新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第二章 焦熱魔王編

戦鎚聖騎士、新たな聖地へ出発する

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 聖地を出発した俺、ミカエラ、イレーネの三人パーティーは次の目的地である新たな聖地に向けての旅を始めた。

 勇者と聖女の旅立ちってことで聖地は大変賑わった。そりゃあもう前夜はお祭り騒ぎで盛り上がったものだ。大教会の連中の要望を断りきれなかったミカエラ達は聖都中を引っ張りだこになって市民に対応した。本当、お疲れ様だわ。

 で、次の日の朝に出発には日の出直後にもかかわらず多くの市民が駆けつけ、勇者と聖女の旅立ちを見送った。大勢が名残惜しそうに涙を流し、しかし救済の旅を邪魔してはいけないと笑顔。俺達が見えなくなるまでずっと手を振っていた。

「んで、妖魔軍の工作員達はどうしたんだ?」
「グリセルダと直属の部下は撤収しましたよ。ヴェロニカを初めとして多くの妖魔軍幹部を失ったから、当分は事態の収拾に務めるそうです」
「それでもまだサキュバスは残って聖地の男共を絞り尽くすのか」
「ヴェロニカの追跡と人類圏への侵食は別の作戦ですからね」

 ヴェロニカ討伐を受けて、ヴェロニカが潜伏先にしていた夜の店は当然ながら閉店になった。半分近くがヴェロニカの部下、つまり妖魔だったため、残りの従業員は今もなお事情聴取を受けているんだとか。

 グリセルダの夜の店は今なお営業中である。今夜もまた男衆に甘い言葉を囁き、熟れた身体を密着させ、その欲望を開放してやる代わりに情報を集め、いずれは男衆を言うがままの奴隷にしてしまうんだろう。

 それを見過ごして聖地を離れるのは聖騎士として如何なものか、と思わなくはないんだけどな。その辺りの浄化活動は聖地を守る騎士達の役目だろ。危なくなったら俺よりまともな聖騎士が聖女を伴って派遣されるさ。

「しかしまあ、楽だねえ」
「ご厚意に甘えちゃいましたねー」

 で、俺達はなんと貴族様が乗るような造りの馬車に乗っている。乗り合いの幌馬車とか徒歩を考えてたんだが、大教会が「勇者や聖女の旅立ちに相応しい交通手段で!」とか言ってきたもので。

 ……なお、これだけの待遇を受けるのが実は勇者や聖女ではなく二人の魔王だと知った日にはどうなることやら。神に罪を告白して悔いるのか、絶望の淵に追いやられて心を壊すのか。ま、黙ったままの方がいいだろう。

「それで、次の聖地ってどんなところなの?」

 ちなみに、勿体ないことにかごの中には誰も乗ってない。俺が御者として馬を操っていて、ミカエラは何故か俺の隣に座っている。イレーネに至っては馬車にも乗らずに馬を駆っていた。

 イレーネ曰く、

「かごの中でじっとしてるのは性に合わないよ」

 ミカエラ曰く、

「ニッコロさんの側にいたいんでしょ。それに前方の景色を楽しみたいですし」

 意味ねー、と思わずにはいられなかった。しかしこれも俺達らしいのか?

「あー、次の聖地かー。イレーネはエルフって知ってるか?」
「人間とは違った人類種で、森に生息。在り方は精霊に近くて長命、だったっけ。大したことないくせに排他的で偉そうにしてさ、僕は好きじゃないな」
「散々なこき下ろしようだなオイ。まあいい、とにかく、次の聖地はエルフも住む大森林の一角だな」

 人類と人間は同義語ではない。森の民エルフ、大地の民ドワーフ、あとホビット等の人型の知的生命体を総称して人類とされている。この定義を認めるか否かは議論を巻き起こすので棚上げする。

 多分生き物として最も優れているのはエルフだろう。寿命、知識、身体能力、全てが人間を超えている。しかしその思想は自然に近い立ち位置のため、文明を築き上げた人間の方が繁栄している。なのでたまに人間の中にはエルフやドワーフ達を総称してまがい物の人、つまり亜人などと蔑称する馬鹿が出るんだが、その話も割愛だな。

 エルフやドワーフはこの教国連合内にも住んでいる。一応人類国家の一部にはなっているものの、実質的には自治区扱いだ。彼らは人間の文化文明に混ざることなく今なお独自性を保って生活を続けていた。

「どうしてそんな面倒そうな所が聖地なの?」
「焦熱の魔王を討ち果たした場所らしい」

 しかし魔王軍からしたら人間だろうとエルフだろうと関係無い。歴史上幾度となく繰り返された侵略によってエルフの森は何度も焼かれた。特に地獄の火炎の化身ともされた焦熱の魔王は多くの森林を焼き払った、と記録されている。

 焦熱の魔王を討伐したのはエルフの勇者だったそうな。今なおエルフの勇者の活躍はエルフの間で語り継がれ、エルフの誇りとされている。エルフの族長は勇者の末裔だそうで、今なおその影響は計り知れない。

「焦熱の魔王かー。僕の時代よりずっと前だなぁ」
「千年以上前だったっけか。それでもエルフ達にとっては親とか祖父母世代なんだよなぁ。数百年も寿命があるとか俺だったらやってらんねぇんだけど」
「ん? エルフは千年単位で生きるって聞いたことあるけれど?」
「そりゃあより高位にまで到達したハイエルフだな。確か精霊に近くなればなるほど寿命が伸びて、究極的には寿命が無くなるんだとか何とか」
「リビングアーマーの僕だって魔力が尽きたり朽ち果てたら死ぬのに……。魔物と比べてもエルフぐらい優れた種族って希少なんじゃないかな」
「ぱっと思いつくのがドラゴンとか純悪魔かぁ」

 そんな焦熱の魔王終焉の聖地に俺達は向かおうとしているわけだ。
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