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第二章 焦熱魔王編

戦鎚聖騎士、水の邪精霊を粉砕する

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 土の精霊ノームに対する土の邪精霊マッドノーム。
 火の精霊サラマンダーに対する火の邪精霊ボイドサラマンダー。
 風の精霊シルフに対する風の邪精霊クレイジーシルフ。
 水の精霊ウンディーネに対する水の邪精霊ブラッディーウンディーネ。
 これらが魔王軍の一角、邪精霊軍を司ってるんだとか何とか。

「眠気覚ましにはちょうど良かったでしょう。部下の皆さんは昼寝中ですか?」
「ふざけた真似を……!」

 で、ミカエラの奇襲攻撃を食らった水の邪精霊は相当お冠なようだ。裁きの雷を食らってまだ健在なのはなかなかやるが、それでも結構なダメージを負ったようだ。その怒り様は半端ではなく、ただでさえ歪んでいた顔を更に変形させている。

 奴の他にも水の邪精霊共が次々と水面から出現し始めた。人型を保てずドロドロに拉げてる奴やもはやスライムみたいな不定形になってる個体もおり、敵が深刻な事態に陥ってるのは明らかだった。

「あなた達の野望はここまでです! 大人しく退治されてください!」
「我ら邪精霊をなめるなぁぁ!」

 ミカエラの宣言と共に水の邪精霊共が一斉に襲いかかってきた。前列にいた個体が飛びかかり、後列にいた奴が水砲を飛ばしてくる。俺は水砲を防ごうと盾を掲げたんだが、突然ミカエラから遅い注意が飛んできた。

「あ、伝えるの忘れてました! ブラッディーウンディーネを構成する液体は強力な酸ですから、盾で防いじゃ駄目ですからね!」
「それを早く言えよぉぉ!」

 慌てながらかろうじて回避行動に移れた。通り抜けた水の塊が地面へと落ち、雑草を音を立てて溶かしていく。もしこれを食らっていたら最後、盾ごと腕を溶かされていたかもしれない。

 風の防御術ウィンドアーマーじゃ駄目だな。強酸に直に触れないためにもここは全身に闘気の膜を張る闘気術を使うしかない。アレ常に闘気を放出し続けるから疲れるんだよなぁ。

「フォースシールド!」

 闘気を解放、再び飛んでくる水砲を盾で叩き落とした。そして迫る水の邪精霊へと戦鎚を振り下ろす。手応えと共に邪精霊を構築してた水分が爆発四散する。また水をかき集めて再構成するかと残心を取ったが、さすがに復活したりはしなかった。

 一方のイレーネ、どうやら強酸だろうがお構いなしに聖王剣と魔王剣で斬り伏せている。いいよなー伝説の武具は腐食しない貴金属で出来ててさ。でも剣としての用途に耐えうる材質って金でも白金でもないよな。イレーネ本体のリビングアーマーも強酸で腐食する気配がないし、謎だ。

 ティーナはさすがに分が悪いと悟ったのか俺とイレーネを盾にして、代わりに俺達二人の援護に回っている。主にファイヤーボールを付与した矢を放っている。スライムと違って核を射抜けばいいわけじゃないしな。純粋な弓の腕では相性が悪いか。

 ミカエラは俺達三人の後ろから同じように光の刃を放って援護してくれている。棒立ちにはならずに俺達が守りやすい位置取りをしてくれるおかげで、俺は気兼ねなく戦えている。はるか東では阿吽の呼吸とか言うんだったっけか。

「おのれぇ! かくなる上は……!」

 憎悪に歯ぎしりした(実際には口で捕食する必要もないんだから擬似的な口なんだろうが)頭だろう水の邪精霊は、討伐された同胞の残骸をかき集めて巨大化した。池全ての水をかき集めたのではないかと思えるぐらいにデカい。

 こうなるともう手足や触手を振り回すだけでも一撃必殺。そんな圧倒的な暴力が俺達に降り掛かってくる。うお、踏み付けだけで地面がかなり凹んだぞ。踏み潰されたらぺしゃんこだな。

「しょうがないなぁ。一気に炎で焼き払って……」
「いや、片っ端から細切れにすれば済む話だね」
「いえいえ、ここは浄化の軌跡でですね……」
「もらったぁ!」

 こんな物騒な巨人はとっとと片付けるに限る。

 どうやって仕留めるか三人の魔王が呟いてる隙に俺は跳躍の闘気術セイリングジャンプで天高く跳んだ。そして急降下。落下速度と合わせて水の邪精霊の集合体めがけて戦鎚を振り下ろした。

「ヘヴンズフィストぉっ!!」

 闘気術はただ単に打撃攻撃の威力を上げるだけじゃない。闘気は即ち生命力。その生命力を相手に流し込む効果もある。攻撃的な闘気は液体状だった敵の全身くまなく伝わっていき、蝕んでいく。

 頭部を砕かれた邪悪な巨人は仰向けに倒れていき、そのまま爆発四散した。それはちょうどつい先程水の邪精霊を仕留めた時の現象と同じ。原型を保てなくなった邪精霊が水という器を放棄しざるを得なくなったのだ。

「うわーん! ニッコロに獲物を取られたぁー!」
「ちょっと、僕が格好良く仕留める筈だったのに!」
「さすがは我が騎士! 一撃でやっつけるなんて凄いですね!」
「はっはっは。早いもの勝ちさ。褒めるな褒めるな」

 ミカエラ達が俺へと集まってくる。
 その正体は何であれ、仲間っていうのはやっぱいいものだな。
 こう、格好いいところ見せたくなるじゃん。
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