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第二章 焦熱魔王編
勇者魔王、風の邪精霊を両断する(前)
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水の精霊が住む湖、そしてそのほとりにある水の神殿で起こった異変。これらの報告を教会と冒険者ギルド双方に行った俺達は目的地とする聖地に向けて出発した。後始末や復興には多大な時間を要するだろうが、それは俺の管轄外なんでね。
土の邪精霊にお引き取り願ったからと言って全部解決したわけではない。ディアマンテは正統派に与する反逆者達の粛清を目的に先走ったと表明していた。となると、今後邪精霊共が起こす騒動に直面した場合、次は戦わないといけないわけだ。
更に、今俺達がいる国は精霊達の住処が豊富で、わりと多くの神殿や祭壇が作られている。思いっきり精霊を乗っ取ってその力を取り込む邪精霊の侵略対象なわけで、水の神殿のように堕ちた精霊の住処に出くわす可能性は決して低くないわけだ。
「それは好都合だぞ。うちが一網打尽にしてやるか-」
俺が改めて説明したところ、ティーナは犬歯を見せながら笑ったわけだが。
そんな俺達は草原を突っ切る一本道を進んでいた。この辺りは割りと起伏があるのと川から少し離れているせいで村や農地から遠い。代わりに瘴気で魔に堕ちてない野生動物達が暮らしていて、とてものどかな雰囲気となっていた。
風が肌を撫でてとても心地よい……と言いたかったが、何だか進むにつれて段々と臭うようになってきた。腐っている、錆びている、など色々と考えつくんだがどれもしっくりこない。とにかく不快で気持ち悪くなっていった。
「直前に立ち寄った町で得た情報によれば、この草原のどこかに風の精霊を祀る祭壇があるらしいな」
「はい。季節によって様々な風が吹くので、風の精霊に愛された土地なんだって言い伝えられてるみたいですね」
「で、どうしてその風の精霊に愛された草原の風がこんな鼻を摘みたくなるんだ?」
「そりゃあ、邪精霊に汚染されたからじゃないですか?」
ですよねー。
馬車の御者席から前方と左右を見渡す俺とミカエラ。かごの上に立って周囲を観察するティーナ。馬を走らせて先行して様子を窺うイレーネ。四人とも特に異変らしい異変を見ることはなかった。……最初のうちは。
進むにつれて雑草がしなびてきた。やがて草は生気を失い、茶色に枯れたものばかりが目につくようになった。草原に生息していた動物や鳥の姿は消え、不快な風が吹くばかりの死地が広がるようなった。
この現象、汚泥に侵食された水の精霊が住む湖を彷彿とさせた。
となれば、何が起こったか推理するのは容易い。
既に風の精霊の祭壇は邪精霊の手に落ちたと見なしていいだろう。
「で、邪精霊共が姿を現した場合、討伐していいんだよな?」
「ディアマンテが撤退した段階で邪精霊軍には下がるよう命令を出してます。従わない部隊は違反してるわけですから、正統派と見なして処罰してもいいでしょう」
「そうかい。今回は構図が単純で良かった。単に目の前の敵をぶちのめせばいいだけだしな」
「期待していますよ、我が騎士」
と豪語したのはいいんだが、一番最初に動いたのはやっぱりティーナだった。彼女が空に向けて矢を射ると、遥か遠くで何かに当たるのが見えた。ティーナは続けざまに矢を放ち、次々と何かを仕留めていく。
「いつ見ても風の邪精霊は醜いなー。邪精霊共は不細工にならなきゃいけない決まりでもあるのか?」
そうボヤかれても爪の先程度の大きさにしかないぐらい遠い相手の姿なんて全く見えないんだが。森の狩人であるエルフは軒並み目がいいと聞いた覚えはあるが、ティーナは群を抜くな。
接近するに従ってようやく周囲を飛び回る風の邪精霊共の姿を確認出来た。トンボのような薄い二対の翅を持って空を飛ぶとされる人の幼女に近い姿をしているのが風の精霊シルフだが、それと昆虫を悪魔合体した外見をしていて、確かに醜悪だ。
