太陽に嫌われた令嬢ですが、自力で克服したら幸せになりました

福留しゅん

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「グレーズ! お前との婚約は破棄する! そして私の新たな婚約者として聖女であるキャロラインを指名する!」

 王立学園の卒業式を終えた祝いの夜会にて、我が国の王太子であらせられるアルフレッド殿下は突然皆さんの注目を集めたかと思いましたら、突然そのようなことをおっしゃいました。

 皆さんの反応は様々です。何が起こっているのか判断しかねて戸惑う者、祝いの場を台無しにする所業に眉をひそめる方、この先に何が行われるか興味津々に観劇する人。ですが誰一人として王太子殿下をお止めしようとはしませんでした。

「婚約破棄の旨、承知致しました」

 王太子殿下に呼ばれて前に出た公爵令嬢グレーズが恭しく頭を垂れます。一切の振れが無く優雅で優雅な様に多くの貴族令嬢方がため息を漏らしました。淑女の皆様も関心したようでお褒めの声が耳に入ってきます。

 アルフレッド殿下は一切の未練も無く婚約破棄を受け入れられたことに気分を悪くされたのか、険しい顔をされました。折角の端正なお顔が台無しではありますが、完璧とも讃えられた王太子殿下の珍しい反応は実に興味深いです。

 さて、では何故このような事態になったか、を振り返ってみましょう。
 それはわたくしの幼少期まで遡ります。


 □□□


 わたくしはとある公爵家に生を受けたれっきとした公爵令嬢……でした。
 過去形なのはわたくしは母にとって忌み子、父にとって失敗作だそうですので。

 と言いますのも、わたくしは先天的に日の光に当たるだけで酷い火傷を負うほどに太陽に嫌われていたのです。生まれたてのわたくしを日の光が差す窓辺に連れて行った途端に泣き叫んで肌が真っ赤になったそうですから相当深刻だったのでしょう。

 更には乳のように純白な髪、ルビーのように真っ赤な瞳が化け物らしさに拍車をかけたようで。生まれるわたくしを取り上げたお産婆は悲鳴を上げて取り落としそうになった、と後で聞きました。

 キャロラインの知識を失敬するならアルビノ、に近い体質だったようですね。

 母には死産だったことにしてその場で縊り殺すことも検討したそうですが、せめてもの慈悲として最低限の生活は送らせていただくことになりました。無論、家族からは引き離された片隅の小屋へと追いやられて。

 日光が一切入らないよう窓が無い部屋がわたくしにとっての世界でした。わたくしの世話をしてくれた世話係のハリエットがわたくしの母も同然。なのでハリエットのことを「お母さん」と呼ぶようになるにはそう時間もかかりませんでした。

「アレクシア様。そろそろ外に出てみませんか?」

 ある程度部屋の中を歩き回れるぐらいに成長したわたくしにハリエットが微笑みながら提案してくれました。外の世界はわたくしに死をもたらすと散々言い聞かされていましたので、ハリエットがわたくしを殺そうとしていると恐怖と絶望したのを今でも覚えています。

 大泣きしながら「いい子になります」「嫌いな野菜も残しません」「夜ふかしもしないですぐ寝ます」「だから嫌いにならないで」とハリエットに強くお願いしてようやくハリエットも言葉足らずだったと気づき、慌てて謝ってくれました。

「ちち違うんですお嬢様! お嬢様を痛めつけるのは昼の世界です! 太陽の光さえ無い夜でしたら外に出ても大丈夫なんですよ」
「ほ、本当に……?」
「ええ。ですからあたしと一緒に夜のお散歩をしてみましょう! 小屋の周りを少しうろつくだけですから心配いりません!」
「……うん」

 ハリエットに手を引かれて初めて小屋を出たわたくしを出迎えてくれたのは、満天の星空でした。空は小さな光を散りばめられ、片隅にとても明るく輝く月が浮かび、虫の鳴き声と風の音がとても心地よく聞こえてきました。

 あまりの情報量の多さにわたくしは感動より戸惑いが先行したものです。ハリエットが色々と説明してくれるにつれて段々と緊張しなくなったわたくしは楽しさと喜びに満ち溢れ、この素敵な体験にとても感謝したものです。

「すごいすごい! 外ってこんなにすてきなんだね!」
「ええ。素晴らしいでしょう。こうして静かな夜に佇むととても落ち着くんです。あたしのお気に入りの時間の過ごし方ですよ」
「ねえねえアレなに!? あ、なんかあそこの木の上が動いたよ!」
「あれはですねー」

 その夜はあまりにはしゃぎすぎて興奮したのもあって凄く疲れて翌朝寝坊してしまいました。
 色々と疑問に思ったことを知りたくなってもハリエットが分からないことも少なくなく、本で調べる癖が付いたのもそれがきっかけでしたね。

 さて、元気いっぱいに遊んでいればいい幼少期もそこそこに、わたくしも貴族令嬢としての教育を受ける年齢に差し掛かりました。しかし小屋に幽閉されたわたくしが社交界に出る必要など微塵もありませんでしたので、教育係はいないままでした。

