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ハッピーエンドになった元悪役令嬢

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 その後の話をしよう。

 まず邪視持ちの娘を利用して権力を得ようとした男爵は絞首刑に処された。
 遺体はしばらくの間処刑場の片隅で吊るされたままとなり、市民が憂さ晴らしに石を投げたり殴打を繰り返したらしく、片づけられた時には原型を留めていなかったんだとか。

 イサベルは邪視が諸悪の根源だと判断され、目を失うだけで済んだ。
 見えなくなった彼女を出迎えたのはなんとフェリペ様だったらしい。魅了が解かれても彼女を想う気持ちは変わらず、大切にすると誓ったそうだ。レオノールに戻っていたもののこの結末には安堵したものだ。

 『攻略対象者』方は各々再起中と聞いている。彼らもまたイサベルへの好感度は以前として高いらしく、やはり魅了の邪視はきっかけに過ぎなかったんだと確信した。邪視が無ければきっと良好な縁を築けていただろうに。

 イレーネは元レオノールのカレンと正式に結婚した。寿退職の形で公爵家を去ったので最後まで正体を暴かれずに済んだらしい。男に戻った彼は文官として採用され、国のために日々働いている。

 カレンの結婚の後見人となったのは他でもないラーラ女史だ。彼女に入れ替わりを悟られるにはそう時間も必要無かった。私は結婚披露宴までに間に合うよう厳しい教育を施されたのは余談だ。

「レオノール様の身体に収まろうと、貴女は私の娘のように思っていますよ」

 と言ってくれたのはとても嬉しかった。

 元レオノールはカレンとして引き続きジョアン様の執務の補佐をしている。ゆくゆくは王国史上初の女性かつ平民出身の宰相になるんだと意気込んでいた。彼女程優秀なら本当になってしまいそうだ。

 そして……この私。レオノールは晴れてジョアン様と結ばれた。私達の結婚は身近な人から国民全員まで祝福され、今まで生きてきた中で一番幸せを感じた瞬間だった。まさかこんな日を迎えられるなんて思いもしなかったものだから、人生とは分からない。

「愛している。もう一生離さない」
「ええ、わたしも愛しています。絶対に離れませんから」

 そうして今日も私はジョアン様と公務を共にする。私の向かい側正面にはカレンがいて、左側窓際にはジョアン様がいる。互いに気兼ねなく意見をぶつけ合い、知恵を出し合って問題を解決していく。楽しい、と感じる。

「どうしたのカレン、笑っているようだけれど」
「いえ。レオノール様が幸せで何よりです、と思ったもので」
「そうだろうそうだろう。俺達はカレンの百倍幸せを満喫しているからな」
「あら、でしたら私は殿下の百倍はイレーネに愛していただいていますから」
「ちょっと二人とも、公務中だからあまり盛り上がらないで」

 もう手放さない。この『ハッピーエンド』は『悪役令嬢』でも『ヒロイン』でもない。レオノールからイサベルに生まれ変わり、名を奪われてカレンになり、身体を交換してレオノールとなったこの私のものだ。
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