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第四章 熾天魔王編

聖女魔王、聖女としての再戦を強要する

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 魔王対勇者一行の戦いはもはや勝負になっていなかった。
 蹂躙と言えば聞こえがいいが、魔王の戯れにしか見えてならなかった。
 それほどまでに魔王と連中とでは実力の差があった。

「こうまで真似されると沽券にかかわってくるよなー」
「でも再現度は甘く見積もっても七割程度ね。ミカエラの実力が追いついてないわ」
「明日筋肉痛にでもなるんじゃないかな。その時はニッコロが揉んであげるの?」
「自分でヒーリングやりなさい、って言いたいところだが、ミカエラの身体は正直揉みたい魅力には抗えなさそうだな」

 魔王ミカエラは掟破りの模倣作戦でラファエラ達を圧倒。勇者の剣を叩き切ったあげくにとどめとばかりに幻獣魔王必殺の一撃メガフレアまで浴びせる容赦のなさを発揮した。目の前では勇者一行が死に体になっている。

 それでも五人全員が五体満足で残ってるのはラファエラやコルネリアが防御に専念でもしたか? ドナテッロを庇ったせいか三聖は虫の息みたいだがね。
 ラファエラが範囲回復の奇跡エリアヒールを発動して全員を癒やしていく。まだ彼女の目は力強くミカエラを見据えており、闘志は衰えていない。

「諦めが悪いですねぇ。どうあがいても勝てないのは分かったでしょう?」
「負けない……わたし達は、絶対に負けない!」
「どうして立ち上がるんですか? 逃げたっていいんですよ。修行して出直してきたっていいじゃないですか」
「わたしは聖女よ……聖女なの! 魔王の貴女には負けられないのよ!」

 ラファエラが威勢よく立ち上がる。そんな彼女に答えるようにドナテッロが、三聖達も起き上がった。それを見届けたミカエラ、漆黒の杖を自分の影へと沈めてしまうと、纏っていた闇の衣を魔力の粒子へと変換していく。

 それどころか彼女の爪、角、魔法陣の翼も、肌の色も闇と共に消えていく。再変身を遂げた彼女の姿は人間そのもの。俺が出会い、共に旅をし、戦鎚と盾を捧げ、かけがえのない大切な存在となった少女ミカエラに戻っていた。

「な、何の真似だ……!?」
「だって魔王として戦ったってちっとも面白くないんですもの」

 ミカエラはこちらを招き寄せる。へいへい、着替えさせろ、だろ。俺はかいがいしくミカエラに下着を履かせ、祭服を着込ませ、髪型を整えてやる。は? 化粧と香水も? ったく、うちの聖女様はわがままだなぁ。

 何かラファエラが信じられないって顔して俺を見つめてきてる。そう言えば学院時代はここまでミカエラの世話してなかったな。だって彼女、放っておくとすぐ手を抜いてだらしなくするからな。

「いや、ミカエラのことだから絶対ニッコロにちやほやされたいから手を抜いてるだけだぞ」
「『僕』の聖騎士もここまでしてくれなかったよ」
「旅の道中でも遠慮なくいちゃつくんだもの。口から砂糖が出そうよ」

 こら、そこの三人の魔王。うるさいぞ。俺が好きでやってんだよ。

「ですからラファエラ。貴女のことは聖女としてけちょんけちょんにしてあげます! さあ行きますよ我が騎士!」
「っし、ふー」

 ゴキゴキ首を鳴らしてミカエラの前に出た。

 勇者ドナテッロはなめられてると頭にきたらしく、何やらやかましく怒鳴り散らしてきた。ラファエラも手を抜いたこと後悔させてやると息巻いてるし、わりと心折れかけてた三聖達も戦意を取り戻している。

 さて、実際のところ俺一人でこいつ等相手に前衛を務めるのは骨が折れる。一対一ならまだしも二人以上は無理だな。ミカエラの援護があっても保ちそうにない。
 となれば、やっぱり頼るのは仲間だよなぁ。

「イレーネ、ティーナ、ダーリア。悪いが三聖を相手してくれ」
「んー? うち等が手を出していいのかー?」
「ミカエラは聖女として戦うって言ってるんだから、僕らが眺めるだけなのはおかしいでしょう」

 俺の呼びかけに観客に徹してた三人は軽く身体を動かしてからそれぞれの武器を手にこちらへと歩んでくる。ラファエラ達にとってイレーネ達の実力は未知数。憤りもそこそこに用心深く警戒してくる。

「でもいいの? 私達がちょっかいかけたら結果見えてるんだけれども」
「あー、ミカエラ。その辺りどうする?」
「好きにやっちゃっていいです。ですが余達は世界を救済する聖女一行。ほどほどには留めてくださいね」
「了解ー」

 さあて、役者が出揃ったところで第二ラウンドの開始といこうか。

 ■(三人称視点)■

 魔王ミカエラ一行は連携して戦う素振りを見せていないことからコルネリア達も個々で対処することにした。既に感情的になっているドナテッロはミカエラを倒す気満々で彼女以外に目が行っていない。ならミカエラから仲間を離すのが得策、と判断されたからだ。

 剣聖グローリアが相対したのは勇者イレーネ。教会から聞いた報告によれば数百年前に黒鎧魔王を相打ちの形で封印し、現代になって帰還を果たしたそうだ。しかも魔王の鎧と魔王剣を己のものとして。

 聖女でありながら勇者となったイレーネの逸話は事欠かない。当時の勇者一行にも剣聖や聖騎士はいたが、剣の腕前はイレーネの方が上だったと記録されている。魔王ミカエラにもいいようにあしらわれた自分が果たして叶う相手だろうか?

 いや、自分こそが現代の剣聖。相手を恐れてどうする。剣で明日への道を切り開くことこそが自分の使命。剣で人類が平和を取り戻す明るい未来と、自分が幸せに愛する者と添い遂げる温かな将来を掴み取るのだ。

「……アームドアウト」

 そんな決意を新たにするグローリアを嘲笑うようにイレーネは武装解除した。純白と漆黒の鎧は城に飾られる甲冑のようにその場に佇み、魔王剣は地面に突き刺った。イレーネ本人は旅人の服を着た軽装で聖王剣を両手持ちで構えを取る。

「来なよ。稽古を付けてあげる」
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