「では不肖、このあたしがお嬢様の教育係を務めさせていただきます!」
「大丈夫?」
「全く駄目ですね。しかし問題ございません。あたしもお嬢様と一緒に勉強すればいいのですから!」
「心配だなぁ……」

 わたくしは全ての分野においてハリエットから学びました。この家の分家筋にあたる子爵家の令嬢だったハリエットは謙遜とは裏腹に何でもそつなく先生役をこなせました。無論至らぬ点もありましたがその際は彼女は自分も一緒になって書物とにらめっこしたものです。

 少しずつ賢くなっていくと、ふと一つ疑問が生じました。どうしてわたくしはろうそくや暖炉といった火の光は大丈夫なのに太陽は駄目なのだろう、と。同じ光でも何か違うのでしょうか?

「そうですね。教会の人たちは日の光が汚れを浄化したり悪魔を祓うからだとか言ってますけれど、あたしはそう思いません。あくまで想像に過ぎませんけど、日光にはお嬢様を害する何かが混ざってるんでしょう」
「どうしてそう思うの?」
「あたしの実家の領地に洞窟がありましてね。そこから取ってきた水晶に光をかざすと光が白じゃなくなるんです。虹色になるんですね」
「虹! わたし見たことないなぁ。夜に雨が降っても見れないんだもん」
「そう、単なる白い光だと思ってたのに七色に分散出来るんです。もしかしたら神様が太陽を創った時に透明な色をこっそり混ぜていたって不思議じゃあありません」
「へぇ~」

 ハリエットは仮説を披露した後に「これ教会の教えだと異端ってみなされるかもしれませんから二人だけの内緒ですよ」と付け加えました。

 ハリエットにとっては単なる思いつきだったかもしれませんが、わたくしにとっては天啓も同然でした。それからわたくしは日光に混ざった八つ目の無色透明な光を意識するようになったのです。


 □□□


 さて、この世界には魔法や奇跡がございます。この国では魔法の使い手はほとんどが貴族階級。というより魔法が使えるから貴族を名乗って人々の上に立つようになった、と言って過言ではありません。

 幽閉中の身ではありましたが身分を剥奪されたわけではないわたくしも貴族令嬢の端くれ。魔法も学ぶようになりました。火や水を出すのはとても楽しかったですし、土いじりや風で浮かぶのはとても胸を踊らせました。

 松明程度の光を杖の先に灯せるのにも慣れてきたので、わたくしは光をいじることにしました。ハリエットが言うには太陽の光も朝日と日中と夕日で全然色が違うそうなので、その辺りに秘密があるんじゃないかと考えました。

「なるほど。上手く説明出来ませんが、光を縮めたり伸ばしたりするんですね」

 試行錯誤を繰り返し、やがてわたくしは緑色や黄色の光を出せるようになりました。訓練を積むにつれて段々と赤色や青色の光も出せるようになりました。伸ばして縮めて七色に変わる光線も問題なくなりました。

 じゃあ青色から更に光を伸ばしたり縮めたらどうなるか、と好奇心で力を込めました。縮め縮めと念じながら踏ん張って踏ん張って光は紫色に変わり、やがて光が段々と薄くなっていきました。

 そう、わたくしが真相へと至り、同時に地獄を覗いた瞬間でもありました。

「ぎ、あ"あ"ぁぁあ"あ"っっ!?」

 あんな絶叫を上げたのは後にも先にもあれっきりです。

 わたくしは赤子の頃からわたくしを拒絶する存在、紫から外れたとても縮んだ見えざる透明の光を発してしまったのです。後に紫外線と名付けたそれはたちまちにわたくしを焼き焦がしました。

 あまりの激痛で紫外線を発していた杖を離したことで光は止みました。幸いにもこの時に負った火傷は数カ月後に痕が残らないぐらいにまで治りましたが、杖を離した瞬間にわたくしは意識を手放していました。でなければ気が狂っていたでしょう。

「ああ、お嬢様! よくぞご無事で……!」

 目を覚ましたわたくしは涙を流しながら顔をぐしゃぐしゃにしたハリエットに抱きつかれました。わたくしはこの時になってようやくハリエットを心配させることをしてしまって激しく後悔しました。

 ある程度落ち着いたら今度は頬を叩かれました。わたくしがどれだけ危険な真似をしたか、もう少し長く光が発せられていたら命に関わった、もうこんな無謀な真似はしないでほしい、などと散々に叱られました。

 それでもわたくしを昼の世界から拒絶する元凶を突き止めたことは大きな前進だったことに違いはありません。正体が掴めれば後はそれを太陽の光から除去する方法を探ればいいんですから。

「紫外線、ですか……。これが太陽に光には大量に混ざってたんですね」
「どうにか紫外線だけを取り除けないものかしら?」
「うーん。人の目には透明な光なんですから、ガラスみたいな透明な壁とか板とか膜で遮れないですかね?」
「光を遮る魔法はあるけれど……色々と試さないと駄目ね」

 昼間はハリエットとの勉強の時間に費やし、日が暮れてからわたくしは修行をするようになりました。その頃には日没と共にわたくしは外へと出るようになったので、屋外であれこれ試すようになったのです。

