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のんびりした昼食は最高だ

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「飯にするかぁ。イストバーン様は一旦宿戻るのか?」
「ん? ギゼラは戻らないのか?」
「面倒だから弁当持参してきた。あたしは近くの木陰でコレ食べてるから、昼休憩から戻ってきたら再開ってことで」
「それはまた奇遇だな。俺も昼食は持ってきてるんだ」

 あたしの昼飯はパンと水筒に入れた塩スープ、それから干し肉少々。イストバーン様のは意外にもあたしのとそう変わらない携帯食ばっかだった。訳を聞いたら彼も効率性重視で作ってもらったんだそうだ。

 神に祈りと感謝を捧げてさあ食べよう、としたら何だかイストバーン様がこっち……と言うよりあたしの飯をじいっと眺めていた。弁当を手元から離すと彼の視線もつられて動いたから面白い。

「それ、ギゼラが作ったのか?」
「作れるけれどうちの宿は役割分担がきちんと出来てるんでね。これも今朝客に出した朝食の余り物さ」
「……固そうなパンだな。棍棒みたいだ」
「バーカ。そのまま食べるんじゃないよ。こうやって浸して口に運ぶのさ」
「マジか。俺にもちょっとくれよ」
「えー? 代わりにイストバーン様の弁当もちょっと分けてくれよ」

 何か王子様が口を開けてそこを指し示してきましたよ。
 呆れながらもあたしはパンをスープに浸してからイストバーン様の口に突っ込んでやった。彼は起用にもパンを噛みちぎって咀嚼。一気に飲み込む。それから感嘆の吐息を漏らした。いちいち仕草に色気があるのがムカつく。

「うまい。そうか、汁物で固いパンを柔らかくするのか」
「王宮育ちの王子様は柔らかいパンしか口にしたことがない、ってか?」
「バカにするな。国中旅して回ってる間に固いパンだって食べた頃ぐらいあるわ」
「んじゃあ顎が頑丈だからバカ正直にパン単独で食べてたってわけか」

 あたしが笑っていると、イストバーン様が何かをこちらに突き出してきた。よく伺うと干し肉に野菜をくるんでるな。あたしがパンの代わりに要求したものだってわかったのはちょっと考えた後だった。

「ん、ありがと」
「いやちょっと受け取ろうとするなよ。そのまま食べりゃいいじゃんか」
「はあ? いや、まあ、そうだけどさ」
「俺もやったんだからギゼラも。ほら、あーん」
「……あーん」

 あたしは垂れ下がる髪をかきあげて、イストバーン様の手から直接干し肉サンドを口に入れた。気をつけたつもりだったけれど唇の先が彼の指先に触れてしまう。一生懸命咀嚼して恥ずかしさをごまかした。

「うん、やっぱ美味しい。いつもながらいい仕事してるよなーあそこも」
「ん? 誰が作ったか分かるのか?」
「こんな狭い町だ。全員家族みたいなものさ。多分イストバーン様に誘われてなけりゃあこのままここで一生を終えてても良かっただろうな」
「……そりゃあすまんな。でも俺の目が確かなら、ギゼラはこんな田舎町で終わっていい人材じゃあないね」
「そんなの買いかぶりさ。ま、せいぜい失望させない程度には頑張ってやるよ」
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