114 / 209
第三章 幻獣魔王編
【閑話】天啓聖女、清廉聖騎士を切り捨てる
しおりを挟む
■(ラファエラ視点)■
そんなドナテッロは勇者に選ばれただけあって実力は本物だった。剣を一振りすれば魔物を百体ぐらい薙ぎ倒すし、強力な魔物相手でも勇猛果敢に立ち向かうし。彼が前に出てくれるおかげでわたし達は安全な旅をすることが出来たわ。
グローリアやオリンピアは勇者パーティーに欠かせない剣聖や弓聖として目覚めてくれたし、大国から派遣された賢聖コルネリアも加わったことでわたし達は百戦錬磨だった。わたしも聖女として本格的に覚醒して、聖典に記されるような大奇跡すら行使出来るようになった。
「ありがとうございます、勇者様! 聖女様!」
「剣聖様も弓聖様もとても素晴らしかったです!」
「賢聖様や聖騎士様もお疲れ様でした。どうか皆様に神のご加護があらんことを」
行く先々でわたし達は魔物を倒し、不安を払い、人々を救っていった。みんなわたし達に感謝した。わたし達が使命を果たすほどにその声は高まっていき、期待と希望を一身に背負って魔王軍に立ち向かっていった。
邪神軍と呼ばれる軍勢は邪神一体一体が魔王軍の将を担えるほど強力で、とても熾烈な戦いになった。それでもわたし達はみんなで一致団結して脅威に挑んでいく……筈だった。そう、筈だったのよ。
「あたし、どうも彼を好きになっちゃったみたい」
オリンピア達が勇者を好きになったのは仕方がない。このところヴィットーリオが皆についていけなくなって情けない姿を晒す中でドナテッロの頼もしさが目立つ一方なんだもの。それでいてドナテッロはヴィットーリオを励まして頑張っていこう、と明るく声を上げた。そんな心遣いもまた心惹かれる要因なんでしょう。
それで、お互いを求めたくなるのも自然の成り行きで、一線を越えたいと願うオリンピア達をドナテッロは受け止めた。オリンピア曰く、ドナテッロに包容されると自分の全てを包みこまれる気持ちになるらしい。
「ちょっとヴィットーリオ! アンタのせいでもう少しのところでコルネリアがやられちゃってたところなのよ!」
「すまない。俺のせいで危険に晒した」
「ごめんで済むなら勇者も聖女も要らないわよ! 聖騎士の自覚はあるの!?」
「まあまあ。ヴィットーリオだって頑張ってるんだ。不調な時ぐらい誰にだってあるだろ? ラファエラもそう目くじら立てるなって。可愛いのが台無しだよ」
「なっ……! 調子いいこと言ってくれちゃって……」
ただ、ヴィットーリオの不甲斐なさが目につくようになると段々とそれに苛立つようになってきた。あんなにも頼りになったのに、あんなにも仲良しだったのに。段々と失望が芽生えてきて、次第にそれは怒りと憎しみに転化されていった。
これ以上わたしに貴方を嫌いにさせないでよ――!
ドナテッロに抱かれたのは彼なら自分を任せられるのもあったけれど、ヴィットーリオへの当てつけでもあった。これで発奮しないならそれまでの男だし、挫折するならわたし達の道はもう別れたも同然だ。
なのにこの男は図々しくも勇者パーティーに残ると決断してきた。勇者と聖女に縋り付く力なき騎士の姿はなんて醜いのかしら。もうこんな無様な男をこれ以上目に入れたくない。そんな衝動に駆られたわたしは、密かに最悪な計画を立て始めた。
邪神軍との決戦の際、ヴィットーリオは予想通り生命をも燃やして闘気を解き放ち、邪神の一体を倒してみせた。けれど、そんな捨て身の一撃に全てを出し尽くしてこの先どうするつもりだったのかしら? それとも今まで足を引っ張ってきた贖罪のつもりだったりするの?
もういい。貴方はわたしの騎士だもの。
このわたしの手で引導を渡してやるわ。
「じゃあね。アンタはもう私の人生には要らないわ」
光刃の奇跡セイクリッドエッジで背中を引き裂いた後、光刃の奇跡シャイニングアローレイでヴィットーリオの首を切断してやった。ヴィットーリオの頭が間抜けた表情のままで地面に転がり落ちる。
ドナテッロがわたしを非難してくる。コルネリアが抗議の眼差しを送ってくる。逆にオリンピアは「ざまぁみろ!」と吐き捨て、グローリアも「邪魔者に退場してもらうのは当然よね」と冷淡に突き放す。
当事者のわたしは晴れ晴れとした気分だった。
これでわたしは障害無く聖女としての使命を全うできる。勇者と共に。
さあ、今日の夜も勝利を祝ってドナテッロと絆を確かめ合おうじゃないの。
……。
……どうして。
どうしてこうなっちゃったんだろう?
聖女にならなきゃ良かった。
あのまま狭い世界で終わったままの方が幸せだった。
そうしたらわたしもグローリアもオリンピアも、ヴィットーリオだって笑顔のままでいられたのに。
気がついたらもう取り返しがつかなくなっちゃってた。
ヴィットーリオが憎くてたまらない。目の前にいたら首を締めたくなる。
ドナテッロを愛している。目の前にいたら首に腕を回したくなる。
この気持ちがわたしの普通になってて、昔がはるか遠くに感じちゃう。
わたし、何を間違えちゃったのかな?
