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第二章 焦熱魔王編

焦熱魔王、エルフの最長老と問答する

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 程なく、案内されたエルフの里は厳戒態勢を敷いており、エルフの弓兵達が物々しい雰囲気で警戒に当たっていた。そして頻繁に異常がないか、つまり邪精霊に取り憑かれた兆候が無いか相互確認を行う徹底ぶりだった。どうやら詰所や前線基地のような場所なのか、一般のエルフは見なかった。

 そこを通り過ぎて歩き続け、夕暮れ時になってようやく俺達は目的地へと連れてこられた。全てのエルフが故郷と呼ぶ、エルフの中心都市へと。

 樹の上に広がる町の賑わいはこれまでの里の比ではなく、アレを町と表現するならこちらは都市ぐらいの規模はあるだろう。奥様方が噂話で盛り上がり、子供達が元気よく駆けずり回る様子は平穏な人里と何も変わりやしなかった。

 連行される俺達はというと、そんな町中を突っ切るわけではなく、地表で移動し続ける。大方人間の俺達を招いて不安がらせる必要はない、とでも判断したんだろう。それでも何人かがふと見下ろして俺達の存在に気付いて騒いだようだがな。

「着いたぞ」
「はへー。こりゃ凄いな……」

 空が薄暗くなってきた辺りでようやく到着したところには大樹があった。いったいどれほどの年月を重ねればこれほど太く高くなるのだろうか? 他の樹も俺が両手を回して手が届かないぐらい太かったけれど、そんなものじゃないな。

 エルフの弓兵が上に合図を送ると、上から籠が降りてきた。俺達はそれに乗って上まで運ばれる。エルフの町は樹の上に平坦に作られるわけじゃなく家屋により高低差が結構あるんだが、その屋敷は都市が一望出来るほどの高所に築かれていた。

 このまま夜景を眺めるのも一興なのだが、ティーナとイレーネが何の感慨も沸かずに屋敷へと入っていくものだがら、俺達もついていかざるを得なかった。そう不満そうな顔をするなよミカエラ。出る時にもう一度楽しもう。

「来たか……咎人め」
「今更どの面下げて戻ってきたというのか……」
「もしや邪精霊共もあやつが引き入れたのではないか……?」

 中で待ち構えていたエルフ達は一様にティーナへと厳しい視線を向けてきた。そのうちの何人かが小言で何かほざいてくるが、ティーナは涼しい顔のまま奥へと歩みを止めない。それが癪なようで、どいつもこいつも苦い顔を浮かべる。

 そして広間の突き当りの上座では骨と皮だけになったヨボヨボの婆……もとい、老人が寝床で横になり、上体を起こしてティーナを睨みつけてくる。ティーナは素知らぬ顔で耳をいじって、爪で擦り落とした垢を息を吹いて飛ばす。

「随分と老けたなぁ、アデリーナ。魔王を討ち果たした英雄様も年には勝てないみたいだなー」
「ティーナ……! まさか生きていたとは……」
「焦熱魔王を倒したうちに後ろから矢の雨あられ浴びせて、燃え盛る森の中に放置したからかー? 死体を確認しなかった甘ちゃんが何言ってるんだか」
「何だと……!? そもそも独断専行で禁忌に手を染めたのは貴女達だろう!」

 どうやらティーナとこのご老人、アデリーナは知り合いらしい。対面するなり俺達やエルフの重鎮らしき連中を置き去りにして言い争いを始めたぞ。アデリーナはティーナに憎しみと怒りをぶつけ、ティーナはアデリーナを憐れむ。実に奇妙な構図だ。

「ティーナ。悪いがそろそろ俺達にも分かるように説明してくれ。このままだと話についていけなくなる」
「んー? ニッコロにとっては今日限りの出会いなんだから別に知らなくてもいいと思うけれどなぁ。まあいいか」

 ティーナは腕を広げながらその場で一回転して一同を見渡す。皆それなりに年月を重ねた者達ばかりで、長年に渡りエルフの社会を支えてきたのだろう。だから敬意も何も払わないティーナに憤りを見せるのだが……、

「まず言っとくとこの場にいる小僧、小娘共はみんなうちより年下だ。見知った顔もいるかと身構えてたんだが、まさかそこの英雄様だけとはなぁ」

 ブラッドエルフになったとはいえハイエルフにまで至ったティーナにとっては誰もが至らない未熟者ってことか。ティーナの時代は長い寿命を持つエルフでさえ世代が異なっているしな。蔑称のように英雄様と呼ぶアデリーナが生きていることが奇跡だろう。

「で、そこの英雄様はうち等が焦熱魔王率いる魔王軍と死闘を繰り広げてた時の若き族長、うちの妹分だった女だ。邪精霊共に対抗するには禁忌を犯す他無いって主張するうち等を最後まで異端者だとか罵ってきてな。昔から頭が硬い奴だったぞ」
「どの口で言っている……。貴女達ブラッドエルフと魔王軍の戦場跡は必ず焦土と化した! 森が治るまで何百年かかったと思っている!?」
「じゃああのまま汚染され尽くして良かったのか!?」
「……っ!」
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