 離れの小屋であっても公爵家のお屋敷の敷地内。夜間に様々な光を魔法で発していれば目立つものです。後から聞くとお屋敷の一角からなら意識すれば確認出来たんだそうです。

「やあ。君が光のお姫様かい?」

 その夜、わたくしは運命の出会いを果たしたのでした。


 □□□


 公爵家ともなればお屋敷に皆さんを招いての夜会を開くこともよくあります。海上の熱気から一旦離れて外の空気を吸いに行くことだってあるでしょう。そして夜風に当たっているうちに昼間なら離れの小屋が小さく見える位置に来ることだって。

 色とりどりの光を放つわたくしはどのような膜を魔法で作ればどんな光を遮れるかの試験をしている最中でした。たまたま多様な光を放っていたせいで彼の目に入り、好奇心から彼が足を運んできたのです。

 物心ついてから男性に……いえ、ハリエット以外に会うのは初めてだったので、その方がいらっしゃったのはとても驚きました。そしてどのようにすればいいのか混乱してしまい、何も出来ずに狼狽えるばかりでした。

「あの、その……」
「ああ、ごめんね。驚かすつもりはなかったんだ。ただ君が綺麗な光を作っていたから。僕はてっきり妖精さんが出てきたのかと思ったよ。確かめたらもっと素敵な人だったね」
「ふぇっ!?」

 殿方にお会いした時にどのように振る舞えばよいかはハリエットに学んでいましたが、そんな教科書に書かれた模範解答など頭から飛んでいました。こんな時に限ってハリエットはお屋敷に用事があっていません。

 泣き出したくなるぐらい恐怖に襲われましたが、彼はわたくしには近寄らず、その場に腰を下ろしました。そしてわたくしを情熱的に見つめるばかりで他には何もしません。そうすると段々とわたくしも落ち着いてきまして、彼を見つめ返せました。

「た、大変失礼しました……」
「いや、突然現れた僕が悪いんだ。不安にさせるつもりはなかった。ごめんね」
「え、と……わ、わたくしはアレクシアと申します。」
「アレクシア……ああ、実にいい響きだよ。素敵な名前だね」
「そ、そうでしょうか……?」

 後で冷静になればお世辞とも考えられましたが、舞い上がり気味だったわたくしは褒められて嬉しさが込み上げたものです。ちなみにその更に先で本人に聞いたところ素の感想を口にしただけだったとか。天然で女性を褒め称えるなんて罪ですよね。

「僕はホレイシオ。ここから遥か遠くの国からはるばるやってきたんだ」
「ホレイシオ様……」
「敬称は要らないよ。ただのホレイシオで良い。その代わり僕も君を名前で呼んでもいいかな?」
「は……はいっ!」

 それから彼はわたくしにわたくしがこれまで知らなかった世界を教えてくれました。雲を突き抜けるぐらい高い山、見渡す限り水面だけの大海原、大地が純白に覆われる寒い雪国。渓谷を飛び回るドラゴンや古の城に君臨する悪魔、この辺りに生える木より遥かに高く太い生きる大樹など、わたくしの想像の及ばない広大な光景を丁寧に語ってくれたのです。

 ホレイシオはもう長い間生まれ故郷には戻っていないんだそうです。ずっと諸国を旅していて、道中で人助けもしましたし、戦争に巻き込まれたこともありました。わたくしを楽しませた冒険譚もそんな道中の出来事に過ぎなかったのです。

「僕はね、世界中を旅して回っているんだ。とても大切なものを見つけるために」
「宝石や古代の遺跡よりも、ですか?」
「僕は……救いたいんだ。僕の大切な仲間たちを。その方法を求めてこの国にもやってきたってわけさ」
「見つかるといいですね。ホレイシオさんならきっと見つけますよ」

 ホレイシオは数年の間この国を拠点に探し物を続けるんだそうです。どうしてこの国なのか、それは彼の旅の仲間が占った結果この国の近くで探し物が見つかるかもと出たからなんだとか。

 わたくしも彼のようなわくわくする体験が出来ればなぁ、と願ってしまいましたが、太陽に嫌われた今のままでは決して敵わぬ夢。そもそも太陽を克服したところでこの弱い身体では長旅には耐えられないでしょう。聞いて楽しむのがせいぜいです。

「また会えるかな?」
「わたくしはずっとここにおります。次立ち寄った時はまた別のお話を聞かせて下さいね」
「勿論だよ。楽しみに待っていてくれ」

 それからわたくしの生活は少し変わりました。ホレイシオがたまにわたくしの小屋を訪れるようになったのです。ささやかですが様々な土産話を語ってくれて、立ち寄った土地のお土産も持ってきてくれました。勉強道具や書物以外は生活用品しか無かったわたくしの部屋も彼のお土産が飾られるようになりました。

 わたくしはつい嬉しくなってホレイシオのことをハリエットに喋りました。ハリエットは彼が何者かを直ちに調べたんだそうです。もしわたくしに取り入ろうと近づいてきた輩なら排除するつもりだったそうです。そんな一言に浮かれていたわたくしはなんて間抜けだったのだろうか、と反省したものです。

