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第四章 熾天魔王編
聖女魔王、教会総本山への招集命令を受ける
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「そんな都合のいい奇跡があるのか?」
俺もそれなりに歴史を勉強したものだが、過去に聖女が魔王から刻印を無力化した上で討伐したなんて記録はどこにも無い。つまりは現時点では実在するかも怪しいただの願望に過ぎないんだが。
「いえ、あります。過去に――」
「あらあら、ミカエラちゃんじゃないの」
聖堂内を雑談しながら進んでいたら、途中で声をかけられる。振り向くとそこには温和との単語が真っ先に思い浮かぶ慈愛あふれる聖女の姿があった。彼女こそミカエラ達聖女の中で最も大聖女に近いと讃えられる聖女ガブリエッラだった。
「お久しぶりです聖女ガブリエッラ。聞きましたよ! 奉仕活動の合間に魔王軍を次々に撃退したんですってね」
「どうもー。ミカエラちゃんだって聖地巡礼の旅に出るって言い張っておきながら各地の魔王軍を鎮圧していったじゃないの」
「それほどでもありますよ。我が騎士がとっても優秀ですからね! 聖女ガブリエッラも早く自分の騎士を選ぶべきですよ」
「んー、ごめんなさいね。私はもう自分の聖騎士を持とうとは思わないの。冒険者だって優秀だからそれほど困ってないものね」
ミカエラとガブリエッラが雑談している間に俺は彼女の同行者を確認する。
一人はなんとついこの前ミカエラに完膚なきまでに叩きのめされたラファエラだった。ミカエラを目撃して居心地悪そうに視線をそらしている。化粧でごまかしてるけれど明らかに生気が感じられない。転移魔法で逃れてから何かあったか?
一人は外套に身を包んで頭巾で目元を隠しているせいで全容が見えない。ミカエラぐらい小柄なので決して聖騎士じゃないのは分かるんだが、唯一露わになる口元から少女だろう程度しか推測不可だな。彼女がガブリエッラの付き人か?
もう一人は聖騎士の全身鎧を身につけているが、なんと兜の隙間も仮面が覆っていて誰かは判別がつかない。……とは言え佇まいや体格、それに物腰からも誰なのかは一発でバレバレなんだけどな。
「それと、お久しぶりですね聖女ラファエラ。元気してましたか?」
「……おかげさまで最悪よ。分かってるくせに言わないで頂戴」
「勇者や三聖達は部外者扱いですか。彼らも呼ばれてると思ってたのですが」
「……勇者達がどうなったかはどうせすぐに分かるわ」
ラファエラは目が据わったままで先へと急ぎ、聖騎士ではなく少女が彼女の後を追った。これは伝え聞いてた内容と合致してるのだが、目の前で見せつけられるとやはり信じられないとの思いが強いものだ。
「自分の聖騎士は持たない、とか言っておきながら彼は侍らせるんですね」
「人聞きの悪い言い方は止めてくださいな。彼は旅の仲間です。失意のどん底にいた彼に手を差し伸べられたのは全くの偶然だもの」
「なるほど。彼女が彼を再利用しましたか。ラファエラへの当てつけですか?」
「さあ? あの娘の考えはわたしには測りかねるので」
ミカエラとガブリエッラは雑談を切り上げて先へと進む。二人が並ぶものだから俺と聖騎士も自然と並ぶ形になる。……どうやら今の彼にとってはミカエラや俺も警戒対象なようだな。ガブリエッラを警護対象としているんだろう。
「ようヴィットーリオ。俺達が出ていってから色々あったみたいだな」
「そうだな。色々とあったよ」
隣の聖騎士、ヴィットーリオへ遠慮なく声を掛けると、彼もまた普通に返事を返してきた。以前と同じふうな、と言いたかったんだが、その声は少しかすれてるし苦しそうだ。そうだな、肉が無い高位のアンデッド系魔物が喋る時はこんな感じか。
「道中何があったかは聞かせてくれるんだろ?」
「ああ、勿論だ。そっちこそどんな旅だったか教えてくれな」
「是非聞いてくれよぉ。こっちはミカエラのせいで大変だったんだって! とんでもない戦いに巻き込まれるし遭遇する敵も一筋縄行かなくてさ」
「俺の方は上手くいかなかったよ。ラファエラ達には迷惑かけちゃったしな。こうなったもの全部俺が至らなかったせいさ」
「そう言うなって。愚痴なら後で酒の場で聞いてやるよ。思う存分吐き出そうぜ」
「……ありがとう。そうさせてもらうよ」
俺達もそこで会話を切り上げる。ちょうど集合場所に着いたからだ。
教会総本山謁見の間に集った聖女は十人弱ほど。聖女の人数は時代により増減するものの概ね十二人前後を維持している。これは初代教皇とその同志達が十二名だったことに由来している。……俺の知る聖女を数名見かけないが、魔王軍との戦いの最中に殉教したそうだ。
上座にいるのは玉座に座る教皇、傍にいるのは首席聖女イスラフィーラ。聖女の左右に並ぶのは枢機卿達か。教会上位の者達が今広大な広間に勢揃いしている。一体何を始めるのか不思議でたまらなかったが……、
