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第四章 熾天魔王編
■■■■、その悲願を語る
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「イスラフィーラ様が先に行けって行ってたけど、誰が待ってるんだろうな? あの方より偉いってなったらそれこそ教皇聖下しかいらっしゃらないだろ」
「んー。ある程度予測は出来ますけれど、それを今喋っちゃうのは野暮ですね。どうせすぐに分かるんですからわくわくしながら待ちましょうよ」
「ま、そうだな。それより謁見の間から先って言ったらそれこそ祈りの間ぐらいしか開けた空間が無いんだが、まさか教皇聖下の執務室に押しかけるとか言わないよな?」
「興味はありますけれど止めておきます」
イスラフィーラが待ち構えていた謁見の間を抜けた俺達は先へと進む。それなりに広い廊下を抜けるもののやはり誰にも遭遇しなかった。イスラフィーラの命令で避難か部屋に閉じこもってるのだろうか。何にせよ邪魔が無いのは喜ばしい。
やがて俺達は教会総本山の中枢である大聖堂でも最奥に位置する祈りの間にやってきた。ここには聖者認定された教会でも最も重要な存在の聖骸が安置されているらしい。年に数回の行事でしか用いられない重要な場所で、普段は立ち入り禁止だ。
扉を押すと簡単に開いた。どうやら鍵は解錠してあるらしい。遠慮なく入った先には意外にも教皇本人、そして傍には厳粛な修道服と頭巾で身を包んだ修道女が控えていた。広大な空間の中に二人だけだったが、不思議と寂しいだとかは感じなかった。
「さて、余達の相手は教皇御本人ですか?」
「いえ、聖女ミカエラと聖騎士ニッコロの相手は余が務めましょう」
修道女から発せられた声を聞いてようやく気づいた。彼女は聖地で来訪者相手に人形劇をしていた修道女(仮)じゃないか。どうして彼女が教皇の傍に……なんて、不思議に思うまでもなく大体察せてしまった。
「先ほどぶりですね。あの芝居はどうでしたか? 事実を分かりやすく説明したつもりでしたが。気に入っていただけたなら頑張って人形を作ったかいがあります」
「ええ、とっても参考になりました。でも事実だって断言する理由は? 当時の事情を知るのはそれこそドラゴンのような長命種だけ。ハイエルフや悪魔すら寿命が足りないでしょう。余だってあくまで残された手がかりから推理してるだけですし」
「それを説明するのはまずあの人形劇の続きをやらなければいけませんね」
修道女が両手の指を動かすと左右に並べられた長椅子の裏から人形が二体現れた。聖地での劇ではそれぞれ初代聖女と初代魔王を演じていた。そんな二体だったが先ほどとは異なっていた。初代聖女の方が倒れ、それを初代魔王が見下ろす構図だったからだ。
「復活魔法リヴァイヴで時間を置いて蘇った魔王が目にしたのは今まさに処刑されようとしていたパトラでした。逆さ磔にされた彼女に民衆は石などを投げつけ、権力者は大衆娯楽を眺めるように楽しみ、彼女の弟子達は隠れて怯えるだけでした」
「魔王は打ち捨てられたパトラの亡骸を前に嘆きました。我々の活動は無意味だったのか? アーサーの教えは救いにならないのか? それともこの世界に生きる者達は神が愛するに値しないのか?」
ゆるい造形で可愛らしい初代魔王人形が嘆く様子を演じる姿は奇妙ではあったがやはり心にくるものがあった。修道女がアーサーと呼ぶ救世者人形やパトラと呼ぶ初代聖女人形が脇で回想シーンを熱演して盛り上げる。
「アーサーは愚か者じゃない。パトラは間違ってなんかない。その前提がある以上魔王はこう結論付けるしかありませんでした。愚民共には教えは早すぎた。もっと成長させるべきだ、と」
「だから魔王は表舞台から姿を消しました。教えを正しく布教して理解させるために教会という組織を作り、国教にさせ、やがて国そのものを作らせたのです。人々に都合がいいように魔王の存在を歴史から抹消し、パトラだけを目立たせるようにして」
