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第三章 幻獣魔王編
戦鎚聖騎士、千年竜を仕留める
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「……今の見たかイレーネ」
「……うん。見えた」
「ダーリアが黄金の竜が走る軌道に沿って槍を振るってたよな」
「うん。黄金の竜がダーリアの槍に自分から飛び込んで両断されてたね」
「アレ、できるか? 俺には到底無理だな」
「技術的には不可能じゃない。けれど雷と化したドラゴンがどこを飛ぶかなんて分かったものじゃない。ダーリアは完全に見切ってその場所に槍を持っていってた」
恐ろしいことにダーリアは完全に黄金竜の動きを完璧に捉えていた。
雷と化した黄金竜を目で追ったわけではない。予め相手がどんな動きをするかを察知した上で自分から攻撃に飛び込んでくるよう槍を添えたのだ。
思考を読み取ろうともこうはいかない。未来予知のような超能力に頼る、もしくは相手のことを傾向や癖まで全てを把握してでもなければ予知は出来まい。
「ダーリアがドラゴン博士だった、みたいな可能性は?」
「少なくとも辺境に左遷されたドワーフのお姫様にはまず無理な芸当じゃないかな」
「だとしたらダーリアは一体何者なんだ?」
「出自ははっきりしてるし誰かが化けたわけでも乗っ取ったわけでもないし……。僕にも全く分からないよ」
邪魔者を片付けたダーリアは今度こそ実兄の追走に専念する。しかし嫡男も大したものでダーリアとの距離を縮めさせまいと奮闘する。このままだとゴールまでに嫡男に追いつくには彼が操作を誤りでもしないと無理だろう。
しかし、カーブを突破した先で思わぬ事態に遭遇する。なんと直線部のはるか先でシルヴェリオが待ち構えているではないか。しかも嫡男とダーリアを撃墜せんと口を開いて闘気を集中させているのが遠くでも分かった。
「まずい! このままだと一網打尽だぞ!」
「……背に腹は代えられない。突貫する」
「へ?」
「ニッコロ、しっかり掴まっててね!」
イレーネは俺を前傾姿勢にさせるとアーマードワームに指示を下す。するとアーマードワームは金管楽器のような声で吠え、これまでとは比べ物にならないほどの闘気の噴射量で加速し始めた。
ミカエラが後に言った。それはまるで流星のようであった、と。
飛翔する俺達はすぐさまダーリアを、そして首長嫡男を抜き去って先頭へと躍り出た。そして俺達が矢面に立つ形でシルヴェリオへと突撃する。シルヴェリオはすぐさま標的を俺達へ変更、ドラゴンブレスを放射するも、闘気の大弾と化した俺達を打ち落とすにはいたらず、逆に四方へ弾き飛ばす結果に終わった。
俺も覚悟を決めて魔王剣を前に構え、ありったけの闘気を込めてやる。アーマードワームとイレーネと俺は三つで一つの塊となり、何にも阻まれず、何にも抑えられず、ただ眼前の障害物を打ち砕くべく突き進む。
「スターレイ・アサルトピールシング!」
アーマードワームが、イレーネが、俺が咆哮し、シルヴェリオへと体当たり。アーマードワームの牙が、俺達の剣が奴を貫き、肉・骨・内蔵を抉り、そして胴体をばらばらに引き裂いた。
さすがに生命力の強いドラゴンと言えども腹を大きくえぐられたらたまらないだろう。それに後続にはダーリアもいるし、万が一再生能力があったとしても彼女がとどめの一撃を刺すはずだ。
「……で、入り組んだ渓谷の中でこれだけの速度を出したんだ。今から減速したって間に合わないよな?」
「うん。だからこれは自爆特攻と言ってもいいかな」
「頼むからな。イレーネの防御力だけが頼りなんだ」
「大丈夫。僕もこの子もそんなやわじゃないさ。さあ、衝撃に備えて!」
で、速度出し過ぎで制御を失った俺達は急カーブを曲がりきれずに崖に激突したのだった。
い、痛え。いくら頑丈な鎧を着てたって俺個人は生身の人間なんだぞ。まず衝撃で一瞬だけ気を失った。直後に痛みが襲ってきたのに身体は指一本動かせない。次第に自由が聞くようになってゆっくりと起き上がる。
どうやら俺達は崖に大きくめり込んだようで、ずり落ちて河に落ちたりはしていなかった。念の為身体の状態を確かめると肉が切れたり骨が折れてはいないようだ。けれどいたるところが痛むので、明日は地獄を見るだろうなぁ。
「ニッコロ、大丈夫? 『僕』と離れちゃってるから治療が出来ないや。ごめんね」
「いや、思ってたよりは無事だった。俺はまだいけそうだけどアーマードワームの方は」
「この子もゴールまでは飛べそうだね。けれどもう無茶は出来ない。戦いになったら対応しきれないかもしれないよ」
「いや、それでいい。もうこれ以上超竜が出てもどうもならないし、ゴール目指してゆっくりと行こう」
見れば先程追い抜いた選手達が次々と俺の前を横切っていくのが見えた。俺がアーマードワームの背中にまたがるとこの子はゆっくりと空へと飛び立ち、選手達を後を追った。闘気の放射量も少なくなっており、爆発的な加速はもう望めなかった。
やっと最後の直線が見えた辺りで俺達は観客一同の歓声と喝采を浴びた。頂上決戦の健闘を称えているのだと気づくとなんだかこう、こみ上げてくる思いがあるな。きっと帰還した英雄はこういう気持ちで凱旋するんだろうなぁ。
