上 下
47 / 209
第一章 勇者魔王編

【過去話】戦鎚聖騎士、学院時代をふりかえる(前)

しおりを挟む
 俺が聖騎士を目指したのはたまたま故郷にやってきた聖騎士が格好良かったから憧れたってだけで、別に魔物に恨みがあったり悲しい過去があるわけじゃない。ごくありふれたきっかけってやつだろう。

 そんな俺の特訓だとか勉強とか、故郷を離れて都会や教国総本山の会場で受けた試験の様子は物凄くつまらないので端折るとしよう。合格はしたんだが成績は下から数えた方が早かった、とだけ言っておく。

 人間を救済する聖女、それを守る盾となる聖騎士を育成する機関、教国学院。ここに入れるだけでも故郷じゃ自慢できるぐらいなんだが、聖女や聖騎士になれる奴はごく一握り。少ない椅子をかけて生徒達は争うことになる。

 そんなんだから、生徒達の半分ほどが聖女になる、または聖騎士になることを目指し、残りの何割かが初めから諦めて高位の女神官、神官を志望していた。俺もよしんば聖騎士になれなくてもいっか、とか入学の時は考えてたんだがね。

「余はミカエラ。いずれ聖女となって奇跡を成す者です」

 なもので、聖女であることを前提にして将来を語るミカエラには驚いたものだ。

 □□□

「それにしても、学院の中って結構ギスギスしてますよね。崇高な目的で建てられた機関だって聞いてたから、もっと厳粛かと思ってたんですけど」
「そりゃそうだ。聖女や聖騎士になれるのは指で数えられる程度。なら自分を高めるだけじゃなく相手の足を引っ張るのも有効だろ」
「そんな汚い真似して聖女になったとして、恥ずかしくないんですかね?」
「結果が出れば過程や方法なんざどうでもいいんだろ」

 その後どうもミカエラには気に入られちまったみたいで、学院生活は常にミカエラと共に過ごしたと言って過言ではない。単純にお互い気が合ったのもあったんだが、他の連中とは距離を起きたかったのも大きい。

 学院の中は正直息苦しかった。切磋琢磨しあってる、と表現すれば聞こえが良いんだが、いかに相手を邪魔して蹴落とすかをどいつもこいつも常に考えてるっぽくてね。いちいち会話の端々に牽制と窺いが入るんだわ。

 そんなんだから、我が身を守るために自然と固まるようになって、所謂派閥が出来上がった。どこの派閥にどこの有力者の子息が属してるから安全、とか、あの派閥にいる生徒はかの聖女の覚えが良いから近づこう、とかな。馬鹿らしいよな。

 じゃあ四六時中ミカエラとばっか付き合ってたかっていうと、勿論違う。

「やりたい奴はやらせておけばいいじゃないの。その間に自己研磨をするだけね」
「先生方は生徒の生活態度も見ているから、正しく評価されるさ」

 俺達と同じように一連の風潮を馬鹿らしく思う奴と自然と仲良くなった。
 それが俺達の同級生、聖女候補者ラファエラと、聖騎士ヴィットーリオだ。

 このラファエラ、最終的に首席聖女として卒業してる。実技こそミカエラに及ばなかったが、奉仕や筆記などその他の成績で尽くミカエラを上回る好成績を叩き出してたな。ミカエラが悔しそうに再戦を挑む場面が何度あったことか。

 そしてヴィットーリオ、彼も首席聖騎士として卒業した。もう強えの何の。防御は突破できないし剣の振りは鋭いし。何より突出した技能は無くて全体的に高水準の能力にまとまってる。器用万能ってヴィットーリオのことを言うんだろう。

 で、このラファエラとヴィットーリオはなんと同郷の幼馴染なんだそうだ。なもので、この二人は一緒にいるのが当たり前。口喧嘩してたら痴話喧嘩とか夫婦漫才と見なされてたっけ。もうお前ら付き合っちまえよ、と誰もが思ったことだろう。

「私はラファエラ。聖女となって苦しむ人々を助けていきます」

 入学当時の自己紹介の際、ラファエラはそう言い切っていた。彼女は自分が聖女となる未来を全く疑っていなかった。自信にあふれるとかそんなんじゃなく、まるでそうなるのが運命だとか神の導きだとか言うように。

「俺はラファエラが聖女になるから聖騎士になるんだ。ラファエラを守れるように」

 ヴィットーリオもヴィットーリオで、最初の挨拶で当たり前のように、恥ずかしげもなくそう言ってのけた。あまりにも真っ直ぐすぎて誰も彼をからかうことはなかった。かといって冗談もあまり通じないので、積極的に交流を深めようとする奴も少なかったが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...