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第二章 焦熱魔王編
聖女魔王、焦熱魔王と問答する(後)
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そんなティーナの顔を覗き込むように見上げた。身長差がかなりあるのだけれど、ずっと小さいミカエラの堂々とした有り様にティーナは気圧されているようだった。絶対の自信がこもった笑顔なのもそれに拍車をかけているかもな。
「ティーナは焦熱の魔王ですか? エルフですか?」
「は? いきなりなんだ?」
「イレーネも、魔王ですか? 勇者ですか? それとも大聖女ですか?」
「え? 僕?」
「じゃあニッコロさんは聖騎士ですか? それとも……」
「ミカエラも散々言ってるだろ。俺はミカエラの騎士だ」
「さすがは我が騎士! 実に完璧、一番欲しかった答えです!」
間髪入れずに即答してやったら何か大喜びしてきた。
ミカエラが嬉しければ俺も嬉しいので、実に何よりだな。
そしてこの問いこそがミカエラの本音なんだとティーナは気付いてくれたか?
「余は余です。魔王になったことも聖女になったことも、副次的なものに過ぎません。立場に伴う使命だとか知ったことじゃありません。そりゃあ人並みに悲しみますし怒りますけれど、それ以上を背負うつもりはありませんよ」
「そういうのを無責任って言うんじゃないのか?」
「そういった負い目を感じるよう育っていないもので。救えなかったことに無力さは感じますが、失敗を他人に批難される謂れはないですね」
その考えは身勝手でもあるし、同時に寂しいとも感じた。
だって立場なんて糞食らえで他人に口を挟まれたくないってことは、ミカエラはそれだけそれらに対して嫌な思いをしてきたってことだろ。そんな理不尽をねじ伏せて魔王や聖女にまで上り詰めた先に求めるのが自分が手をかけた実の妹、か。
「ティーナ、納得したか?」
「……ニッコロ。彼女は聖女なんかじゃない。それでも彼女を守るのか?」
「ミカエラはミカエラだから守りたいって俺は強く願ったんだ。これ以上ガタガタうるさく喚くなら相手になるぞ。いい加減俺も腹が立ってきたんでね」
「言っただろ。糾弾したいわけじゃない、てさ」
ティーナは一歩後退して両手を徐ろに上げた。それはまるで降参を表すようだった。そして彼女はこちらではなくどこか遠くを見つめるように視線を外した。思い起こすのはいつの時代のことだろうか。
「そうかーそうだよなー。うちはうちだよなー。うちだって人にとやかく言われたく無いもんなー。ごめんな!」
ティーナは手と手を合わせて、ミカエラに対して深く頭を下げて謝意を示した。彼女の癖のない長い髪が下へと流れる様子はまるで小川のせせらぎを思わせた。
あまりの変わりっぷりに俺もミカエラも目が点になった。反応に困っている間にティーナは顔を上げた。先ほどとは打って変わって清々しい表情を浮かべていた。
「いきなりこんな事言いだして迷惑だったよな。詫びに今度観光する時うちがお金全部出すからさ。あ、夕食をおごってもいいぞ。各地の美味い店は知ってるからなー」
「本当に責めないんですね。確かにこの一件はティーナの言うように余のせいでもあるのに」
「そんな正義を気取るにはうちは血塗られた道を歩みすぎたさー。でも無性に知りたくなったんだ。今の魔王をさ。ミカエラだったら安心出来る」
「邪精霊達の手綱を握れるから、ですか?」
「ま、そんなところさー。みみっちい憎悪からだし、しょうもないよなー」
笑いながらティーナは再び介抱の作業へと戻る。ミカエラは困ったように俺へと視線を送ってきたので、俺は大げさに肩をすくめてみせた。ミカエラは不満そうに頬を膨らませたものの、再び神官達に奇跡をかけ始めた。
結果だけを見るならティーナが勝手に怒って勝手に納得しただけなんだが、ティーナやミカエラという個人を更に知ることが出来た、と好意的に捉えよう。ティーナが付いてくると言ったのなら尚更、早いうちに分かりあえた方がいい。
……仲間が増えたところで俺はミカエラの騎士であり続けるつもりだがな。
ティーナやイレーネには悪いが、そこを譲るつもりはないので、あしからず。
「ティーナは焦熱の魔王ですか? エルフですか?」
「は? いきなりなんだ?」
「イレーネも、魔王ですか? 勇者ですか? それとも大聖女ですか?」
「え? 僕?」
「じゃあニッコロさんは聖騎士ですか? それとも……」
「ミカエラも散々言ってるだろ。俺はミカエラの騎士だ」
「さすがは我が騎士! 実に完璧、一番欲しかった答えです!」
間髪入れずに即答してやったら何か大喜びしてきた。
ミカエラが嬉しければ俺も嬉しいので、実に何よりだな。
そしてこの問いこそがミカエラの本音なんだとティーナは気付いてくれたか?