「ですがね。財力、権力、暴力といった力はやがて人々を堕落させます。教えを都合のいいように捻じ曲げ、弱者を虐げ、私服を肥やすようになります。どんなに掟で縛ろうと組織に腐敗は必ず訪れます」
初代聖女人形が退場し、初代魔王人形が脇に下がったあと、明らかに脇役っぽい連中がわちゃわちゃとやり取りする。俗物共は終いに金貨や宝石だろう小物を溢れんばかりに持ったり無力な少女人形に手を伸ばそうとした。
そんな脇役どもだったが、舞台袖として機能する長椅子の影から飛び出してきた大悪魔人形とドラゴン人形によって瞬く間に蹴散らされる。大悪魔人形の魔法とドラゴン人形のブレスで教会や城が描かれたハリボテがバタバタと倒れた。
「そのために魔王は用意したのです。後の世で魔王と呼ばれるようになる者達をね」
修道女曰く、魔王刻印を持って生まれた宿命の子は破壊とその後の再生を行いたいとの衝動が芽生えるらしい。その矛先は自分に楯突く人類圏に向けられ、魔王軍を率いて殺戮と破壊を引き起こすんだとか。
そんな魔王刻印持ちの子が誕生するよう初代魔王が世界に仕組んだのが宿命の理法フェイトオラクル。つまり魔王が度々誕生して人類圏を蹂躙してきたのは全てこの初代魔王の壮大な計画にもとづいていたのかよ。
「そしてそんな魔王達を退場させる人類の希望、パトラの奇蹟を受け継ぐ者達。そう、勇者と聖女も登場させました。二人の仲間として三聖もね」
新たな登場人物として総勢五名の勇者一行人形が現れた。彼らは剣などを手に勇敢に魔王人形へと挑み、もみ合った末に大悪魔人形やドラゴン人形を討ち果たした。勇者人形と聖女人形がそれぞれ剣と杖を高く掲げ、勝利を喜んだ。
しかしそんな英雄譚の設定段階が既に初代魔王執筆の脚本の範疇だった。勇者紋章も聖女聖痕もイブリース先生の予測通り初代聖女の奇跡が分散したものだったが、まさかそれをばらまいたのも初代魔王だったとはね。
「初代魔王は決めてました。いつしか聖痕の聖女や刻印の魔王といった過去に失敗した初代聖女や初代魔王の模造品なんかじゃなく、自分達を追い抜いて未来へと駆け抜けていく者達が現れた時こそが世界救済への次の一歩だから、その時になったら身を引こう、とね」
「んー。ある程度予測は出来ますけれど、それを今喋っちゃうのは野暮ですね。どうせすぐに分かるんですからわくわくしながら待ちましょうよ」
「ま、そうだな。それより謁見の間から先って言ったらそれこそ祈りの間ぐらいしか開けた空間が無いんだが、まさか教皇聖下の執務室に押しかけるとか言わないよな?」
「興味はありますけれど止めておきます」
イスラフィーラが待ち構えていた謁見の間を抜けた俺達は先へと進む。それなりに広い廊下を抜けるもののやはり誰にも遭遇しなかった。イスラフィーラの命令で避難か部屋に閉じこもってるのだろうか。何にせよ邪魔が無いのは喜ばしい。
やがて俺達は教会総本山の中枢である大聖堂でも最奥に位置する祈りの間にやってきた。ここには聖者認定された教会でも最も重要な存在の聖骸が安置されているらしい。年に数回の行事でしか用いられない重要な場所で、普段は立ち入り禁止だ。
扉を押すと簡単に開いた。どうやら鍵は解錠してあるらしい。遠慮なく入った先には意外にも教皇本人、そして傍には厳粛な修道服と頭巾で身を包んだ修道女が控えていた。広大な空間の中に二人だけだったが、不思議と寂しいだとかは感じなかった。
「さて、余達の相手は教皇御本人ですか?」
「いえ、聖女ミカエラと聖騎士ニッコロの相手は余が務めましょう」
修道女から発せられた声を聞いてようやく気づいた。彼女は聖地で来訪者相手に人形劇をしていた修道女(仮)じゃないか。どうして彼女が教皇の傍に……なんて、不思議に思うまでもなく大体察せてしまった。
「先ほどぶりですね。あの芝居はどうでしたか? 事実を分かりやすく説明したつもりでしたが。気に入っていただけたなら頑張って人形を作ったかいがあります」
