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第三章 幻獣魔王編
戦鎚聖騎士、グランプリの強制参加が決定される(前)
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「と、言うわけでニッコロさんにはグランプリに参加してもらいます!」
「どっからどう飛躍したらそんな結論になるんだ?」
グランプリの開催まであと二日に迫った。ドヴェルグ首長国連邦中のグランプリ出場者や観客が首都や聖地に集い、大いに賑わっている。選手達は至る所で本番に向けての最終調整に取り掛かっているようだ。
超竜軍による宣戦布告は戒厳令が敷かれたため、一般のドワーフには一切伝わっていない。首都や聖地を守護する中央軍の竜騎士も多数参加するため、彼らが総力を結集して乱入してくるドラゴンを返り討ちにする算段らしい。
首長嫡男は自分がドラゴンを討ち果たして新たなる勇者となってみせるなどと意気込んでいたけれど、俺が見た限りでは冴えないから無理じゃないかな。いや、飛竜に乗ったらぜんぜん違うかも知れないけれどさ。
超竜軍もドワーフ達もあくまでグランプリで雌雄を決するつもりらしいので、参加しない俺達はただ眺めて見ているだけだろう。もし全面戦争に突入してしまったらその時はまた身の振り方を考えればいい。
「いいですか。当日参加が認められているならニッコロさんだって殴り込みをかけられますよね。ドワーフと超竜軍両方の鼻を明かしてやりましょう!」
「待て待て待て。俺一人が戦えば何とかなる武闘会とは違うんだぞ。飛竜に乗る必要があるの。飛竜! 分かってるか?」
「借りればいいじゃないですか。競技用の飛竜を」
「そんな即席の組み合わせで勝てるほど甘くないだろ……。そもそも、一般ドワーフと比べれば巨体な俺じゃあ飛竜には負担が大きすぎないか?」
と、思ってたんだけれどなぁ。どういうわけかミカエラがやる気を漲らせてるものだから、どうにか落ち着くよう言葉を重ねているわけだ。参加するだけならともかくドラゴンを迎え撃つなんて芸当はどう考えたって無理だろう。
「ドラゴンだったら別に飛竜じゃなくたっていいんだろ。ミカエラは何かあてがあったりするのか?」
「いえ。あいにく超竜軍とはあまり交流を持たなかったので、召喚魔法で呼び出せるドラゴンがいません。教国に来てから遭遇したドラゴンは大したことありませんでしたし」
「じゃあそんな無理難題を押し付けないでくれよ。俺にだって出来ないことはあるんだからさ」
「うーん。イレーネとティーナはどうなんですか?」
「へ? うち?」
ティーナはまさか自分に話は振られまいとでも思っていたのか、ミカエラに声をかけられて素っ頓狂な声を発しながら自分を指さした。それから改めてミカエラの希望を頭の中で整理して、頭を掻いた。
「無理だな。この前も言ったけれどうちが乗れるのはヒッポグリフとかグリフォンぐらいだって。一応フェネクスを召喚して空を飛び回るぐらいは出来るけれど、グランプリの趣旨からは外れてるだろー」
「僕も無理だよ。魔王として乗り回してたアーマードワームなら今でも呼び出せるけれど、僕にしか乗れないからニッコロを活躍させられないよ。だからって僕はグランプリに参加する気なんてさらさらないしね」
「ほれみろ。やっぱ無理じゃねえか。今回は大人しく諦めな」
「むー。せっかくニッコロさんの活躍が見れると思ったのに!」
そうむくれるな。後で何か美味いものでもおごってやるからさ。
とまあこの話は早くも終了するはずだったんだが、何故かイレーネがこちらの方へ向けた視線を外そうとしなかった。俺の顔に何か付いてるわけでもないので、もしかしてイレーネには何か起死回生の一手でもあるのか?
