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第二章 焦熱魔王編
焦熱魔王、闇の精霊を闇に消し去る
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「インファーナルフレイム!」
「コキュートスブリザード!」
ティーナが地獄の火炎を、アデリーナが地獄の吹雪を解き放つ。熱気と凍気が二人の中間位置で衝突した。直後、水蒸気爆発のような現象が発生、爆音と共に周囲に衝撃波が走ったようだ。遠見の奇跡越しで眺めていた筈の俺達の場所にまでそれらが届いたほどだから、相当な規模だったのだろう。
「ちぃっ、互角か!」
「拮抗! おのれぇぇ、生意気な!」
二人共追撃は行わずにその場に留まったまま相手を睨みつける。
相対することしばしの間、先に緊張を解いたのはアデリーナの方だった。
彼女は腹の底から笑い声を発し、見開いた目を怨敵へと向けた。
「もう私にこだわるのは止めだ止めだぁ。お前への復讐を遂げられるんだったら過程や方法なんぞもはやどうでも良いわ!」
「……そんなこと、元のアデリーナだったら絶対に言ってなかったぞ」
アデリーナはこれまで使っていた弓を、なんと自分の手でへし折ったではないか。そしてゴミのようにそこらに放り捨てる。残った矢も矢筒ごと放棄。もはや弓でティーナと競うことを止めたらしく、身軽になったとせいせいするアデリーナと対象的にティーナは自分の心が傷つけられたみたいに悲痛な表情を浮かべる。
もはやコイツはエルフにあらず。完全に身も心も記憶すら完全に闇の邪精霊に取り込まれたようだ。
「ダークウェーブ」
アデリーナが前方へ手をかざすと、放たれたのは漆黒の闇。真夜中の環境でありながらも明確に分かるほど光を通さぬ暗黒そのものが波となってティーナに襲いかかったではないか。
ティーナは大きく飛び退いて回避に成功。しかしアデリーナもまともに効くとは全く思っていなかったようで、これはほんの挨拶代わりだと豪語する。その間もアデリーナが纏う闇が彼女の手足のように自在に蠢く。
「闇の邪精霊として戦うのか?」
「ひゃぁっはははぁ! 今更怖気づいたかぁ? 地面に頭をこすりつけて今までが間違っていたと認めるなら許してやらなくもないぞぉぉ」
「そうか。ならうちももうエルフの射手としては戦わない」
「……何?」
ティーナはこれまで使っていた弓を背負い、彼女は代わりにこれまでずっと背負いっぱなしだった弓袋を手にする。そして封印の効果があるだろう札を剥がして、剥がして、全部剥がして、漆黒の布を取り払った。
中から現れたのは、闇そのものだった。
正確には闇を結晶化したとしか思えないほどの漆黒の弓だ。
そして、次に取り出した矢筒と矢もまた黒く染まりきっていた。
弓なんてとんと興味無い俺でさえも取り憑かれてしまいそうなほど魔性の魅力を放ったそれは、俺の隣で真剣に観戦するイレーネを連想させた。そう、彼女そのものである魔王鎧と、魔王剣を。
「ば、かな……それは、それは一体何なんだぁぁ!」
それを目にした途端、アデリーナが恐怖に怯え始めた。大量に汗を流し、歯を震わせ、しかし現実を認めようとせずに怒りを奮い立たせる。そうでもしないと自分を保ってられないとばかりに。
「何って? 焦熱魔王を始めとした四属性の邪精霊をけしかけたお前達闇の邪精霊に復讐した時に魔王城からかっぱらったものだぞ」
今、ティーナはとんでもない発言をしたのだが、今は重要じゃないので捨て置く。
「それは我らではないか! 数多の我らを凝縮・結晶化させた、冒涜的な代物だ!」
「へー、どう作られたかなんて知らないよ。けれど、確かにまるで意思があるみたいに声が聞こえるんだよなぁ。ま、そんなことより……」
ティーナは黒き矢をつがえ、黒き弓を引いた。発せられる気質はいつぞやでイレーネが行使した闇と同質のもの。全てを包み込んで無へと帰する究極の秩序。それが魔王に至った二人の持つ純粋なる闇の正体か。
アデリーナは軽く悲鳴を発して後ずさる。そして踵を返して逃走しようと試みたが、直前にティーナが脚を振り抜いて靴から飛ばされたダガーが太腿に突き刺さり、派手に転ぶだけに終わる。
「魔王弓の力の前に……消え去るがいい」
「やめろ、やめろぉぉっ!」
「ダークネス・ブレイズキャノン」
ティーナから放たれた矢は一直線にアデリーナへと向かい、彼女の眉間に突き刺さ……らなかった。何の抵抗もなく貫通し、それどころか命中した箇所を中心に闇が発生してアデリーナを飲み込んだ。アデリーナが悲鳴を上げる暇すら無かった。
闇は次第に収縮していき消滅した。闇が飲み込んだ対象は何も残っていなかった。抉られた地面の土も、アデリーナが捨てた弓矢も、そしてアデリーナ本人や彼女を乗っ取った闇の邪精霊も。
これまでの死闘と打って変わって実にあっけない最後だった。