「ええ、とっても参考になりました。でも事実だって断言する理由は? 当時の事情を知るのはそれこそドラゴンのような長命種だけ。ハイエルフや悪魔すら寿命が足りないでしょう。余だってあくまで残された手がかりから推理してるだけですし」
「それを説明するのはまずあの人形劇の続きをやらなければいけませんね」
修道女が両手の指を動かすと左右に並べられた長椅子の裏から人形が二体現れた。聖地での劇ではそれぞれ初代聖女と初代魔王を演じていた。そんな二体だったが先ほどとは異なっていた。初代聖女の方が倒れ、それを初代魔王が見下ろす構図だったからだ。
「復活魔法リヴァイヴで時間を置いて蘇った魔王が目にしたのは今まさに処刑されようとしていたパトラでした。逆さ磔にされた彼女に民衆は石などを投げつけ、権力者は大衆娯楽を眺めるように楽しみ、彼女の弟子達は隠れて怯えるだけでした」
「魔王は打ち捨てられたパトラの亡骸を前に嘆きました。我々の活動は無意味だったのか? アーサーの教えは救いにならないのか? それともこの世界に生きる者達は神が愛するに値しないのか?」
ゆるい造形で可愛らしい初代魔王人形が嘆く様子を演じる姿は奇妙ではあったがやはり心にくるものがあった。修道女がアーサーと呼ぶ救世者人形やパトラと呼ぶ初代聖女人形が脇で回想シーンを熱演して盛り上げる。
「アーサーは愚か者じゃない。パトラは間違ってなんかない。その前提がある以上魔王はこう結論付けるしかありませんでした。愚民共には教えは早すぎた。もっと成長させるべきだ、と」
「だから魔王は表舞台から姿を消しました。教えを正しく布教して理解させるために教会という組織を作り、国教にさせ、やがて国そのものを作らせたのです。人々に都合がいいように魔王の存在を歴史から抹消し、パトラだけを目立たせるようにして」
「ですがね。財力、権力、暴力といった力はやがて人々を堕落させます。教えを都合のいいように捻じ曲げ、弱者を虐げ、私服を肥やすようになります。どんなに掟で縛ろうと組織に腐敗は必ず訪れます」
初代聖女人形が退場し、初代魔王人形が脇に下がったあと、明らかに脇役っぽい連中がわちゃわちゃとやり取りする。俗物共は終いに金貨や宝石だろう小物を溢れんばかりに持ったり無力な少女人形に手を伸ばそうとした。
そんな脇役どもだったが、舞台袖として機能する長椅子の影から飛び出してきた大悪魔人形とドラゴン人形によって瞬く間に蹴散らされる。大悪魔人形の魔法とドラゴン人形のブレスで教会や城が描かれたハリボテがバタバタと倒れた。
「そのために魔王は用意したのです。後の世で魔王と呼ばれるようになる者達をね」
修道女曰く、魔王刻印を持って生まれた宿命の子は破壊とその後の再生を行いたいとの衝動が芽生えるらしい。その矛先は自分に楯突く人類圏に向けられ、魔王軍を率いて殺戮と破壊を引き起こすんだとか。
そんな魔王刻印持ちの子が誕生するよう初代魔王が世界に仕組んだのが宿命の理法フェイトオラクル。つまり魔王が度々誕生して人類圏を蹂躙してきたのは全てこの初代魔王の壮大な計画にもとづいていたのかよ。
「そしてそんな魔王達を退場させる人類の希望、パトラの奇蹟を受け継ぐ者達。そう、勇者と聖女も登場させました。二人の仲間として三聖もね」
新たな登場人物として総勢五名の勇者一行人形が現れた。彼らは剣などを手に勇敢に魔王人形へと挑み、もみ合った末に大悪魔人形やドラゴン人形を討ち果たした。勇者人形と聖女人形がそれぞれ剣と杖を高く掲げ、勝利を喜んだ。
しかしそんな英雄譚の設定段階が既に初代魔王執筆の脚本の範疇だった。勇者紋章も聖女聖痕もイブリース先生の予測通り初代聖女の奇跡が分散したものだったが、まさかそれをばらまいたのも初代魔王だったとはね。
「初代魔王は決めてました。いつしか聖痕の聖女や刻印の魔王といった過去に失敗した初代聖女や初代魔王の模造品なんかじゃなく、自分達を追い抜いて未来へと駆け抜けていく者達が現れた時こそが世界救済への次の一歩だから、その時になったら身を引こう、とね」
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