「ホレイシオ様は側近の方と共にこの国に滞在していました。社交界にも姿を見せていますが、村や街にも足を運んでいるのだとか」
「彼の探しているものは何か分かったかしら?」
「図書館では魔導書や伝書を中心に手に取っているそうです。お仲間を救いたいと仰られたそうですが、どうやら本当にその手段を探し回っているようですね」
「何なのか教えてくれれば力になれるかもしれないのに……」

 ホレイシオの強い意志は伝わってきましたが彼は頑なに教えてくれませんでした。
 単にわたくしに語ったところで意味は無い、というわけではなく、わたくしに告白してしまったら取り返しのつかないことになる、といった風に感じられました。

 その日はわたくしが魔法の練習をするのをホレイシオがただ黙って眺めていました。彼からしたらとっくに見飽きたでしょうに、いつもわたくしが発する光はとても綺麗で幻想的だと褒めてくださいました。

「ところで、出会ってからずっとそんな風に色々な光を出すけれど、最終的にどんな光を出すつもりなのかな?」
「あ、いえ。光を出したいんじゃなくて、光を遮りたいんです」
「光を遮る……?」
「実はですね……」

 わたくしは日の光に当たるだけで大火傷を負う体質なのだとホレイシオに打ち明けました。まるで本に書かれた吸血鬼のようだと避けられる心配もあったのですが、彼ならきっと受け入れてくれるだろうとの自信と期待を込めて。

 ところが彼の反応はわたくしが予想しないものでした。わたくしの研究を聞く度に段々と真剣な面持ちをなさり、最後には思い詰めたような顔で深く考え込んでしまいました。

「太陽の光に混ざった紫外線を防ぐ膜を形成する魔法を開発中、か。それ、どこまで研究が進んでるの?」
「え、と。あと一歩なのです。一定の波長……あ、ごめんなさい。これわたくしの造語でした。特定の種類の光だけ遮る膜は作れたのですが、どうしても透明にならないんです。これでは自分の周りを何かが覆っているとすぐに分かってしまいます」

 白い色が光をよく弾いて黒い色が光をよく吸収するように、紫外線だけを弾いたり吸収する透明な膜を作れば良い。そう到達点は掲げたものの、中々上手くいきませんでした。わたくしの魔法構築に欠かせない認識力が足りないのか、紫外線を防ごうとすると教会のステンドグラスよりも光を通さない透明度の低い壁になってしまうのです。

 ほら、こんな風に。とわたくしは左手の杖で自分の周りに光を遮断する膜を張って右手の杖で太陽の光を再現しました。光があるのにすぐ傍にいるホレイシオの様子が確認出来ないぐらい濃い黒の膜がわたくしを覆っています。

「これでは肌を晒さない服を着るだけの方が何倍もマシです」
「……いや、これなら僕から助言すればいけるよ」

 ホレイシオは光と遮断膜を消したわたくしの手を取りました。そして強く握りしめてきます。彼の手はとても温かく、ごつごつしててたくましかったです。ちょっと力が強すぎて痛かったほどなのはご愛嬌でしょう。

「え……? ほ、本当ですか……?」
「うん。間違いない。アレクシアは太陽を克服出来る」

 わたくしは彼の助言を聞き入れて遮断膜に改良を加えました。ホレイシオは紫外線がどんなものかを理解した途端に対抗策をすぐさま導き出したのです。助言によって遮断膜は段々と通さない光を限定していき、やがて七色全ての光を通す無色透明なものとなったのです。

 今度こそ、とわたくしは左手の杖から透明な紫外線遮断膜を形成、右手の杖で太陽の光を再現しました。するとどうでしょう、杖の先の光ははっきり見えるのにわたくしは一切焼かれずに済んだのです!

「やりました……やりましたよホレイシオ!」
「ああ、ついにやったねアレクシア!」
「これで、これでわたくしはやっと太陽を見ることが出来るのですね……!」
「あー、眩しすぎるから直視するのは駄目だからね」

 早速わたくしは次の日の朝に試すことにしました。あまりに興奮しすぎて中々寝付けず、危うく日の出を過ぎても目覚めないままでいるところでした。眠気を堪えながら目を擦って身支度を整えて小屋を出ると、そこにはホレイシオが柔軟体操をしながら待っていました。

「いよいよだね」
「ええ」

 夜の世界が終わりを迎え、空が段々と明るくなっていきます。アレだけ空に輝いていた星が全く見えなくなるぐらい眩しく、黒色だった空が紅く、青くなっていく光景はとても幻想的で素晴らしく、思わず涙をこぼしました。

 そしてわたくしは生まれて初めて日の出を拝むことが出来ました。
 それも、肌が一切焦げ付きません。わたくしの防御膜は紫外線を防いでいます。

 ああ、素晴らしい。アレが太陽ですか。
 わたくしはついに太陽を克服したのです。
 これは生まれながらの宿命に勝ったとも言えるのではないでしょうか!