俺にとってはそれが何よりも衝撃的だった。
あんなにも明るく陽の気に満ちた彼女がこれほどの闇を抱えていたことに。
「コキュートスブリザード!」
ティーナが地獄の火炎を、アデリーナが地獄の吹雪を解き放つ。熱気と凍気が二人の中間位置で衝突した。直後、水蒸気爆発のような現象が発生、爆音と共に周囲に衝撃波が走ったようだ。遠見の奇跡越しで眺めていた筈の俺達の場所にまでそれらが届いたほどだから、相当な規模だったのだろう。
「ちぃっ、互角か!」
「拮抗! おのれぇぇ、生意気な!」
二人共追撃は行わずにその場に留まったまま相手を睨みつける。
相対することしばしの間、先に緊張を解いたのはアデリーナの方だった。
彼女は腹の底から笑い声を発し、見開いた目を怨敵へと向けた。
「もう私にこだわるのは止めだ止めだぁ。お前への復讐を遂げられるんだったら過程や方法なんぞもはやどうでも良いわ!」
「……そんなこと、元のアデリーナだったら絶対に言ってなかったぞ」
アデリーナはこれまで使っていた弓を、なんと自分の手でへし折ったではないか。そしてゴミのようにそこらに放り捨てる。残った矢も矢筒ごと放棄。もはや弓でティーナと競うことを止めたらしく、身軽になったとせいせいするアデリーナと対象的にティーナは自分の心が傷つけられたみたいに悲痛な表情を浮かべる。
もはやコイツはエルフにあらず。完全に身も心も記憶すら完全に闇の邪精霊に取り込まれたようだ。
「ダークウェーブ」
アデリーナが前方へ手をかざすと、放たれたのは漆黒の闇。真夜中の環境でありながらも明確に分かるほど光を通さぬ暗黒そのものが波となってティーナに襲いかかったではないか。
ティーナは大きく飛び退いて回避に成功。しかしアデリーナもまともに効くとは全く思っていなかったようで、これはほんの挨拶代わりだと豪語する。その間もアデリーナが纏う闇が彼女の手足のように自在に蠢く。
「闇の邪精霊として戦うのか?」
「ひゃぁっはははぁ! 今更怖気づいたかぁ? 地面に頭をこすりつけて今までが間違っていたと認めるなら許してやらなくもないぞぉぉ」
「そうか。ならうちももうエルフの射手としては戦わない」
「……何?」
ティーナはこれまで使っていた弓を背負い、彼女は代わりにこれまでずっと背負いっぱなしだった弓袋を手にする。そして封印の効果があるだろう札を剥がして、剥がして、全部剥がして、漆黒の布を取り払った。
中から現れたのは、闇そのものだった。
正確には闇を結晶化したとしか思えないほどの漆黒の弓だ。
そして、次に取り出した矢筒と矢もまた黒く染まりきっていた。
弓なんてとんと興味無い俺でさえも取り憑かれてしまいそうなほど魔性の魅力を放ったそれは、俺の隣で真剣に観戦するイレーネを連想させた。そう、彼女そのものである魔王鎧と、魔王剣を。
「ば、かな……それは、それは一体何なんだぁぁ!」
それを目にした途端、アデリーナが恐怖に怯え始めた。大量に汗を流し、歯を震わせ、しかし現実を認めようとせずに怒りを奮い立たせる。そうでもしないと自分を保ってられないとばかりに。
「何って? 焦熱魔王を始めとした四属性の邪精霊をけしかけたお前達闇の邪精霊に復讐した時に魔王城からかっぱらったものだぞ」
今、ティーナはとんでもない発言をしたのだが、今は重要じゃないので捨て置く。
「それは我らではないか! 数多の我らを凝縮・結晶化させた、冒涜的な代物だ!」
「へー、どう作られたかなんて知らないよ。けれど、確かにまるで意思があるみたいに声が聞こえるんだよなぁ。ま、そんなことより……」
ティーナは黒き矢をつがえ、黒き弓を引いた。発せられる気質はいつぞやでイレーネが行使した闇と同質のもの。全てを包み込んで無へと帰する究極の秩序。それが魔王に至った二人の持つ純粋なる闇の正体か。
アデリーナは軽く悲鳴を発して後ずさる。そして踵を返して逃走しようと試みたが、直前にティーナが脚を振り抜いて靴から飛ばされたダガーが太腿に突き刺さり、派手に転ぶだけに終わる。
「魔王弓の力の前に……消え去るがいい」
「やめろ、やめろぉぉっ!」
「ダークネス・ブレイズキャノン」
ティーナから放たれた矢は一直線にアデリーナへと向かい、彼女の眉間に突き刺さ……らなかった。何の抵抗もなく貫通し、それどころか命中した箇所を中心に闇が発生してアデリーナを飲み込んだ。アデリーナが悲鳴を上げる暇すら無かった。
闇は次第に収縮していき消滅した。闇が飲み込んだ対象は何も残っていなかった。抉られた地面の土も、アデリーナが捨てた弓矢も、そしてアデリーナ本人や彼女を乗っ取った闇の邪精霊も。
これまでの死闘と打って変わって実にあっけない最後だった。
俺にとってはそれが何よりも衝撃的だった。
あんなにも明るく陽の気に満ちた彼女がこれほどの闇を抱えていたことに。
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