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ドレスとかは流石に準備してもらうか

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「ところで、そろそろギゼラの分のドレスを仕立てさせたいんだけど」

 そんなこんなで準備を粛々と進めるあたしだったけれど、ある日、いつものように執務室で粛々と自分の仕事を進めていたあたしに、イストバーン様が唐突にそんな言葉を投げかけてきた。

「あら、用意してくださるのですね。安心しましたわ」
「明日街に行かないか? 職人の工房に行こう」

 正直ドレスと宝飾品が提示された条件の通り準備してもらえるのはありがたい。さすがに今の給料じゃあ自分で準備なんざ出来やしない。イストバーン様が馬鹿にされない為には今の流行に合った逸品が必要だから。

「ちなみに王子権限で職人を王宮に呼び出せないのですか?」
「馬鹿だな。それを口実に仕事をサボりたいんだよ」
「ならば、私で良ければ喜んで」

 そんなわけで次の日、あたしはイストバーン様と二人で街に出かけることになった。
 そう、二人きり。まさかの護衛抜き。いや、さすがに距離を置いて護衛は付き従ってるけど、あたしの視界の邪魔にならない位置取りを保っている。
 これじゃあ仕事放置の方が口実であたしとの逢瀬を楽しみたかったみたいじゃねえか。けれどそれが妙に嬉しかった自分がいるのだからしょうもない。

「それで、ギゼラはどんなのが好みなのかな?」
「好みはありますけれど、今回はイストバーン様に合わせますわ。貴方様のお相手に相応しい姿を皆様に見せませんと」
「そう、じゃあ俺の好み一色にしちゃっていいんだな。腕が鳴るなー」
「あの、出来ればご令嬢方の敵対心を買わない控えめにしてくださいませ」

 そんなあたしの危惧はイストバーン様にかなぐり捨てられちまった。なんと彼はあたしを紹介するなり職人と白熱した討論を起こしたんだから。主にあたしをどう着飾るかについて。しかも採算度外視とくれば、もうなるようになれと諦めるしかないよな。

「あとはかつらかー。どうしてそんな刈り上げみたいに短くしてるんだ?」
「頭を洗う時に便利だからです。このぐらい短いと石鹸で充分ですから」
「長くした方が絶対に似合うし綺麗だと思うんだけどな」
「……だからこそ短いままにしていたのですがね」

 服飾店を後にしたあたし達はかつら専門店にやって来た。
 髪型にも流行があって、本っ当にくだらねえんだけどたまに目玉が飛び出るんじゃないかってぐらい奇抜な髪型が流行る。でも地毛じゃ無理ってボリュームの髪型に対応する時とか、ハゲが進行した初老の貴族とかの御用達ってわけ。

「あー。俺流行とか疎いんだよな。職人に任せるか?」
「私は平民の女官です。貴族様方の流行に合わせる必要はございませんわ。大人しく、貞淑に、しかし見栄え良く。先程のドレスに合わせて落ち着いた髪型になるよう作っていただきましょう」
「毛はどんな感じにしようか。ギゼラに近い髪質の毛があればいいんだけどな」
「ご心配には及びません。こんな事もあろうかと持参してきましたので」
「……持参?」

 あたしはかつら職人の前に背負っていた大荷物を置いてやった。中に入れていたのは人毛。職人は目を輝かせて持参品を確認し、唸り声を挙げた。「素晴らしい、これほどの代物はめったに出て来ない」とか絶賛してきた。

 一方、イストバーン様は喜ぶどころか怪訝そうな眼差しをこっちに送ってきた。

「この髪、まさかギゼラのか?」
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