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第四章 熾天魔王編
戦鎚聖騎士、聖都に帰還する
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「とっても面倒くさいです! さぼってもいいですよね?」
「馬鹿言うなって。今回の招集命令は教会本部どころか教皇聖下からの勅命だろ? ズル休みするわけにもいかないだろ」
「むー。各地に派遣してる聖女全員を聖都に集めるなんて、教皇は何するつもりなんですかね?」
「いよいよ魔王城にでも攻め込む聖戦の開始を宣言するつもりなのかね?」
俺とミカエラ達はいよいよ最後の聖地……に行く前に、直前に立ち寄った教会で聖女の招集命令が出ていることを知った。最後の最後でお預けされたミカエラは不承不承ながら従うことに決め、聖都に戻ってきた。
人類圏各地は魔王軍による襲撃を受けて甚大な被害を受けているものの、聖都は未だ脅威が及んでいない。そのため栄華と権威は一切失われておらず、久々に戻ってきた俺達をその重厚な城壁が出迎えた。
聖都への出入りは厳重に管理されていて、ネズミ一匹も無断では通さないとまで言われるほどだ。これは決して誇張表現なんかじゃなく、聖都一体を邪悪なる力を退ける聖域の結界が覆っているからだ。
「その筈なんだけれどなぁ」
「ん? 何か言いましたか?」
城壁の門前には巡礼者や商人といった大勢の人が列を成していたが、聖女は特権として優先的に手続きをしてもらえる。学院時代はよくミカエラと暇つぶしに明け暮れたものだ。あれも趣はあったけれど、やっぱ待ち時間は短い方が気分がいいな。
で、だ。門をくぐった時点で俺達は聖都を守る結界を通過したわけだが、ミカエラは何事もなく平然としている。そう、純粋な悪魔であり魔王である彼女は結界の影響を受けていないのだ。
「いや、聖域の奇跡ホーリーサンクチュアリだったっけか。まともに機能してんのかよと疑問に思っただけだ」
「ざるではありませんよ。はるか昔の大聖女が張った奇跡を今の今まで維持してきた教会の努力は馬鹿にしてはいけません」
「じゃあどうしてミカエラは無事なんだ?」
「無事じゃないですよ。もっとよく目を凝らして余を見てみれば分かります」
良く見ろだぁ? 仕方なくじっくりとミカエラを眺めると……何だかうっすらと淡い光が彼女を覆ってるな。ってミカエラ、頼むからそう凝視されて恥ずかしいみたいに頬を赤らめてもじもじするな。
「改宗の奇跡サルベーションです。本来は邪悪や魔の力を弾く防御用ですが、逆に余自身の魔の力を外に漏らさない効果もありますね」
「気付かなかった……。もしかして学院に入学した時からずっとそうしてたのか?」
「勿論ですとも! でなきゃ一発でばれちゃいますからね。ちなみに聖域内の魔の力は大幅に制限されますが、余にはさして影響ありませんね」
「他の都市と違って地下にも魔物がいないのは聖域の加護があるから、だったか」
とはいえ、学院時代は全く気付かなかったぞ。多分俺の目が節穴だったんじゃなく聖地巡礼の旅で俺もそれなりにレベルアップしてるんだろう。ただ単にミカエラに振り回されたんじゃなく、着実に自分の血肉にもなってるってことだ。
そう言えばと視線を移すと、やはりイレーネも自分を淡い光で覆っていた。さすがに魔王装備は結界に反応しそうだしな。むしろティーナとダーリアが全く何もしないで入れたことに疑問を抱いてしまうのはおかしいだろうか?
「ちょっとニッコロ。また変なこと考えてるでしょう? 私はドワーフなんだから聖域なんて何の意味も無いに決まってるでしょうよ」
「ウチだってエルフなんだから効果は無いぞー。この弓だって厳重に封印されてる限りは反応しないだろうしなー」
普通に考えればそうなんだが二人とも経歴が経歴だしな。心配したっていいだろ。とは口が裂けても言わないつもりだったが、何故かティーナもダーリアもにやにやしながら俺の方を眺めてくる。顔にでも出てたか?