「次があったら今度は純粋に速さを競いたいもんだ」
結果、俺は脱落者を除いてビリでグランプリをゴールしたのだった。
「……うん。見えた」
「ダーリアが黄金の竜が走る軌道に沿って槍を振るってたよな」
「うん。黄金の竜がダーリアの槍に自分から飛び込んで両断されてたね」
「アレ、できるか? 俺には到底無理だな」
「技術的には不可能じゃない。けれど雷と化したドラゴンがどこを飛ぶかなんて分かったものじゃない。ダーリアは完全に見切ってその場所に槍を持っていってた」
恐ろしいことにダーリアは完全に黄金竜の動きを完璧に捉えていた。
雷と化した黄金竜を目で追ったわけではない。予め相手がどんな動きをするかを察知した上で自分から攻撃に飛び込んでくるよう槍を添えたのだ。
思考を読み取ろうともこうはいかない。未来予知のような超能力に頼る、もしくは相手のことを傾向や癖まで全てを把握してでもなければ予知は出来まい。
「ダーリアがドラゴン博士だった、みたいな可能性は?」
「少なくとも辺境に左遷されたドワーフのお姫様にはまず無理な芸当じゃないかな」
「だとしたらダーリアは一体何者なんだ?」
「出自ははっきりしてるし誰かが化けたわけでも乗っ取ったわけでもないし……。僕にも全く分からないよ」
邪魔者を片付けたダーリアは今度こそ実兄の追走に専念する。しかし嫡男も大したものでダーリアとの距離を縮めさせまいと奮闘する。このままだとゴールまでに嫡男に追いつくには彼が操作を誤りでもしないと無理だろう。
しかし、カーブを突破した先で思わぬ事態に遭遇する。なんと直線部のはるか先でシルヴェリオが待ち構えているではないか。しかも嫡男とダーリアを撃墜せんと口を開いて闘気を集中させているのが遠くでも分かった。
「まずい! このままだと一網打尽だぞ!」
「……背に腹は代えられない。突貫する」
「へ?」
「ニッコロ、しっかり掴まっててね!」
イレーネは俺を前傾姿勢にさせるとアーマードワームに指示を下す。するとアーマードワームは金管楽器のような声で吠え、これまでとは比べ物にならないほどの闘気の噴射量で加速し始めた。
ミカエラが後に言った。それはまるで流星のようであった、と。
飛翔する俺達はすぐさまダーリアを、そして首長嫡男を抜き去って先頭へと躍り出た。そして俺達が矢面に立つ形でシルヴェリオへと突撃する。シルヴェリオはすぐさま標的を俺達へ変更、ドラゴンブレスを放射するも、闘気の大弾と化した俺達を打ち落とすにはいたらず、逆に四方へ弾き飛ばす結果に終わった。
俺も覚悟を決めて魔王剣を前に構え、ありったけの闘気を込めてやる。アーマードワームとイレーネと俺は三つで一つの塊となり、何にも阻まれず、何にも抑えられず、ただ眼前の障害物を打ち砕くべく突き進む。
「スターレイ・アサルトピールシング!」
アーマードワームが、イレーネが、俺が咆哮し、シルヴェリオへと体当たり。アーマードワームの牙が、俺達の剣が奴を貫き、肉・骨・内蔵を抉り、そして胴体をばらばらに引き裂いた。
さすがに生命力の強いドラゴンと言えども腹を大きくえぐられたらたまらないだろう。それに後続にはダーリアもいるし、万が一再生能力があったとしても彼女がとどめの一撃を刺すはずだ。
「……で、入り組んだ渓谷の中でこれだけの速度を出したんだ。今から減速したって間に合わないよな?」
「うん。だからこれは自爆特攻と言ってもいいかな」
「頼むからな。イレーネの防御力だけが頼りなんだ」
「大丈夫。僕もこの子もそんなやわじゃないさ。さあ、衝撃に備えて!」
で、速度出し過ぎで制御を失った俺達は急カーブを曲がりきれずに崖に激突したのだった。
い、痛え。いくら頑丈な鎧を着てたって俺個人は生身の人間なんだぞ。まず衝撃で一瞬だけ気を失った。直後に痛みが襲ってきたのに身体は指一本動かせない。次第に自由が聞くようになってゆっくりと起き上がる。
どうやら俺達は崖に大きくめり込んだようで、ずり落ちて河に落ちたりはしていなかった。念の為身体の状態を確かめると肉が切れたり骨が折れてはいないようだ。けれどいたるところが痛むので、明日は地獄を見るだろうなぁ。
「ニッコロ、大丈夫? 『僕』と離れちゃってるから治療が出来ないや。ごめんね」
「いや、思ってたよりは無事だった。俺はまだいけそうだけどアーマードワームの方は」
「この子もゴールまでは飛べそうだね。けれどもう無茶は出来ない。戦いになったら対応しきれないかもしれないよ」
「いや、それでいい。もうこれ以上超竜が出てもどうもならないし、ゴール目指してゆっくりと行こう」
見れば先程追い抜いた選手達が次々と俺の前を横切っていくのが見えた。俺がアーマードワームの背中にまたがるとこの子はゆっくりと空へと飛び立ち、選手達を後を追った。闘気の放射量も少なくなっており、爆発的な加速はもう望めなかった。
やっと最後の直線が見えた辺りで俺達は観客一同の歓声と喝采を浴びた。頂上決戦の健闘を称えているのだと気づくとなんだかこう、こみ上げてくる思いがあるな。きっと帰還した英雄はこういう気持ちで凱旋するんだろうなぁ。
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