐き出した」
「それはいけませんね。念の為に口を洗浄してください。イストバーン殿下と同じようにエリクサーを飲むのもオススメします」
「そう、させてもらうとしよう……」

 ラインヒルデはさっきの騒動によほど衝撃を受けたようで、動揺を隠しきれてない。まあ暗殺未遂が目の前で起こったんだから当然と言っちゃあ当然なんだけどさ。

 医務室で診察を受けたイストバーン様は命に別状はなくなったので気分が良くなるまで安静にってことになり、寝具に横たわった。ラインヒルデの方も特に毒を接種していなくて問題無し、との結論になった。
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