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第一章 勇者魔王編

戦鎚聖騎士、魔王封印の間から脱出する

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 魔王封印の間。そこで俺とミカエラは復活した魔王イレーネと向き合っている。

 とはいえ、既にもう戦う雰囲気じゃない。ミカエラは少し乱れた服と髪を整え直してるし、イレーネも身体を伸ばして自分のものにした血肉を実感してるし、俺なんか兜を脱いで汗拭ってるしな。

「それで、僕は五体満足なんだけれど、どうするの?」
「そう言いますけど、大人しく再封印されてくれるんですか?」
「嫌だね。もしその気なら全力で抵抗させてもらうから」

 魔王イレーネは舌を出して明確に拒絶してきた。実におちゃらけた仕草ではあったが、もし俺達がひと度そうしようと試みたが最後、次には魔王剣を一閃、俺とミカエラの首は胴体からおさらばすることだろう。そう思うと顔がひきつってしまう。

「現代に蘇った魔王として世界に混沌をもたらすつもりですか?」
「アレは魔物共が僕に便乗しただけだって。僕個人は強い奴と戦うことだけが望み。それは今も変わらないさ」
「成程。じゃあこれからも修羅の道を歩んでいく、と」
「それが僕だ。誰にも否定はさせない。勇者にも、聖女にもね」

 ミカエラは権杖で軽く肩を叩くと、踵を返した。イレーネに背中をさらす完全に無防備な状態なんだが、全く気にする様子もなく、用事は済んだとばかりに門に向けて歩み始めた。僅かにためらったものの、俺も彼女の後を追った。ええい、ままよ。

「いいのかミカエラ。旧魔王を放置しても」
「多分問題無いでしょう。現役の魔王がいる現世で魔物が彼女に影響されるなら、人類の敵が二分されることになる。むしろ好都合でしょう」
「アイツが新たな魔王として魔の頂点に君臨したりは?」
「嫌ですねえ。余は彼女に負けませんよ。あふれる知性で返り討ちです」

 ミカエラは自信満々に言い放つが、聖女としての彼女はどうあがいてもイレーネには太刀打ちできまい。とすれば、魔王を自称する彼女、俺の知らない別側面で彼女を上回ると計算してるのか。 

 引き返す俺達の前にはあの閉ざされた厳重な門が立ちはだかった。万が一魔王が復活しても外に出さない最終防衛策だけあって巨大で強固に見える。その威圧感だけで圧倒されてしまうし、良くこんな物作ったなと呆れてしまうな。

「それでニッコロさん。コレ壊せますか?」
「戦鎚はあるから日数かければ何とか? それより脇に隧道掘った方が早そうだ」
「んー。余も聖女の奇跡じゃあちょっとすぐには無理ですねぇ」
「しょうがねえ。覚悟決めて土木作業にでも明け暮れ――」

 げんなりしてたやる気を何とか奮い立たせて扉をぶっ壊そうとしたその時だった。立て続けに耳をつんざく甲高い音が扉の方から響き渡った。
 耳がキーンって擬音をたてて鳴ってる。ミカエラも流石にびっくりした様子で、両耳を塞いでいた。

 すると、あんなにも物々しかった扉が崩れ落ちていった。
 空間全体に反響する轟音。盛大に舞う粉塵。
 前方には瓦礫と化した扉の残骸が山になっており、道が開けていた。

「みじん斬り、ってね」

 振り返ると、すぐ後ろでイレーネが剣を鞘に収めていた。

 すると何か、イレーネが魔王剣で扉をめった斬りにしたわけか。
 岩同然の扉をも斬るその腕前。彼女が本気だったら俺も盾や鎧ごとやられてたかもしれない。

「ミカエラ、だったっけ? わざわざここまで出向いたのは何のためかな?」
「単に聖地巡礼ですよ。もっと言えば、余とニッコロさんの経験を積むためです」
「へえ、面白い。……うん、よし、決めた」

 イレーネはしばしの間考え込むと、爽やかな笑顔と共に手を差し出してきた。

「僕をミカエラ達のパーティーに入れてほしい。どうかな?」

 ……は?
 いや、ちょっと待て。

 目の前のコイツは勇者イレーネの体を乗っ取って復活を遂げた正真正銘の魔王。いつ俺達に刃が向けられないか分かったものじゃないんだが。そんな気が休まらない旅なんてまっぴらごめんだ。

 一方のミカエラ、俺と違って危機感からじゃなく単純に不満そうで、むすっと顔をしかめた。迫力がなくてやっぱ可愛い。

「えぇ~? 嫌です。せっかくのニッコロさんとの二人旅なのに」
「そこをどうにかさ。ほら、僕って勇者だし魔王だし、強いよ」
「我が騎士はニッコロさんだけで間に合ってます。断ったらどうしますか?」
「少し距離置いて後ろをついていくだけだけど?」
「どうしてそこまで余達に付いてこようと?」
「だって面白そうじゃん、君達の旅ってさ。きっと僕も楽しめると思うんだ」

 イレーネの欲求を満たすとか、強敵達と遭遇するってことだろ。
 勘弁してほしいんだけど。

 ミカエラは俺をちらっとだけ見つめ、そしてイレーネに視線を戻す。

「しょうがないですねぇ。迷惑をかけずに邪魔しないならいいですよ」
「やりぃ! それじゃあミカエラにニッコロ、これからよろしくね!」
「ほら、ニッコロさん。握手に応じてあげないと」
「俺ぇ!?」

 言いたいことは飲み込んで、イレーネと握手を交わした。

 互いに籠手を付けた状態ではあったが、それでも身体の作り、軸心の一切のぶれなささ、といったイレーネの在り方に強者という印象を覚えた。逆にイレーネも俺のことを感じ取ったはず。さて、どう評価してもらえたのやら。

「それで、地上に戻ったらまず何する?」
「そんなの決まってるじゃないですか」

 一応念のためにミカエラに質問したんだが、愚問だとばかりに鼻で笑ってきた。
 やっぱやるのか。俺もその気だったから完全に同意なんだがね。
 そう、こんな状況になった落とし前は付けないとなぁ。

「悪党は成敗しませんと」

 助祭を初めとした教会の連中め、今叩きのめしに行ってやんよ。
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