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結局あたしも社交界参加か

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「それで、その夜会とやらにはイストバーン殿下やヨーゼフ様も参加するんですか?」
「王都にいる貴族階級の者は全員参加だね。殿下や僕も例外じゃない」

 貴族階級となるとこの部屋じゃああたしとマティルデを除いた全員か。んじゃあその日の仕事は早上がり出来るな。

「へー。もしかして相方必須だったりします? ヨーゼフ様はどなたと参加を? 婚約者とかいらっしゃるんですか?」
「婚約者はいないよ。僕は……誰と参加しようかな?」

 ヨーゼフ様はちらっとマティルデに視線を向けるものの、当のマティルデは気づく様子がない。これは本当に気付いていないんじゃなくて、そんな素振りを見せて相手をヤキモキさせてるだけだ。やっぱコイツの方が悪女じゃねえか。

「んで、婚約者なしぼっちのイストバーン様はどなたを連れ立って参加するつもりで?」
「酷い言い方だな。罰としてギゼラを相手に選んでもいい?」
「おいおい、こんな田舎娘を連れてくとか酔狂もいいところだろ。あたしだって恥かきたくないんだけど」
「そうか? 時折見せる礼儀正しさは他の貴族令嬢に引けを取らないと思うけどな」

 あたしは自分の髪を引っ張ってみせた。刈り上げよりちょっと長い程度の短髪で、気品も何もあったもんじゃない。そしてこれこそ最低のクズとして生を送った前回との決別の証でもある。

「この頭で行っても笑いの的になるだけなんだけど」
「それだけ短いならかつらかぶり放題じゃないか。何も問題ない」
「……。ゲテモノ食いにも程があるぞ。第一王子なんだから引く手あまただろ」
「無いよ。第一王子だからこそ下手な相手は選べない。ギゼラなら分かるだろ?」

 ……それはつまり、婚約しないことで自分の血を残す気はない、と王太子や王妃に示しているのと同じで、大事な夜会で貴族令嬢を連れ添えば悪目立ちしかねない、か。それに、現状を考えればイストバーン様の傍は危険がつきまとうし、犠牲になる危険性を無視してまで協力者を募るべきじゃねえ。

「だったら気心知れたギゼラと一緒に参加したい。駄目か?」

 イストバーン様があたしの方をまっすぐ見つめてくる。あたしを捉えて離さない彼の瞳に吸い込まれそうになる錯覚を覚える。
 自然と「はい」と呟きかけたのを咄嗟に口を塞いで防いだ。危ねえ危ねえ。

「ドレスも宝飾品も持ってねえんだけど」
「それぐらい俺が準備させる」
「だらしねえ身体してるんだけど」
「コルセットで絞れば? 準備に手間がかかるなら王宮使用人を遣わすから」
「……貴族連中とお喋り出来る知識も情報も無えんだけど」
「ギゼラぐらい頭が良いなら機転を利かせられる筈だよな」

 ああ言えばこう言う、とばかりにあたしの挙げた懸案を処理していくイストバーン様。
 上手くかわせる言い訳が思い付かねえ、と頭を抱えそうになったところでふと気づいた。単純に「嫌だ」と断る気分に微塵もならねえ自分に。

 ……そうか、イストバーン様の誘われることそのものはまんざらでもないのか。

「……当日恥かいても知らねえからな」
「かける恥は二人でかけばいいさ。それが相棒って間柄だろ?」

 イストバーン様が朗らかに笑いかけてきたのでこっちも思わず顔がほころんだ。
 隣のマティルデや同僚達がはやし立てるけど知るもんか。

 だがまあ、あたし個人が馬鹿にされるのは別にいいんだ。いくらみっともなかろうが地味だろうが気にしねえし、社交界の評判なんぞどうだっていいからな。
 でも、あたしのせいでイストバーン様が馬鹿にされるのは勘弁ならねえ。

 いいぜ。やってやろうじゃねえか。
 度肝を抜く大変身ってやつをな。
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