「ありがとうございます、ホレイシオ。貴方がいなければきっとわたくしは夜の世界でしか生きられなかったでしょう」
「いや、とんでもない。アレクシアが紫外線を発見したからここまで来れたんだ。むしろ礼を言うのは僕の方だよ」
「? それは一体どういうことでしょうか?」
「……もうちょっとしたら話すよ。全てが終わったら、ね」

 わたくしはこの感動をホレイシオと分かち合いたかったのですが、ホレイシオはどうやらわたくしが成功したことをわたくしが考える以上に偉大なことだと思ったようです。それがどうしてかを知るのはもっと後のことでした。

 わたくしは彼がどうして感極まって泣くのか理解出来ませんでしたが、初めての朝の世界を迎えたわたくしはどうしてかを考える余裕はありませんでした。それでもわたくしを祝福してくれたホレイシオのことを、わたくしはとても好きになったのです。


 □□□


 さて、この国の貴族令息、令嬢は例外無く王立学園に通う決まりとなっています。違反すれば本人のみならず家そのものがお取り潰しになるのだとか。病弱だから表に出せないと隔離されていたわたくしも例外ではありません。

 しかしわたくしを白い化け物だの悪魔だの決めつける実父と実母はこの家の娘として学園に通わせたくないようでした。手続き上はそうしてやるが学生生活では公爵家とは関係無いよう振る舞え、との命令が書かれた手紙が送られてきました。

 当たり前ですが実父と実母にわたくしが太陽を克服したことは一切喋っていません。両親の愛情は今更要りませんし、公爵家の娘としての義務は果たせそうにありません。なので王立学園を卒業して成人すれば家を離れるのが自然な流れでしょう。

「全く問題ありません! 旦那様や奥様と交渉してあたしの実家の末娘として通うことが許されましたので!」
「本当ですか!? ありがとうございます、お母さん!」
「おっと、驚くのはまだ早いですよ! 更に旦那様にはお嬢様が成人なさったらうちの家との養子縁組を結ぶことも約束していただきました。これで数年後にお嬢様は名実ともにあたしの娘です!」
「っっ! お母さん大好き!」

 ハリエットが上手く立ち回ったおかげでわたくしは晴れて彼女の娘になれました。わたくしはそれがとても嬉しくてハリエットに抱きついてずっと彼女の温もりに包まれました。ハリエットもわたくしの頭を優しく撫でてくれて、幸せでした。

 さて、紫外線を日中の間ずっと遮断出来るようになったわたくしはもう怖いもの無しです。光を色々いじれるようになったので髪の色を見かけだけでも変えるなんて造作もなく、学園に通っている間のわたくしは黒い髪の少女となりました。

「さあ、行こうかアレクシア」
「ええ、ホレイシオ」

 なんと驚いたことにホレイシオはわたくしと同年代だったのです。いえ、後に聞いたところ正確には人間換算で、だったそうですがね。なのでホレイシオもまた留学生としてわたくしと共に王立学園に通うようにしたのです。何故って? わたくしと青春を謳歌したかったんですって。

 何故かホレイシオ様は地味な姿に変装なさっていました。代わりに側近の方がホレイシオ様そっくりに装って目立っていました。なので学園では側近の方が良く声をかけられ、ホレイシオ様の人気はさほどでもなかったです。

「どうして入れ替わるような真似を?」
「アレクシアとの時間を楽しみたかったからね。面倒事はクライドに任せておけばいい。彼が僕が会うべきだと判断したら紹介してくれるだろう」
「クライド様、ご子息ご令嬢問わず声をかけられますね。ホレイシオも本来あんなに目立っていたかも、なんですね」
「……ま、これにはもう一つの意図があるのだけれどね。いずれ話すよ」

 学生生活については多く語りませんが、沢山の出来事があってとても新鮮でした。勉強は楽しかったですしお友達は沢山出来ましたし、ホレイシオと街を散策するのはいつも心をときめかせたものです。

 そうそう、学園では不思議な出来事がありましたっけね。

 わたくしの実の両親はわたくしを生んですぐに子供を生んだそうで、わたくしのほぼ一年後に生まれた女の子はわたくしの同学年になりました。名をグレーズと申しまして、成程確かに公爵令嬢にふさわしい教養、気品、人柄を兼ね備えていました。その美しさは男女問わず見惚れるほどでした。

 妹のグレーズはこの国の王太子であらせられるアルフレッド殿下の婚約者でした。仲睦まじく肩を並べて歩く美男美女はとても絵になり、この国の未来は安泰だと皆さんが思うほどでした。

 そんなグレーズとアルフレッド殿下の関係が壊れたのは、キャロラインが現れてからでした。

 魔を祓う聖なる存在として教会に認定された彼女の手は人々の怪我を癒やし、病気を治し、心の苦しみから解放しました。国にとって貴重な存在となった彼女はもてはやされ、敬われるようになったのです。

 キャロラインはわたくしから見ても可愛かったですし愛嬌もありましたし、何より殿方を楽しませる話術がございました。学園中の人気者になるのにもそう時間は要りませんでした。