「教会総本山には聖女と護衛の聖騎士一名だけで来るよう言われてます。ティーナ達はしばらく聖都内を観光でもしててください」
「はいさー。うちは冒険者ギルドに顔出して軽めの依頼でもこなしてるから」
「私は折角だからここの工房にでも足を運ぼうかしらね。人間の職人の腕を見ておきたいわ」
「僕は教会で祈りを捧げておくよ。『僕』としても久々の聖都は感慨深い」
そんなわけで俺とミカエラはイレーネ達と分かれ、教会総本山へと足を向ける。
教会総本山は教会関係者だろうと出入りは厳しく制限されているんだが、聖女の立場ならほぼ顔見せと身分証の提示だけで手続きは済んだ。聖女付き聖騎士の俺も拍子抜けするぐらいに簡単に終わる。
そうして俺達は戻ってきた。聖地巡礼の旅に出た場所に。
「戻ってきましたね、我が騎士!」
「ああ。色々とあったもんだ。まさか魔王経験者に三人も出くわすとは想像もしてなかったけどな」
「しかし蘇生の奇跡も体得しましたし、あと一歩ですよ! 最後の聖地を巡礼すれば余はルシエラを救うことが出来ます」
「魔王継承戦でその手にかけた妹を蘇らせるための奇跡を使えるようにする、って目的はもう叶ったんじゃないのか?」
元々ミカエラは聖女の奇跡を極める修行のために聖地巡礼の旅に出た。その本質はルシエラに死者蘇生の奇跡をかけて復活させるため。でもそれはこの前勇者一行と戦った際にラファエラが発動しようとしてたのを盗み見て覚えただろう。
しかしミカエラはそれでは不十分だと顔を横に振る。ミカエラ曰く、元のまま蘇らせてもルシエラは生まれ持った魔王刻印によって魔王となることを宿命付けられていて、ミカエラが魔王である限り戦わなければならない定めらしい。
「ですから、魔王刻印を無効にする奇跡を習得しなきゃいけないんです。そうしてようやく余とミカエラは普通の姉妹として仲良くなれるんですね」
「馬鹿言うなって。今回の招集命令は教会本部どころか教皇聖下からの勅命だろ? ズル休みするわけにもいかないだろ」
「むー。各地に派遣してる聖女全員を聖都に集めるなんて、教皇は何するつもりなんですかね?」
「いよいよ魔王城にでも攻め込む聖戦の開始を宣言するつもりなのかね?」
俺とミカエラ達はいよいよ最後の聖地……に行く前に、直前に立ち寄った教会で聖女の招集命令が出ていることを知った。最後の最後でお預けされたミカエラは不承不承ながら従うことに決め、聖都に戻ってきた。
人類圏各地は魔王軍による襲撃を受けて甚大な被害を受けているものの、聖都は未だ脅威が及んでいない。そのため栄華と権威は一切失われておらず、久々に戻ってきた俺達をその重厚な城壁が出迎えた。
聖都への出入りは厳重に管理されていて、ネズミ一匹も無断では通さないとまで言われるほどだ。これは決して誇張表現なんかじゃなく、聖都一体を邪悪なる力を退ける聖域の結界が覆っているからだ。
「その筈なんだけれどなぁ」
「ん? 何か言いましたか?」
城壁の門前には巡礼者や商人といった大勢の人が列を成していたが、聖女は特権として優先的に手続きをしてもらえる。学院時代はよくミカエラと暇つぶしに明け暮れたものだ。あれも趣はあったけれど、やっぱ待ち時間は短い方が気分がいいな。
で、だ。門をくぐった時点で俺達は聖都を守る結界を通過したわけだが、ミカエラは何事もなく平然としている。そう、純粋な悪魔であり魔王である彼女は結界の影響を受けていないのだ。
「いや、聖域の奇跡ホーリーサンクチュアリだったっけか。まともに機能してんのかよと疑問に思っただけだ」
「ざるではありませんよ。はるか昔の大聖女が張った奇跡を今の今まで維持してきた教会の努力は馬鹿にしてはいけません」
「じゃあどうしてミカエラは無事なんだ?」