風の精霊はその性質上大気や風と同化していて目には見えないのだが、ティーナが遠距離から次々と駆除したせいか、荒ぶる風の邪精霊は怒りをあらわにしてその姿を現していた。
土の邪精霊にお引き取り願ったからと言って全部解決したわけではない。ディアマンテは正統派に与する反逆者達の粛清を目的に先走ったと表明していた。となると、今後邪精霊共が起こす騒動に直面した場合、次は戦わないといけないわけだ。
更に、今俺達がいる国は精霊達の住処が豊富で、わりと多くの神殿や祭壇が作られている。思いっきり精霊を乗っ取ってその力を取り込む邪精霊の侵略対象なわけで、水の神殿のように堕ちた精霊の住処に出くわす可能性は決して低くないわけだ。
「それは好都合だぞ。うちが一網打尽にしてやるか-」
俺が改めて説明したところ、ティーナは犬歯を見せながら笑ったわけだが。
そんな俺達は草原を突っ切る一本道を進んでいた。この辺りは割りと起伏があるのと川から少し離れているせいで村や農地から遠い。代わりに瘴気で魔に堕ちてない野生動物達が暮らしていて、とてものどかな雰囲気となっていた。
風が肌を撫でてとても心地よい……と言いたかったが、何だか進むにつれて段々と臭うようになってきた。腐っている、錆びている、など色々と考えつくんだがどれもしっくりこない。とにかく不快で気持ち悪くなっていった。
「直前に立ち寄った町で得た情報によれば、この草原のどこかに風の精霊を祀る祭壇があるらしいな」
「はい。季節によって様々な風が吹くので、風の精霊に愛された土地なんだって言い伝えられてるみたいですね」
「で、どうしてその風の精霊に愛された草原の風がこんな鼻を摘みたくなるんだ?」
「そりゃあ、邪精霊に汚染されたからじゃないですか?」
ですよねー。
馬車の御者席から前方と左右を見渡す俺とミカエラ。かごの上に立って周囲を観察するティーナ。馬を走らせて先行して様子を窺うイレーネ。四人とも特に異変らしい異変を見ることはなかった。……最初のうちは。
進むにつれて雑草がしなびてきた。やがて草は生気を失い、茶色に枯れたものばかりが目につくようになった。草原に生息していた動物や鳥の姿は消え、不快な風が吹くばかりの死地が広がるようなった。
この現象、汚泥に侵食された水の精霊が住む湖を彷彿とさせた。
となれば、何が起こったか推理するのは容易い。
既に風の精霊の祭壇は邪精霊の手に落ちたと見なしていいだろう。
「で、邪精霊共が姿を現した場合、討伐していいんだよな?」
「ディアマンテが撤退した段階で邪精霊軍には下がるよう命令を出してます。従わない部隊は違反してるわけですから、正統派と見なして処罰してもいいでしょう」
「そうかい。今回は構図が単純で良かった。単に目の前の敵をぶちのめせばいいだけだしな」
「期待していますよ、我が騎士」
と豪語したのはいいんだが、一番最初に動いたのはやっぱりティーナだった。彼女が空に向けて矢を射ると、遥か遠くで何かに当たるのが見えた。ティーナは続けざまに矢を放ち、次々と何かを仕留めていく。
「いつ見ても風の邪精霊は醜いなー。邪精霊共は不細工にならなきゃいけない決まりでもあるのか?」
そうボヤかれても爪の先程度の大きさにしかないぐらい遠い相手の姿なんて全く見えないんだが。森の狩人であるエルフは軒並み目がいいと聞いた覚えはあるが、ティーナは群を抜くな。
接近するに従ってようやく周囲を飛び回る風の邪精霊共の姿を確認出来た。トンボのような薄い二対の翅を持って空を飛ぶとされる人の幼女に近い姿をしているのが風の精霊シルフだが、それと昆虫を悪魔合体した外見をしていて、確かに醜悪だ。
風の精霊はその性質上大気や風と同化していて目には見えないのだが、ティーナが遠距離から次々と駆除したせいか、荒ぶる風の邪精霊は怒りをあらわにしてその姿を現していた。
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