「ふぅん。やっぱり彼女、そうするんだ」

 昼休みに食堂でわたくしがホレイシオと昼食を取っていたら、見目麗しい方々にちやほやされる彼女を一瞥して彼はそう呟きました。それはわたくしへ送ってくれる言葉と全く異なり、とても冷たいものでした。思わず耳にしたわたくしの背筋が凍るほどの。

 やがてキャロラインはやんごとなき家柄の殿方に愛されるようになりました、将軍殿のご子息、辺境伯の嫡男、この国の宰相の後継ぎ、大人顔負けの大魔法使い。そしてグレーズの婚約者だったアルフレッド殿下もまた。

 やがてグレーズとアルフレッド殿下の関係も冷えていき、疎遠になっていきました。アルフレッド殿下はキャロラインと蜜月の関係になり、彼女と過ごす時間の方が多くなりました。さすがに夜は共に過ごしませんでしたがね。

 しかしそんなアルフレッド殿下の不貞に対してグレーズは何も言いませんでした。むしろ勝手にやって頂戴とばかりに他のご令嬢とお茶会を楽しんだりする始末。王太子妃教育は毎日王宮で受けていますので完全に見限ったわけではなさそうでした。

「婚約関係が続いているのに浮気をしても問題無いのでしょうか?」
「いや。問題大有りだね。王太子達がおかしいのさ」
「どうしてそれを誰も咎めないのですか?」
「相手が聖女だからだよ。一国の王子よりもずっと大事な存在だ。多少のやんちゃは許されてるってところだろうか」

 キャロラインは時折ハーレムだとか呟いていました。調べてみたら遥か遠くの国では王様が多くの妃を侍らすことをハレムと言うそうですね。まあ、きっとハレムとハーレムは似て非なるものなのでしょう。

 あとキャロラインは独り言のように「あと少しで隠しキャラを解放できるわ」と仰っていましたね。理解出来なかったのでホレイシオに聞いたら「君は知らなくていいよ」と言われ、ハリエットに喋ったら「まあ汚らわしい、耳が腐ります!」と嫌悪感をあらわにしました。

 そうしてグレーズとアルフレッド殿下の関係が修復不可能にまでなり、わたくし達は学園の卒業を迎えました。そしてその祝いの夜会でアルフレッド殿下は歴史書にも記されることになる愚行、所謂婚約破棄をやってのけたのです。


 □□□


「兄上、失望しましたよ。あまりに不誠実です。父上……国王陛下もお怒りでした」
「ウィルフレッド……! どういうことだ!?」

 茶番劇も同然だった断罪劇は第二王子殿下が会場に入ってきたことで急展開を迎えました。ウィルフレッド殿下は堂々とした立ち振舞で身勝手な婚約破棄を突きつけたアルフレッド殿下を糾弾なさったのです。

 アルフレッド殿下はグレーズへ婚約破棄を突きつける理由としてキャロラインへのいじめをあげていました。取り巻きに命じてキャロラインを蔑ろにしたり、私物を隠したり、悪口を言ったり。時には校舎裏に呼び込んで暴力を振るったとか。

 キャロラインの告発は嘘ではなく実際に行われたことですが、グレーズは実行犯の令嬢達との関係を否定しました。令嬢達もウィルフレッド殿下に問い詰められると最終的には良かれと思ってと勝手に判断したことを自白しました。

「そもそも、このわたくしが望んでアルフレッド殿下との婚約関係であっただなんて勘違いは今すぐ正していただきたいですわ。王妃様が寛大な心で見守って欲しいと仰っていたからこそ続けていましたのに」
「へ……?」
「最も、キャロライン嬢にお会いする前までのアルフレッド殿下とは生涯を共にしても良い、という信頼関係は築けていたと思っておりました。まさか可愛らしい聖女が現れたからと崩れ落ちるような脆い絆だっただなんて。わたくしは悲しゅうございます」
「グ、グレーズ……」
「しかしわたくしとの関係を清算しないうちにキャロライン嬢にうつつを抜かした挙げ句に婚約者のわたくしを蔑ろにする始末。いくらわたくしへの情を失ったとしても不誠実でございましょう」

 完全に形勢逆転していました。アルフレッド殿下は婚約破棄を皮切りに勢いに乗ってグレーズを破滅させようとしたようですが、グレーズはそんな浅はかな計画を完膚なきまでに打ち砕いたのです。

 愛に興じたアルフレッド殿下は正当性を訴えたグレーズを論破出来ず、目に見えて狼狽えました。彼と同じくキャロラインに惹かれた側近たちに助けを求めるように視線を投げかけますが、無常にも無関係を装って王太子殿下から距離を置きました。

「アルフレッド様……だからわたし、言ったじゃないですか。グレーズ様との関係はどうするんですか、って……」
「キャロライン、グレーズの奴が何を言っても問題ない。そもそも私の独断でこのような真似をするものか。既に国王陛下には私の意思を伝え、許可を得ている」
「許可って、どのように言われたんですか?」
「勿論、私に任せていただけるとのお言葉を頂いている」
「兄上、都合のいいように解釈しないで下さい。国王陛下は「好きにせよ」と仰せになっただけでしょう」