「無事じゃないですよ。もっとよく目を凝らして余を見てみれば分かります」
良く見ろだぁ? 仕方なくじっくりとミカエラを眺めると……何だかうっすらと淡い光が彼女を覆ってるな。ってミカエラ、頼むからそう凝視されて恥ずかしいみたいに頬を赤らめてもじもじするな。
「改宗の奇跡サルベーションです。本来は邪悪や魔の力を弾く防御用ですが、逆に余自身の魔の力を外に漏らさない効果もありますね」
「気付かなかった……。もしかして学院に入学した時からずっとそうしてたのか?」
「勿論ですとも! でなきゃ一発でばれちゃいますからね。ちなみに聖域内の魔の力は大幅に制限されますが、余にはさして影響ありませんね」
「他の都市と違って地下にも魔物がいないのは聖域の加護があるから、だったか」
とはいえ、学院時代は全く気付かなかったぞ。多分俺の目が節穴だったんじゃなく聖地巡礼の旅で俺もそれなりにレベルアップしてるんだろう。ただ単にミカエラに振り回されたんじゃなく、着実に自分の血肉にもなってるってことだ。
そう言えばと視線を移すと、やはりイレーネも自分を淡い光で覆っていた。さすがに魔王装備は結界に反応しそうだしな。むしろティーナとダーリアが全く何もしないで入れたことに疑問を抱いてしまうのはおかしいだろうか?
「ちょっとニッコロ。また変なこと考えてるでしょう? 私はドワーフなんだから聖域なんて何の意味も無いに決まってるでしょうよ」
「ウチだってエルフなんだから効果は無いぞー。この弓だって厳重に封印されてる限りは反応しないだろうしなー」
普通に考えればそうなんだが二人とも経歴が経歴だしな。心配したっていいだろ。とは口が裂けても言わないつもりだったが、何故かティーナもダーリアもにやにやしながら俺の方を眺めてくる。顔にでも出てたか?
「教会総本山には聖女と護衛の聖騎士一名だけで来るよう言われてます。ティーナ達はしばらく聖都内を観光でもしててください」
「はいさー。うちは冒険者ギルドに顔出して軽めの依頼でもこなしてるから」
「私は折角だからここの工房にでも足を運ぼうかしらね。人間の職人の腕を見ておきたいわ」
「僕は教会で祈りを捧げておくよ。『僕』としても久々の聖都は感慨深い」
そんなわけで俺とミカエラはイレーネ達と分かれ、教会総本山へと足を向ける。
教会総本山は教会関係者だろうと出入りは厳しく制限されているんだが、聖女の立場ならほぼ顔見せと身分証の提示だけで手続きは済んだ。聖女付き聖騎士の俺も拍子抜けするぐらいに簡単に終わる。
そうして俺達は戻ってきた。聖地巡礼の旅に出た場所に。
「戻ってきましたね、我が騎士!」
「ああ。色々とあったもんだ。まさか魔王経験者に三人も出くわすとは想像もしてなかったけどな」
「しかし蘇生の奇跡も体得しましたし、あと一歩ですよ! 最後の聖地を巡礼すれば余はルシエラを救うことが出来ます」
「魔王継承戦でその手にかけた妹を蘇らせるための奇跡を使えるようにする、って目的はもう叶ったんじゃないのか?」
元々ミカエラは聖女の奇跡を極める修行のために聖地巡礼の旅に出た。その本質はルシエラに死者蘇生の奇跡をかけて復活させるため。でもそれはこの前勇者一行と戦った際にラファエラが発動しようとしてたのを盗み見て覚えただろう。
しかしミカエラはそれでは不十分だと顔を横に振る。ミカエラ曰く、元のまま蘇らせてもルシエラは生まれ持った魔王刻印によって魔王となることを宿命付けられていて、ミカエラが魔王である限り戦わなければならない定めらしい。
「ですから、魔王刻印を無効にする奇跡を習得しなきゃいけないんです。そうしてようやく余とミカエラは普通の姉妹として仲良くなれるんですね」
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