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第一章 勇者魔王編

聖女魔王、いざ聖都から出発する(後)

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 乗客の顔ぶれは様々で、出稼ぎのオヤジとか逆に出稼ぎの家族に会いに来た母娘とか、あと商人もいるな。聖都周りは治安が良いから旅行客もいるようだ。こんだけ客が多いなら定期便になるのは納得だわな。

 準備が整ったので出発。長距離乗合馬車の駅は聖都の端にあるから、すぐに聖都を抜けた。つまり教国からの出国でもあり、俺達が数年間に渡って学んできた思い出の場所からの旅立ちでもある。

「ニッコロさんニッコロさん! ほら後ろ! もう聖都があんなに遠くに!」
「おー、あんなに広くてデカかったトコも遠くからだとちっぽけに見えるな」
「いかに世界が広いんだって思い知りますよね!」
「あー、確かにそういう感想が無いわけでもないわな」

 さて、教国連合では基本的に人は村、町、都市に集まって生活している。山奥とか川岸に一人暮らし、なんてする酔狂な奴はほぼいない。と、言うのも、単に治安が悪かったり過酷な環境が原因じゃない。

 この世には聖女も魔王もいる。
 つまり、アレがいるわけだ。
 それを不安がってか、乗客の一人が身震いしてた。

「途中、魔物が現れたりしませんかね……?」

 そう、人々の生活を脅かす厄介な存在、魔物が。

 魔物がいつ地上に現れだしたかは知らねえ。教会の教えによれば預言者が神の教えを説く頃には既にいたらしいがね。野生動物の延長線上にいる可愛い奴もいれば悪魔の化身とか厄災そのものもいたり、危険度はピンからキリだ。

 どうやって生まれるのか。自然繁殖? 瘴気から誕生? 魔王が創造? まあとにかく始末しても撃破してもすぐに増えだすんだからうざったいよな。かと言って放置してると強くなって討伐しづらくなるしよ。人類史とは魔物退治の歴史でもあるわけだ。

 聖都やその近隣地域は定期的に駆除が行われてるし、何なら冒険者とか呼ばれる連中がちょっと日帰りで狩猟もしてるしな。おかげで今見晴らす平原はそんなに危なくねえ初心者向けの魔物ばっかの生息域になってる。

「心配すんなって嬢ちゃん! そのために俺達は高い金払ってコレ乗ってるんだからよ」

 がははと笑いながらヒゲ生やしたオッサンが馬車の外を指し示す。馬車を囲って同行してるのは三人の冒険者達。こうして都市と地方の町を結ぶ乗合馬車には護衛がつくことで、戦えないお年寄りや女子供も安心して移動できるんだよな。

 ちなみに、乗車賃をケチったらボロい馬車かつ護衛無しの棺桶まっしぐらな旅も堪能出来るぞ。使うのはあくまで自己責任な。俺だったら少しでも快適な旅を楽しみたいから高い金払うか、もしくは割り切って自分の足使うね。

 人の往来が激しい街道沿いは人間の生息域だと分かっているのか、少し知性のある魔物なら普通は寄ってこない。襲ってくるとしたら襲撃に自信があるぐらい強力だったり、逆に群れを追い出されて後が無い個体ぐらいか。

「むう、残念ですね。せっかくニッコロさんの格好いい活躍が見れると思ったのに」
「魔物駆除とか面倒くせえ。とは言っても馬車の中でぐーたらするだけだと退屈なんだよなぁ。贅沢な悩みだな」
「では今度魔物が襲ってきたらニッコロさんも戦ってくださいよ」
「冒険者の出番と仕事は奪いたくねえんだけど? ま、その時の状況次第だな」

 とまあ、こんな感じでのんびりとした旅を楽しんだわけよ。
 ところが聖都からだいぶ離れた森を貫く道で、ミカエラの願いは叶ったわけだ。
 まさかミカエラが呼び寄せたんじゃねえだろうな?

 最初に気付いたのは哨戒してた中年の男冒険者で、馬車の近くにいた弓使いの女冒険者に合図を送ってきた。女冒険者はすぐさま馬車の乗客と御者に外に出ないように警告し、警戒にあたる。

 不安がる他の乗客達を尻目にミカエラは目を輝かせてきやがる。
 身体をのけぞらせてもミカエラの視線は俺から外れねえし。
 はあ、仕方がねえ。俺も暇だし、ミカエラの期待に答えるとしようか。

「頼みますよ我が騎士。この者達をどうか守ってください」
「出番無しで終わるかもしれねえからな。そこだけは頭に入れててくれよ」

 俺は立てかけてた盾と戦鎚を手に馬車から降りる。
 さあて、狩りの時間だ。
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