「今日をもって今代の魔王との聖戦の終結を宣言します」
そうイスラフィーラは皆に言い放った。
俺もそれなりに歴史を勉強したものだが、過去に聖女が魔王から刻印を無力化した上で討伐したなんて記録はどこにも無い。つまりは現時点では実在するかも怪しいただの願望に過ぎないんだが。
「いえ、あります。過去に――」
「あらあら、ミカエラちゃんじゃないの」
聖堂内を雑談しながら進んでいたら、途中で声をかけられる。振り向くとそこには温和との単語が真っ先に思い浮かぶ慈愛あふれる聖女の姿があった。彼女こそミカエラ達聖女の中で最も大聖女に近いと讃えられる聖女ガブリエッラだった。
「お久しぶりです聖女ガブリエッラ。聞きましたよ! 奉仕活動の合間に魔王軍を次々に撃退したんですってね」
「どうもー。ミカエラちゃんだって聖地巡礼の旅に出るって言い張っておきながら各地の魔王軍を鎮圧していったじゃないの」
「それほどでもありますよ。我が騎士がとっても優秀ですからね! 聖女ガブリエッラも早く自分の騎士を選ぶべきですよ」
「んー、ごめんなさいね。私はもう自分の聖騎士を持とうとは思わないの。冒険者だって優秀だからそれほど困ってないものね」
ミカエラとガブリエッラが雑談している間に俺は彼女の同行者を確認する。
一人はなんとついこの前ミカエラに完膚なきまでに叩きのめされたラファエラだった。ミカエラを目撃して居心地悪そうに視線をそらしている。化粧でごまかしてるけれど明らかに生気が感じられない。転移魔法で逃れてから何かあったか?
一人は外套に身を包んで頭巾で目元を隠しているせいで全容が見えない。ミカエラぐらい小柄なので決して聖騎士じゃないのは分かるんだが、唯一露わになる口元から少女だろう程度しか推測不可だな。彼女がガブリエッラの付き人か?
もう一人は聖騎士の全身鎧を身につけているが、なんと兜の隙間も仮面が覆っていて誰かは判別がつかない。……とは言え佇まいや体格、それに物腰からも誰なのかは一発でバレバレなんだけどな。
「それと、お久しぶりですね聖女ラファエラ。元気してましたか?」
「……おかげさまで最悪よ。分かってるくせに言わないで頂戴」
「勇者や三聖達は部外者扱いですか。彼らも呼ばれてると思ってたのですが」
「……勇者達がどうなったかはどうせすぐに分かるわ」
ラファエラは目が据わったままで先へと急ぎ、聖騎士ではなく少女が彼女の後を追った。これは伝え聞いてた内容と合致してるのだが、目の前で見せつけられるとやはり信じられないとの思いが強いものだ。
「自分の聖騎士は持たない、とか言っておきながら彼は侍らせるんですね」
「人聞きの悪い言い方は止めてくださいな。彼は旅の仲間です。失意のどん底にいた彼に手を差し伸べられたのは全くの偶然だもの」
「なるほど。彼女が彼を再利用しましたか。ラファエラへの当てつけですか?」
「さあ? あの娘の考えはわたしには測りかねるので」
ミカエラとガブリエッラは雑談を切り上げて先へと進む。二人が並ぶものだから俺と聖騎士も自然と並ぶ形になる。……どうやら今の彼にとってはミカエラや俺も警戒対象なようだな。ガブリエッラを警護対象としているんだろう。
「ようヴィットーリオ。俺達が出ていってから色々あったみたいだな」
「そうだな。色々とあったよ」
隣の聖騎士、ヴィットーリオへ遠慮なく声を掛けると、彼もまた普通に返事を返してきた。以前と同じふうな、と言いたかったんだが、その声は少しかすれてるし苦しそうだ。そうだな、肉が無い高位のアンデッド系魔物が喋る時はこんな感じか。
「道中何があったかは聞かせてくれるんだろ?」
「ああ、勿論だ。そっちこそどんな旅だったか教えてくれな」
「是非聞いてくれよぉ。こっちはミカエラのせいで大変だったんだって! とんでもない戦いに巻き込まれるし遭遇する敵も一筋縄行かなくてさ」
「俺の方は上手くいかなかったよ。ラファエラ達には迷惑かけちゃったしな。こうなったもの全部俺が至らなかったせいさ」
「そう言うなって。愚痴なら後で酒の場で聞いてやるよ。思う存分吐き出そうぜ」
「……ありがとう。そうさせてもらうよ」
俺達もそこで会話を切り上げる。ちょうど集合場所に着いたからだ。
教会総本山謁見の間に集った聖女は十人弱ほど。聖女の人数は時代により増減するものの概ね十二人前後を維持している。これは初代教皇とその同志達が十二名だったことに由来している。……俺の知る聖女を数名見かけないが、魔王軍との戦いの最中に殉教したそうだ。
上座にいるのは玉座に座る教皇、傍にいるのは首席聖女イスラフィーラ。聖女の左右に並ぶのは枢機卿達か。教会上位の者達が今広大な広間に勢揃いしている。一体何を始めるのか不思議でたまらなかったが……、
「今日をもって今代の魔王との聖戦の終結を宣言します」
そうイスラフィーラは皆に言い放った。
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