 これは後ほど分かったことですが、アルフレッド殿下はグレーズへの婚約破棄ならびにキャロラインと新たに婚約を結ぶことを国王陛下に願い出たのですが、国王陛下は勝手な真似をする息子を後継者失格とみなしたんだそうです。なので国王陛下の真意は「キャロラインと添い遂げたいなら好きにしろ。王族としての義務を果たさない王子など無用。第二王子のウィルフレッドを新たな王太子とする」です。

 ようやく取り返しのつかない事態に陥っていることに気づいたアルフレッド殿下は青ざめましたが、グレーズは軽蔑、ヴィルフレッドは失望の視線を送ります。肝心の愛したキャロラインにすら軽率な真似にドン引きされる始末。
 命運が尽きたと悟ったアルフレッド殿下は膝をついてがっくりと項垂れました。

「ごめんなさいアルフレッド様……やっぱりわたしは聖女としての義務を全うした方がよさそうですね」

 したたかにもアルフレッド殿下を突き放したキャロラインの発言に多くの方が呆れましたが、かと言って最後の一線を踏み越えなかった彼女を罪を問えず、陰口を叩く反応に留まっていました。

 そんな彼女にそっと寄り添ったのはホレイシオの側近であるクライド様。変装しているとは言え普段のホレイシオと瓜二つなのは彼がホレイシオの親戚だからだとか何とか。そのうち家族を紹介するとホレイシオは約束してくれましたね。

「ああ、そうだね。君は授かった奇跡で人々を救済するべきだ。それが聖女として生まれた者の使命だからね」
「ホレイシオ様……」

 そんなクライド様は学園生活を送る間、キャロラインと親しくしました。ホレイシオが言うには聖女と仲良くしておいて損は無いからとのことですが、わたくしにも分かります。そんな大義名分とは異なる真の任務を命じたのだろうと。

 キャロラインは熱を帯びた眼差しをクライド様に向けましたが、クライド様は爽やかな笑みをこぼすばかりです。紳士的ではありましたが情熱は込められていません。結局最後まで親しい友人に対する接し方を崩しませんでした。

 で、何故クライド様がホレイシオを名乗っているのか? わたくしはこの時にようやく分かりました。他の鼻の下を伸ばした殿方と一緒にキャロラインをちやほやしたのも、この瞬間のためだったのです。

「卒業してしまったら故郷に戻らなきゃいけないけれど、遠い地からずっと応援しているよ。キャロラインが立派な聖女になれますように、って」
「へ……?」

 お別れを告げたクライド様にキャロラインは愕然としました。
 まるで信じていたものが根底から覆された。そんな感じの絶望が見て取れます。

「ホレイシオ様? わたし、貴方方を救うことが……」
「それは結構。既に解決策を発見したからね。もう聖女の力を借りなきゃいけない危機は乗り越えたんだ」
「そ、そんな! ホレイシオ様達が昼の世界に祝福されるには聖女の奇跡が必要だったはずです!」
「それは自惚れというものだよ。人の叡智は時に神の奇跡を上回る時もある。教訓として覚えておいた方がいい」

 そこからは語るまでもないでしょう。クライド様に拒絶されたキャロラインは嘆き悲しむしかなく、宴を台無しにしたとしてウィルフレッド殿下に退場を命ぜられ、教会関係者に連れて行かれました。そして全てを失ったアルフレッド殿下もまたその場を後にしました。近衛兵に連れて行かれそうになったところを自分の足で立ち去った所を見るに、往生際は悪くありませんでしたね。

 それからウィルフレッド殿下は自分が新しい王太子に任命されたこと、グレーズが引き続き王太子妃を務めること、自分達がこの国に栄光と繁栄をもたらすことを約束しました。ヴィルフレッド殿下が密かにグレーズに恋心を抱いていたことはわたくしを初め皆さんにもバレバレでしたので、皆して祝福しました。

「アレクシア。以前からの提案、受け入れてくれるかな?」

 踊っている最中、わたくしは相方になったホレイシオに問いかけられました。

 提案とは、卒業後に自分の故郷に伴侶として連れていきたい、というものです。学園生活で友人が出来たとは言え未練を残すほどでもなく、家族とも疎遠なので離れられてむしろせいせいします。

 唯一悲しいのはハリエットと離れ離れになることですが、彼女は「子はいつか親元から巣立つものです! 頑張って幸せになってくださいね! それが親孝行っていうものですから!」と言ってくれました。感涙してしまいました。わたくしったら本当に涙もろいですよね。

「ええ。不束者ですがどうぞよろしくお願いいたします」
「愛しているよアレクシア。必ず幸せにする」
「ありがとうホレイシオ。わたくしもお慕いしております」

 曲が終わってホレイシオは優しくわたくしを抱きしめました。
 彼の温かさを感じてわたくしは喜びに満ち溢れました。
 周りが大騒ぎしたのは言うまでもありません。


 □□□


 キャロライン曰く、この世界は乙女ゲームとやらの舞台なんだそうです。
 題名は……別にいいでしょう。わたくしにとっては無駄な情報ですので。
 キャロラインは乙女ゲームを知る転生者だと自称したのだとか。