教えてよ、ねえ。ヴィットーリオ。
迷ってしまったわたしを……助けて。
そんなドナテッロは勇者に選ばれただけあって実力は本物だった。剣を一振りすれば魔物を百体ぐらい薙ぎ倒すし、強力な魔物相手でも勇猛果敢に立ち向かうし。彼が前に出てくれるおかげでわたし達は安全な旅をすることが出来たわ。
グローリアやオリンピアは勇者パーティーに欠かせない剣聖や弓聖として目覚めてくれたし、大国から派遣された賢聖コルネリアも加わったことでわたし達は百戦錬磨だった。わたしも聖女として本格的に覚醒して、聖典に記されるような大奇跡すら行使出来るようになった。
「ありがとうございます、勇者様! 聖女様!」
「剣聖様も弓聖様もとても素晴らしかったです!」
「賢聖様や聖騎士様もお疲れ様でした。どうか皆様に神のご加護があらんことを」
行く先々でわたし達は魔物を倒し、不安を払い、人々を救っていった。みんなわたし達に感謝した。わたし達が使命を果たすほどにその声は高まっていき、期待と希望を一身に背負って魔王軍に立ち向かっていった。
邪神軍と呼ばれる軍勢は邪神一体一体が魔王軍の将を担えるほど強力で、とても熾烈な戦いになった。それでもわたし達はみんなで一致団結して脅威に挑んでいく……筈だった。そう、筈だったのよ。
「あたし、どうも彼を好きになっちゃったみたい」
オリンピア達が勇者を好きになったのは仕方がない。このところヴィットーリオが皆についていけなくなって情けない姿を晒す中でドナテッロの頼もしさが目立つ一方なんだもの。それでいてドナテッロはヴィットーリオを励まして頑張っていこう、と明るく声を上げた。そんな心遣いもまた心惹かれる要因なんでしょう。
それで、お互いを求めたくなるのも自然の成り行きで、一線を越えたいと願うオリンピア達をドナテッロは受け止めた。オリンピア曰く、ドナテッロに包容されると自分の全てを包みこまれる気持ちになるらしい。
「ちょっとヴィットーリオ! アンタのせいでもう少しのところでコルネリアがやられちゃってたところなのよ!」
「すまない。俺のせいで危険に晒した」
「ごめんで済むなら勇者も聖女も要らないわよ! 聖騎士の自覚はあるの!?」
「まあまあ。ヴィットーリオだって頑張ってるんだ。不調な時ぐらい誰にだってあるだろ? ラファエラもそう目くじら立てるなって。可愛いのが台無しだよ」
「なっ……! 調子いいこと言ってくれちゃって……」
ただ、ヴィットーリオの不甲斐なさが目につくようになると段々とそれに苛立つようになってきた。あんなにも頼りになったのに、あんなにも仲良しだったのに。段々と失望が芽生えてきて、次第にそれは怒りと憎しみに転化されていった。
これ以上わたしに貴方を嫌いにさせないでよ――!
ドナテッロに抱かれたのは彼なら自分を任せられるのもあったけれど、ヴィットーリオへの当てつけでもあった。これで発奮しないならそれまでの男だし、挫折するならわたし達の道はもう別れたも同然だ。
なのにこの男は図々しくも勇者パーティーに残ると決断してきた。勇者と聖女に縋り付く力なき騎士の姿はなんて醜いのかしら。もうこんな無様な男をこれ以上目に入れたくない。そんな衝動に駆られたわたしは、密かに最悪な計画を立て始めた。
邪神軍との決戦の際、ヴィットーリオは予想通り生命をも燃やして闘気を解き放ち、邪神の一体を倒してみせた。けれど、そんな捨て身の一撃に全てを出し尽くしてこの先どうするつもりだったのかしら? それとも今まで足を引っ張ってきた贖罪のつもりだったりするの?
もういい。貴方はわたしの騎士だもの。
このわたしの手で引導を渡してやるわ。
「じゃあね。アンタはもう私の人生には要らないわ」
光刃の奇跡セイクリッドエッジで背中を引き裂いた後、光刃の奇跡シャイニングアローレイでヴィットーリオの首を切断してやった。ヴィットーリオの頭が間抜けた表情のままで地面に転がり落ちる。
ドナテッロがわたしを非難してくる。コルネリアが抗議の眼差しを送ってくる。逆にオリンピアは「ざまぁみろ!」と吐き捨て、グローリアも「邪魔者に退場してもらうのは当然よね」と冷淡に突き放す。
当事者のわたしは晴れ晴れとした気分だった。
これでわたしは障害無く聖女としての使命を全うできる。勇者と共に。
さあ、今日の夜も勝利を祝ってドナテッロと絆を確かめ合おうじゃないの。
……。
……どうして。
どうしてこうなっちゃったんだろう?
聖女にならなきゃ良かった。
あのまま狭い世界で終わったままの方が幸せだった。
そうしたらわたしもグローリアもオリンピアも、ヴィットーリオだって笑顔のままでいられたのに。
気がついたらもう取り返しがつかなくなっちゃってた。
ヴィットーリオが憎くてたまらない。目の前にいたら首を締めたくなる。
ドナテッロを愛している。目の前にいたら首に腕を回したくなる。
この気持ちがわたしの普通になってて、昔がはるか遠くに感じちゃう。
わたし、何を間違えちゃったのかな?
教えてよ、ねえ。ヴィットーリオ。
迷ってしまったわたしを……助けて。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる