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第三章 幻獣魔王編
【閑話】冥法魔王、聖女魔王に内緒で画策する
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■(ルシエラ視点)■
許せない。屈服させてやる。絶望させてやる。お前は無能で無価値なのだと。
そして誰からも必要とされないお姉ちゃんをあたしだけが愛でるのだ。
お姉ちゃんに無駄な知識なんて要らない。全部取り上げてあたしだけにしてやる。
お姉ちゃんにはあたしだけが存在していればいい。
魔王になる意義が初めて生まれ、あたしは歓喜した。
でも、そんなあたしの思惑もお姉ちゃんは軽々と超えてきたわ。
先代の魔王が亡くなって久しく、何周忌かになったので魔王継承の儀を執り行うことになった。そこでは全ての魔の者、闇の住人が参加する権利を持つ。ここで己の力を示して、新たに全ての頂点、王として君臨することになるの。それは刻印持ちがいようと関係ない、唯一完璧に平等な行事なの。
当然ながら誰もがあたしが全てを凌ぐと思ってたわ。あたしすらそうなって当たり前で、その後の事ばかり考えてたぐらいだもの。きっと予定調和の通過儀礼ぐらいの気分だったんでしょうね。
「ルシエラ。余は貴女を超えて、運命は超えられることを証明してみせましょう」
だから最後にお姉ちゃんがあたしの前に立ちはだかって、
「火、氷、雷、三属性合成。ミックスデルタ!」
「火、水、雷、三属性合成。デルタストーム!」
お姉ちゃんとあたしが死闘を演じ、
「どうしてお姉ちゃんが聖女の奇跡を使えるのよ……!」
「余はルシエラの自慢のお姉ちゃんですからね! 奇跡も魔法も使えなくてどうするんですか!」
「は、はは……。やっぱお姉ちゃんは凄いや」
「シャイニングアローレイ!」
お姉ちゃんがあたしを倒したのは完全に番狂わせだった。
けれど、光の刃に斬られたあたしはとっても嬉しかった。
だって、あたしに全力でぶつかってくれたお姉ちゃんはこの時だけはあたしを見てくれていたもの。
でも、これからは自由に羽ばたいていってね。
大好きだよ、お姉ちゃん。
たまにあたしを思い返してくれたら嬉しいかな。
こうして魔王となるべく生を受けたあたし、ルシエラの短い人生が終わった。
■■■
お姉ちゃんが大公令嬢ルシエラを倒した瞬間、あたしは目覚めたわ。
お姉ちゃんだったらひょっとしたら、と思ってかけてた保険が発動したわけね。
大図書館に通ってた頃から次の魔王軍で主力を担うだろう有力者達があたしに接触してきたわ。次の魔王はあたしで間違いなし、他の有象無象の輩など取るに足らない、などと言ってきたわね。
そのうちの一人、冥法軍長にあたしは目をつけたのよ。
密かに奴一人をおびき寄せて、あたしに忠誠を誓わせ、ある密約をしたわ。冥法軍は死を超越したアンデッドで構成された軍。もしあたしが誰かに敗れても冥法軍長のリッチキングが復活魔法レイズデッドであたしを蘇らせるようにね。
しかし、この密約には裏があった。冥法軍長の奴はそれに気づかないまままんまとあたしに騙されてくれた。
そう、レイズデッドするまでもない。
あたしは冥法軍長の存在そのものを乗っ取ってこの世にしがみつけばいいのだから。
「ごちそうさま。貴方もわたしに糧になったんだから、さぞ嬉しいわよねぇ」
大公令嬢としてのあたしが死んだ瞬間、冥法軍長の魂はあたしの魂が喰らい尽くしてやった。そして乗っ取った器の方はあたしのものとして相応しく作り変えた。ま、他の連中にバレたら厄介だから、しばらくは冥法軍長と同じように姿を覆い隠してないといけないけれどね。
あたしを超えて魔王となったお姉ちゃん。
もうあたしだけのものにするだなんておこがましいことは言わない。
これからはあたしのすべてを掛けてお姉ちゃんにつくそうじゃないか。
ところが、魔王に至ったお姉ちゃんを認められない輩が予想以上に多かった。あたしの父である悪魔大公もその一人。悪魔公后と共にあたしを殺したお姉ちゃんを恨み、憎しみ、呪った。そんな彼らにお姉ちゃんは無慈悲に言い放った。
「貴方達、誰でしたっけ?」
お姉ちゃんは事務的に造反者達を粛清していった。分が悪いと悟った造反者共は正統派を名乗って離脱、人類圏に攻め入った。魔王軍は残った正統派残党の掃討と残務処理に専念してしばらく沈黙を保ったままでしょうね。
そんなお姉ちゃん、なんとあたしを蘇らせるために聖女になるだなんて言い出したわ。他の軍長は必死に説得したんだけど、バカ令嬢とあたしが完全論破してやったわよ。家族を想う心を大事にしてやれ、とね。
だからって魔王派のグリセルダとかディアマンテに任せてても暴走する正統派連中を鎮圧出来るとは思えないし、何よりこのあたし自身が連中のことを絶対に許せなかった。お姉ちゃんを認めない奴はこの世に生きる資格なんて無いもの。
「よってこのあたし、冥法軍長ルシエラは今日をもって粛清派を結成するわ」
だから、あたし自らが動くことにした。
ゴミどもを掃除して、今度こそあたしはお姉ちゃんの本当の家族になるんだ。
そして失われた時間を絶対に取り戻してみせる。
「いいですわよ。このわたくしが手を貸して差し上げましょう」
バカ令嬢こと悪魔軍長フランチェスカが高らかに賛同した。
「分かった! 一緒に頑張りましょうね!」
邪神軍長アンラ・マンユが意気込んだ。
「あらあら。家族愛、とっても素敵ね。神のご加護があらんことを」
魔影軍長ガブリエッラが神に祈りを捧げた。
さあ、見ていなさい。運命なんてくそくらえよ。
あたしだって好きなように生きてみせるんだから!
そう、わたしの尊敬する大好きなお姉ちゃんみたいに――!
許せない。屈服させてやる。絶望させてやる。お前は無能で無価値なのだと。
そして誰からも必要とされないお姉ちゃんをあたしだけが愛でるのだ。
お姉ちゃんに無駄な知識なんて要らない。全部取り上げてあたしだけにしてやる。
お姉ちゃんにはあたしだけが存在していればいい。
魔王になる意義が初めて生まれ、あたしは歓喜した。
でも、そんなあたしの思惑もお姉ちゃんは軽々と超えてきたわ。
先代の魔王が亡くなって久しく、何周忌かになったので魔王継承の儀を執り行うことになった。そこでは全ての魔の者、闇の住人が参加する権利を持つ。ここで己の力を示して、新たに全ての頂点、王として君臨することになるの。それは刻印持ちがいようと関係ない、唯一完璧に平等な行事なの。
当然ながら誰もがあたしが全てを凌ぐと思ってたわ。あたしすらそうなって当たり前で、その後の事ばかり考えてたぐらいだもの。きっと予定調和の通過儀礼ぐらいの気分だったんでしょうね。
「ルシエラ。余は貴女を超えて、運命は超えられることを証明してみせましょう」
だから最後にお姉ちゃんがあたしの前に立ちはだかって、
「火、氷、雷、三属性合成。ミックスデルタ!」
「火、水、雷、三属性合成。デルタストーム!」
お姉ちゃんとあたしが死闘を演じ、
「どうしてお姉ちゃんが聖女の奇跡を使えるのよ……!」
「余はルシエラの自慢のお姉ちゃんですからね! 奇跡も魔法も使えなくてどうするんですか!」
「は、はは……。やっぱお姉ちゃんは凄いや」
「シャイニングアローレイ!」
お姉ちゃんがあたしを倒したのは完全に番狂わせだった。
けれど、光の刃に斬られたあたしはとっても嬉しかった。
だって、あたしに全力でぶつかってくれたお姉ちゃんはこの時だけはあたしを見てくれていたもの。
でも、これからは自由に羽ばたいていってね。
大好きだよ、お姉ちゃん。
たまにあたしを思い返してくれたら嬉しいかな。
こうして魔王となるべく生を受けたあたし、ルシエラの短い人生が終わった。
■■■
お姉ちゃんが大公令嬢ルシエラを倒した瞬間、あたしは目覚めたわ。
お姉ちゃんだったらひょっとしたら、と思ってかけてた保険が発動したわけね。
大図書館に通ってた頃から次の魔王軍で主力を担うだろう有力者達があたしに接触してきたわ。次の魔王はあたしで間違いなし、他の有象無象の輩など取るに足らない、などと言ってきたわね。
そのうちの一人、冥法軍長にあたしは目をつけたのよ。
密かに奴一人をおびき寄せて、あたしに忠誠を誓わせ、ある密約をしたわ。冥法軍は死を超越したアンデッドで構成された軍。もしあたしが誰かに敗れても冥法軍長のリッチキングが復活魔法レイズデッドであたしを蘇らせるようにね。
しかし、この密約には裏があった。冥法軍長の奴はそれに気づかないまままんまとあたしに騙されてくれた。
そう、レイズデッドするまでもない。
あたしは冥法軍長の存在そのものを乗っ取ってこの世にしがみつけばいいのだから。
「ごちそうさま。貴方もわたしに糧になったんだから、さぞ嬉しいわよねぇ」
大公令嬢としてのあたしが死んだ瞬間、冥法軍長の魂はあたしの魂が喰らい尽くしてやった。そして乗っ取った器の方はあたしのものとして相応しく作り変えた。ま、他の連中にバレたら厄介だから、しばらくは冥法軍長と同じように姿を覆い隠してないといけないけれどね。
あたしを超えて魔王となったお姉ちゃん。
もうあたしだけのものにするだなんておこがましいことは言わない。
これからはあたしのすべてを掛けてお姉ちゃんにつくそうじゃないか。
ところが、魔王に至ったお姉ちゃんを認められない輩が予想以上に多かった。あたしの父である悪魔大公もその一人。悪魔公后と共にあたしを殺したお姉ちゃんを恨み、憎しみ、呪った。そんな彼らにお姉ちゃんは無慈悲に言い放った。
「貴方達、誰でしたっけ?」
お姉ちゃんは事務的に造反者達を粛清していった。分が悪いと悟った造反者共は正統派を名乗って離脱、人類圏に攻め入った。魔王軍は残った正統派残党の掃討と残務処理に専念してしばらく沈黙を保ったままでしょうね。
そんなお姉ちゃん、なんとあたしを蘇らせるために聖女になるだなんて言い出したわ。他の軍長は必死に説得したんだけど、バカ令嬢とあたしが完全論破してやったわよ。家族を想う心を大事にしてやれ、とね。
だからって魔王派のグリセルダとかディアマンテに任せてても暴走する正統派連中を鎮圧出来るとは思えないし、何よりこのあたし自身が連中のことを絶対に許せなかった。お姉ちゃんを認めない奴はこの世に生きる資格なんて無いもの。
「よってこのあたし、冥法軍長ルシエラは今日をもって粛清派を結成するわ」
だから、あたし自らが動くことにした。
ゴミどもを掃除して、今度こそあたしはお姉ちゃんの本当の家族になるんだ。
そして失われた時間を絶対に取り戻してみせる。
「いいですわよ。このわたくしが手を貸して差し上げましょう」
バカ令嬢こと悪魔軍長フランチェスカが高らかに賛同した。
「分かった! 一緒に頑張りましょうね!」
邪神軍長アンラ・マンユが意気込んだ。
「あらあら。家族愛、とっても素敵ね。神のご加護があらんことを」
魔影軍長ガブリエッラが神に祈りを捧げた。
さあ、見ていなさい。運命なんてくそくらえよ。
あたしだって好きなように生きてみせるんだから!
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