「余は余です。魔王になったことも聖女になったことも、副次的なものに過ぎません。立場に伴う使命だとか知ったことじゃありません。そりゃあ人並みに悲しみますし怒りますけれど、それ以上を背負うつもりはありませんよ」
「そういうのを無責任って言うんじゃないのか?」
「そういった負い目を感じるよう育っていないもので。救えなかったことに無力さは感じますが、失敗を他人に批難される謂れはないですね」
その考えは身勝手でもあるし、同時に寂しいとも感じた。
だって立場なんて糞食らえで他人に口を挟まれたくないってことは、ミカエラはそれだけそれらに対して嫌な思いをしてきたってことだろ。そんな理不尽をねじ伏せて魔王や聖女にまで上り詰めた先に求めるのが自分が手をかけた実の妹、か。
「ティーナ、納得したか?」
「……ニッコロ。彼女は聖女なんかじゃない。それでも彼女を守るのか?」
「ミカエラはミカエラだから守りたいって俺は強く願ったんだ。これ以上ガタガタうるさく喚くなら相手になるぞ。いい加減俺も腹が立ってきたんでね」
「言っただろ。糾弾したいわけじゃない、てさ」
ティーナは一歩後退して両手を徐ろに上げた。それはまるで降参を表すようだった。そして彼女はこちらではなくどこか遠くを見つめるように視線を外した。思い起こすのはいつの時代のことだろうか。
「そうかーそうだよなー。うちはうちだよなー。うちだって人にとやかく言われたく無いもんなー。ごめんな!」
ティーナは手と手を合わせて、ミカエラに対して深く頭を下げて謝意を示した。彼女の癖のない長い髪が下へと流れる様子はまるで小川のせせらぎを思わせた。
あまりの変わりっぷりに俺もミカエラも目が点になった。反応に困っている間にティーナは顔を上げた。先ほどとは打って変わって清々しい表情を浮かべていた。
「いきなりこんな事言いだして迷惑だったよな。詫びに今度観光する時うちがお金全部出すからさ。あ、夕食をおごってもいいぞ。各地の美味い店は知ってるからなー」
「本当に責めないんですね。確かにこの一件はティーナの言うように余のせいでもあるのに」
「そんな正義を気取るにはうちは血塗られた道を歩みすぎたさー。でも無性に知りたくなったんだ。今の魔王をさ。ミカエラだったら安心出来る」
「邪精霊達の手綱を握れるから、ですか?」
「ま、そんなところさー。みみっちい憎悪からだし、しょうもないよなー」
笑いながらティーナは再び介抱の作業へと戻る。ミカエラは困ったように俺へと視線を送ってきたので、俺は大げさに肩をすくめてみせた。ミカエラは不満そうに頬を膨らませたものの、再び神官達に奇跡をかけ始めた。
結果だけを見るならティーナが勝手に怒って勝手に納得しただけなんだが、ティーナやミカエラという個人を更に知ることが出来た、と好意的に捉えよう。ティーナが付いてくると言ったのなら尚更、早いうちに分かりあえた方がいい。
……仲間が増えたところで俺はミカエラの騎士であり続けるつもりだがな。
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