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第三章 幻獣魔王編
勇者魔王、幻影鎧竜について説明する
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「それで、まずはどういうことなのか説明してもらえる?」
真っ先に現場に到着したのはダーリア率いる地方軍だった。
前方で相対したダーリアは長槍を構えながらもまずは問いかけてくる。
グランプリに参加する彼女一人で聖地にきたのかと思いきや、彼女以外にも二名ほど本戦参加にこぎつけた猛者がいるらしく、部隊総出とまではいかなかったもののある程度の数がダーリア達の応援に来ているらしい。なお、その間国境警備が手薄になるとの懸念もあったが、いざとなれば帰還魔法タウンポータルで戻ればいいと割り切っているようだ。
ダーリア達は魔王鎧を着た俺を警戒しながらも襲いかかろうとせず、慎重に間合いを詰めてきた。そしてお互いこれ以上踏み込めば間合いに入るぐらい絶妙な距離で止まり、部下達にもそれを徹底させた。その間俺から全く視線をそらさずに。
「それを説明するにはまずパラティヌス教国連合の近状から話さなきゃならんのだが、どこまで把握してる?」
「およそ五百年前に鎧の魔王を討ち果たした勇者は実は魔王を倒しきれてなくて今まで封印していた。けれどとうとう魔王を滅ぼして帰還、ついでに魔王軍のうち妖魔軍を撃退した。そう聞いてるけれど?」
その認識は世間一般で広まっているものと同じなので問題ない。どうやらイレーネが魔王として一切活動していないのもあって、実は勇者は魔王に乗っ取られたことを疑う者はいないようだな。
「なら話は早い。この鎧はこの前イレーネが装備してた魔王鎧だぞ」
「大きさがぜんぜん違うじゃないの。いえ、元はリビングアーマーだから装備者の体格に合わせて変形するのかしら……? じゃあそっちの鉄のドラゴンは?」
「かつて鎧の魔王が使役してたリビングアーマーらしい。ドラゴン用の全身鎧だから中身はがらんどう。魔王鎧を装備した俺の言うことは聞いてくれるみたいだな」
「へえ。それで、ニッコロが魔王鎧に操られてないって誰が信じるの?」
ダーリアの鋭い指摘にどう言い訳しようか迷うな。現に魔王鎧に乗っ取られてないのは彼女がそうしているだけに過ぎず、その気になれば助けを求める間もなく肉体の主導権を明けたわす破目になりそうだ。そして魔王鎧が無害だと証明する術が俺にあるはずがない。
「それは心配しなくていい」
困った俺に助け舟を出してきたのは勇者イレーネだった。彼女は俺の横を通り過ぎてダーリアの前に立つ。魔王装備をしていない彼女は冒険者のような軽装備だったが、それでも聖女かつ勇者だった彼女の発する雰囲気は一味違く感じた。具体的には頼もしくて救いを求めたくなる希望の象徴、だろうか。
「魔王鎧は完全に僕のものだ。僕そのものになったって言い換えてもいい。僕が健在な以上はダーリアが心配する悲劇は起こらないよ」
「五百年かけて大人しくさせるのが精一杯だったイレーネに鎧の魔王になったニッコロを倒せるの?」
「勿論。それを神と僕の誇り、そして……この剣に誓おう」
勇者イレーネは聖王剣を抜き放つ。太陽の光を受けてより一層輝くそれは、まるで希望の光のように温かく優しく、そして力強かった。
ドワーフ達はその業物に圧倒され感嘆の声を漏らし、ダーリアが咳払いで気を引き締めさせる。
「……まあいいわ。街中や渓谷で狼藉を働かせないで頂戴。後始末が面倒だわ」
「その言い方、まるでダーリアなら魔王鎧を討伐出来るって聞こえるけれど?」
「出来る出来ないじゃなくて、するわよ。ドワーフの誇りと先人達に誓ってね」
「……そう」
わずかに勇者イレーネの声が低く冷えたものになったのを俺は聞き逃さなかった。
「大丈夫、問題無いって。僕だけじゃなく聖女のミカエラや白金級冒険者のティーナだっているんだし」
「出来れば誤解を招く真似はよしてほしかったのだけれど、まさかそのドラゴンの鎧でグランプリに参加するつもり?」
「そのつもりさ。ああ、別に優勝をかっさらうつもりは無いよ。あくまで魔王軍の襲来に備えた予防線だから」
「その言いっぷり、まるで本気出したら誰よりも早くゴール出来るって聞こえるわよ」
「幻獣魔王を退けたっていうドワーフの勇者がいたら自信が無いかな。この子、超竜軍に属してたかなり上のドラゴンが装備してた鎧らしいし」
「……人類は日々進歩するの。骨董品が通用するだなんて軽々しく思わないことね」
おいおい、どうして勇者イレーネとダーリアが一触即発な雰囲気になってるんだ。それにこの勇者イレーネの物言い、普段のイレーネとほぼ変わらないんだが。俺達が共に旅をしていたのは魔王イレーネだよな?