 かいつまんで説明すると、キャロラインは乙女ゲームとやらの主人公で、やんごとなき身分の殿方との恋路を学園生活中に楽しむ立場なんだとか。恋の相手、通称攻略対象者はウィルフレッド殿下を初めとする今回キャロラインに懸想を抱いた五人衆。五名の好感度を攻略可能にまで高めながらも夜のお楽しみイベントは起こさないことがトゥルーエンドとやらに行くために必要なんだとか。

 トゥルーエンドはキャロラインが聖女としての使命を全うする結末。彼女と愛し合ったホレイシオは実は彼女、というより聖女が滅ぼすべき魔族の王子ですが、聖女の奇跡で世界に拒絶されていた魔族が救われるのだとか。救世の聖女キャロラインと魔王となったホレイシオが新たな未来に思いを馳せながら愛を語り合い、物語は幕を下ろします。

 ところが攻略される筈だった当のホレイシオがクライド様を身代わりを仕立てたものですから何もかもご破算。攻略に失敗したキャロラインは他の転生者が妨害したせいだと身勝手な恨みを吐き続け、聖女としての救済の旅に送り出されたそうです。トゥルーエンドと違ってホレイシオのいない、孤独な旅路に。

「は? 魔族の王子? 聞いてないんですが?」
「言ってなかったからね。それに魔族だなんてこっちの地方の人達が勝手に呼んでるだけでしょう。僕らは同じ人間だよ。ちょっと太陽に嫌われてただけのね」

 で、乙女ゲームの攻略を未然に防いだホレイシオ自身は転生者でも何でもありませんでした。けれど数代ほど前にキャロラインと同じ世界から転生してきた者が予言書として乙女ゲームの内容を細かく記録していたため、対策を打てたのだとか何とか。

 で、驚くべきことに、わたくしは本来ならラスボスだったんですって。この世に絶望したわたくしは全てを恨んだ破滅の白魔女としてキャロラインとホレイシオに討たれる筈だったんだとか何とか。あー、それでキャロラインがわたくしのことを後の破滅の白魔女だと分かった途端に転生者だと疑って罵ってきたわけです。酷い言いがかりですよね。

「紫外線だけを遮断する魔法。これで僕らは救われる。太陽に怯えて過ごさなくても良くなったんだ」
「ですがホレイシオもクライド様も昼間に普通に行動なさってましたよね」
「王族なら身体から魔力を発して太陽光を防げるからね。強引な手段だから民には真似出来ないんだよ。紫外線が発見されて原理が分かったことでようやく魔法を効率化出来たんだ」
「……まさか、この魔法が目当てでわたくしのことはおまけですか?」
「まさか! こんなものはついでだよ。僕はアレクシアが光とともに踊るのを見た瞬間に恋に落ちたんだ」
「……本当ですか? 嘘じゃないですよね?」
「拗ねないでくれ僕の可愛いアレクシア。僕の誇りと君への愛に誓おう」

 ちなみに王太子……いえ、元でしたね。元王太子殿下がしかけた婚約破棄と断罪を可憐に退けたグレーズもまた転生者だったそうです。彼女は後輩キャラだった第二王子が好きだったらしく、最初からウィルフレッド殿下に照準を定めていたんだとか。ああ、無論不貞は働いてませんでしたよ。アルフレッド殿下とは違います。

 グレーズはそのままヴィルフレッド殿下と添い遂げて王太子妃となりました。末永くお幸せに、と同級生としては思いますが、別に家族としてどころか友人としても付き合いはありませんでしたね。祝福なら父や母にでもしてもらってください。

「さあ、じゃあ行こうか」
「ええ、行きましょう」
「ほら、太陽も僕らの新たな旅立ちを喜んでくれてるよ」
「本当ですね。とても美しいです」

 わたくしとホレイシオは朝日が昇ってくる方向に向けて旅立ちました。
 それから二人は幸せに過ごしました、とだけ語っておきましょう。


 □□□


「いやー、推しを娘にして幸せにする。これぞ転生者の特権でしょう!」

 ……ちなみにわたくしとホレイシオの結婚式に招待したハリエットが深夜に酔っ払ってこんな暴露をしたのは余談の範疇ですね。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

荒谷創
2024.12.14 荒谷創

ははははは

知的好奇心と創意工夫こそ人を人足らしめる。
神のシナリオなど知った事かw
聖女に転生したからといって慢心して、他の転生者の可能性を失念するなんて、そりゃあ失敗するわな。ドンマイw

元王太子はまあ、廃嫡の上謹慎かな。
弟夫婦に嫡子が生まれ、正統な後継者が決まるまで大人しくしておけば、臣下に降って一応高位貴族では居られるだろう。或いは神殿預かりで聖職者ルートかね。
側近候補の連中は実家で冷や飯食らい決定。
ハニトラに引っ掛かる様な間抜けでは、使い物にならないと見なされても仕方ないさね。

2024.12.14 福留しゅん

元王太子や側近の末路はお察しくださいとしか言いようがないぐらい分かりきってますよね。

解除

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