「ニッコロが僕に身を委ねて協力してくれるなら、グランプリにも出られるよ」
「打開策があるのか……。それにしてもその言いっぷり、不安になるな」
「別に取って食おうってわけじゃないから安心してよ。で、どうする?」
「やれることがあるならやった方がいいだろ」
ドラゴン退治をドワーフに任せっきりにして観客席で飲み物と菓子を両手に堪能するなんて趣味は俺に合わないんでね。凄く面倒くさいのだがミカエラがご所望なんだ。仕方がないので叶えてやろうじゃないか。
そんな内心を見透かされたのか、イレーネは穏やかに微笑んできた。とたんに恥ずかしくなってきたんだがごまかすのもアレなので冷静に務める。もはや一種の悟りに入ったな。単なる開き直りとも言う。
「じゃあニッコロ。脱いで」
「……は? 脱ぐ?」
「駄目ですよイレーネ! こんな日中に公衆の面前で破廉恥な真似は!」
何いってんだコイツ、と思った俺は決して悪くない。
まあ、何となく言わんとしていることは分かる。が、言い方があるだろう
ミカエラは邪推して咎めたのか察しておきながらとぼけたのかは分からんな。
「何でそうなるのさ!? 防具だけでいいって!」
「だったら初めからそう言えよ……」
イレーネに言われるがまま聖騎士の鎧を脱いでその場に並べた。これに一体何の意味があるのかと不思議に思いながらも腕を広げて何も防具を付けていないことをイレーネに確認させる。
するとイレーネはゆっくりと腕を上げて俺を指差し……ただならぬ雰囲気に思わず身構えてしまった。というか指先が向けられた瞬間に嫌な予感が体中を駆け巡り、たまらず何かされる前に攻撃をしかけようとすら反応しかけた。
「ダークマターアームド」
イレーネが力ある言葉を発した瞬間、彼女が身にまとっていた魔王鎧が分解した。そして向かいにいた俺へと取り付き始めたではないか。引き剥がそうとする間もなく小手、具足と次々に装備されていき、最後に頭を兜で覆ってその現象は終わった。
目の前には魔王鎧を脱いだ状態のイレーネがいる。彼女は休息時や就寝時には魔王鎧を脱ぐことはあれど、何かしら一部分は必ず身に纏っている。それはその肉体が勇者イレーネのを乗っ取ったもので、魔王鎧の方が本体だから。
それが今はどうだ? 魔王鎧の全てが俺の全身を包み込んでいる。これではまるで鎧の魔王がその依代を勇者イレーネから俺に変えたみたいじゃないか。
「どっからどう飛躍したらそんな結論になるんだ?」
グランプリの開催まであと二日に迫った。ドヴェルグ首長国連邦中のグランプリ出場者や観客が首都や聖地に集い、大いに賑わっている。選手達は至る所で本番に向けての最終調整に取り掛かっているようだ。
超竜軍による宣戦布告は戒厳令が敷かれたため、一般のドワーフには一切伝わっていない。首都や聖地を守護する中央軍の竜騎士も多数参加するため、彼らが総力を結集して乱入してくるドラゴンを返り討ちにする算段らしい。
首長嫡男は自分がドラゴンを討ち果たして新たなる勇者となってみせるなどと意気込んでいたけれど、俺が見た限りでは冴えないから無理じゃないかな。いや、飛竜に乗ったらぜんぜん違うかも知れないけれどさ。
超竜軍もドワーフ達もあくまでグランプリで雌雄を決するつもりらしいので、参加しない俺達はただ眺めて見ているだけだろう。もし全面戦争に突入してしまったらその時はまた身の振り方を考えればいい。
「いいですか。当日参加が認められているならニッコロさんだって殴り込みをかけられますよね。ドワーフと超竜軍両方の鼻を明かしてやりましょう!」
「待て待て待て。俺一人が戦えば何とかなる武闘会とは違うんだぞ。飛竜に乗る必要があるの。飛竜! 分かってるか?」
「借りればいいじゃないですか。競技用の飛竜を」
「そんな即席の組み合わせで勝てるほど甘くないだろ……。そもそも、一般ドワーフと比べれば巨体な俺じゃあ飛竜には負担が大きすぎないか?」
と、思ってたんだけれどなぁ。どういうわけかミカエラがやる気を漲らせてるものだから、どうにか落ち着くよう言葉を重ねているわけだ。参加するだけならともかくドラゴンを迎え撃つなんて芸当はどう考えたって無理だろう。