「今の僕、魔王イレーネは勇者イレーネの人格を元に人並みに活動出来てるからね」
「うわっ……! ば、おま、急に耳元で喋るな……!」
俺の疑問を払ったのは魔王鎧、魔王イレーネだった。過敏に反応しかけたのを何とかこらえて平然を装った。それでも俺の挙動不審は何人かの目に留まったらしく、特にミカエラとティーナが笑いをこらえてきたのが恥ずかしかった。
「勇者イレーネと魔王イレーネが同時に存在する現象、当然だが説明してくれるんだろうな?」
「言っただろ、僕は『僕』で『僕』は僕。もう僕が『僕』から離れても『僕』は僕のままだよ」
真っ先に現場に到着したのはダーリア率いる地方軍だった。
前方で相対したダーリアは長槍を構えながらもまずは問いかけてくる。
グランプリに参加する彼女一人で聖地にきたのかと思いきや、彼女以外にも二名ほど本戦参加にこぎつけた猛者がいるらしく、部隊総出とまではいかなかったもののある程度の数がダーリア達の応援に来ているらしい。なお、その間国境警備が手薄になるとの懸念もあったが、いざとなれば帰還魔法タウンポータルで戻ればいいと割り切っているようだ。
ダーリア達は魔王鎧を着た俺を警戒しながらも襲いかかろうとせず、慎重に間合いを詰めてきた。そしてお互いこれ以上踏み込めば間合いに入るぐらい絶妙な距離で止まり、部下達にもそれを徹底させた。その間俺から全く視線をそらさずに。
「それを説明するにはまずパラティヌス教国連合の近状から話さなきゃならんのだが、どこまで把握してる?」
「およそ五百年前に鎧の魔王を討ち果たした勇者は実は魔王を倒しきれてなくて今まで封印していた。けれどとうとう魔王を滅ぼして帰還、ついでに魔王軍のうち妖魔軍を撃退した。そう聞いてるけれど?」
その認識は世間一般で広まっているものと同じなので問題ない。どうやらイレーネが魔王として一切活動していないのもあって、実は勇者は魔王に乗っ取られたことを疑う者はいないようだな。
「なら話は早い。この鎧はこの前イレーネが装備してた魔王鎧だぞ」
「大きさがぜんぜん違うじゃないの。いえ、元はリビングアーマーだから装備者の体格に合わせて変形するのかしら……? じゃあそっちの鉄のドラゴンは?」
「かつて鎧の魔王が使役してたリビングアーマーらしい。ドラゴン用の全身鎧だから中身はがらんどう。魔王鎧を装備した俺の言うことは聞いてくれるみたいだな」
「へえ。それで、ニッコロが魔王鎧に操られてないって誰が信じるの?」
ダーリアの鋭い指摘にどう言い訳しようか迷うな。現に魔王鎧に乗っ取られてないのは彼女がそうしているだけに過ぎず、その気になれば助けを求める間もなく肉体の主導権を明けたわす破目になりそうだ。そして魔王鎧が無害だと証明する術が俺にあるはずがない。
「それは心配しなくていい」
困った俺に助け舟を出してきたのは勇者イレーネだった。彼女は俺の横を通り過ぎてダーリアの前に立つ。魔王装備をしていない彼女は冒険者のような軽装備だったが、それでも聖女かつ勇者だった彼女の発する雰囲気は一味違く感じた。具体的には頼もしくて救いを求めたくなる希望の象徴、だろうか。
「魔王鎧は完全に僕のものだ。僕そのものになったって言い換えてもいい。僕が健在な以上はダーリアが心配する悲劇は起こらないよ」
「五百年かけて大人しくさせるのが精一杯だったイレーネに鎧の魔王になったニッコロを倒せるの?」
「勿論。それを神と僕の誇り、そして……この剣に誓おう」
勇者イレーネは聖王剣を抜き放つ。太陽の光を受けてより一層輝くそれは、まるで希望の光のように温かく優しく、そして力強かった。
ドワーフ達はその業物に圧倒され感嘆の声を漏らし、ダーリアが咳払いで気を引き締めさせる。
「……まあいいわ。街中や渓谷で狼藉を働かせないで頂戴。後始末が面倒だわ」
「その言い方、まるでダーリアなら魔王鎧を討伐出来るって聞こえるけれど?」
「出来る出来ないじゃなくて、するわよ。ドワーフの誇りと先人達に誓ってね」
「……そう」
わずかに勇者イレーネの声が低く冷えたものになったのを俺は聞き逃さなかった。
「大丈夫、問題無いって。僕だけじゃなく聖女のミカエラや白金級冒険者のティーナだっているんだし」
「出来れば誤解を招く真似はよしてほしかったのだけれど、まさかそのドラゴンの鎧でグランプリに参加するつもり?」
「そのつもりさ。ああ、別に優勝をかっさらうつもりは無いよ。あくまで魔王軍の襲来に備えた予防線だから」
「その言いっぷり、まるで本気出したら誰よりも早くゴール出来るって聞こえるわよ」
「幻獣魔王を退けたっていうドワーフの勇者がいたら自信が無いかな。この子、超竜軍に属してたかなり上のドラゴンが装備してた鎧らしいし」
「……人類は日々進歩するの。骨董品が通用するだなんて軽々しく思わないことね」
おいおい、どうして勇者イレーネとダーリアが一触即発な雰囲気になってるんだ。それにこの勇者イレーネの物言い、普段のイレーネとほぼ変わらないんだが。俺達が共に旅をしていたのは魔王イレーネだよな?
「今の僕、魔王イレーネは勇者イレーネの人格を元に人並みに活動出来てるからね」
「うわっ……! ば、おま、急に耳元で喋るな……!」
俺の疑問を払ったのは魔王鎧、魔王イレーネだった。過敏に反応しかけたのを何とかこらえて平然を装った。それでも俺の挙動不審は何人かの目に留まったらしく、特にミカエラとティーナが笑いをこらえてきたのが恥ずかしかった。
「勇者イレーネと魔王イレーネが同時に存在する現象、当然だが説明してくれるんだろうな?」
「言っただろ、僕は『僕』で『僕』は僕。もう僕が『僕』から離れても『僕』は僕のままだよ」
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