「ドラゴンだったら別に飛竜じゃなくたっていいんだろ。ミカエラは何かあてがあったりするのか?」
「いえ。あいにく超竜軍とはあまり交流を持たなかったので、召喚魔法で呼び出せるドラゴンがいません。教国に来てから遭遇したドラゴンは大したことありませんでしたし」
「じゃあそんな無理難題を押し付けないでくれよ。俺にだって出来ないことはあるんだからさ」
「うーん。イレーネとティーナはどうなんですか?」
「へ? うち?」
ティーナはまさか自分に話は振られまいとでも思っていたのか、ミカエラに声をかけられて素っ頓狂な声を発しながら自分を指さした。それから改めてミカエラの希望を頭の中で整理して、頭を掻いた。
「無理だな。この前も言ったけれどうちが乗れるのはヒッポグリフとかグリフォンぐらいだって。一応フェネクスを召喚して空を飛び回るぐらいは出来るけれど、グランプリの趣旨からは外れてるだろー」
「僕も無理だよ。魔王として乗り回してたアーマードワームなら今でも呼び出せるけれど、僕にしか乗れないからニッコロを活躍させられないよ。だからって僕はグランプリに参加する気なんてさらさらないしね」
「ほれみろ。やっぱ無理じゃねえか。今回は大人しく諦めな」
「むー。せっかくニッコロさんの活躍が見れると思ったのに!」
そうむくれるな。後で何か美味いものでもおごってやるからさ。
とまあこの話は早くも終了するはずだったんだが、何故かイレーネがこちらの方へ向けた視線を外そうとしなかった。俺の顔に何か付いてるわけでもないので、もしかしてイレーネには何か起死回生の一手でもあるのか?
「ニッコロが僕に身を委ねて協力してくれるなら、グランプリにも出られるよ」
「打開策があるのか……。それにしてもその言いっぷり、不安になるな」
「別に取って食おうってわけじゃないから安心してよ。で、どうする?」
「やれることがあるならやった方がいいだろ」
ドラゴン退治をドワーフに任せっきりにして観客席で飲み物と菓子を両手に堪能するなんて趣味は俺に合わないんでね。凄く面倒くさいのだがミカエラがご所望なんだ。仕方がないので叶えてやろうじゃないか。
そんな内心を見透かされたのか、イレーネは穏やかに微笑んできた。とたんに恥ずかしくなってきたんだがごまかすのもアレなので冷静に務める。もはや一種の悟りに入ったな。単なる開き直りとも言う。
「じゃあニッコロ。脱いで」
「……は? 脱ぐ?」
「駄目ですよイレーネ! こんな日中に公衆の面前で破廉恥な真似は!」
何いってんだコイツ、と思った俺は決して悪くない。
まあ、何となく言わんとしていることは分かる。が、言い方があるだろう
ミカエラは邪推して咎めたのか察しておきながらとぼけたのかは分からんな。
「何でそうなるのさ!? 防具だけでいいって!」
「だったら初めからそう言えよ……」
イレーネに言われるがまま聖騎士の鎧を脱いでその場に並べた。これに一体何の意味があるのかと不思議に思いながらも腕を広げて何も防具を付けていないことをイレーネに確認させる。
するとイレーネはゆっくりと腕を上げて俺を指差し……ただならぬ雰囲気に思わず身構えてしまった。というか指先が向けられた瞬間に嫌な予感が体中を駆け巡り、たまらず何かされる前に攻撃をしかけようとすら反応しかけた。
「ダークマターアームド」
イレーネが力ある言葉を発した瞬間、彼女が身にまとっていた魔王鎧が分解した。そして向かいにいた俺へと取り付き始めたではないか。引き剥がそうとする間もなく小手、具足と次々に装備されていき、最後に頭を兜で覆ってその現象は終わった。
目の前には魔王鎧を脱いだ状態のイレーネがいる。彼女は休息時や就寝時には魔王鎧を脱ぐことはあれど、何かしら一部分は必ず身に纏っている。それはその肉体が勇者イレーネのを乗っ取ったもので、魔王鎧の方が本体だから。
それが今はどうだ? 魔王鎧の全てが俺の全身を包み込んでいる。これではまるで鎧の魔王がその依代を勇者イレーネから俺に変えたみたいじゃないか。
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