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乙女ゲームに沿っていると知らされた元悪役令嬢
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目が覚めて真っ先に視界に映ったのは見知らぬ部屋の天井だった。
天蓋の無い寝具に横たわっているのだと気付き、身体を起こす。それから辺りを見渡して、ここと同じように配置される寝具や薬や包帯、何らかの器具が並べられた棚から医務室だと分かった。
「あら、気が付いたのね」
声の主は私の横で椅子に座り、本を読んでいた。
私が声をかけようとすると手で制し、袖机の上を指差す。置かれていたのは花瓶と伊達眼鏡状の邪視殺し。私が眼鏡をかけて目の前の相手、レオノールはようやく視線をこちらに向ける。
「何があったかは覚えているかしら?」
「……はっきりと」
私はジョアン様に怒りを爆発させてレオノールに止められた。あまりに感情的になったものだから一体何を口走ったかまでは詳しくは記憶に残っていない。
断言出来るとしたら、私の怒りに身を任せてジョアン様にとっては迷惑なだけの真実を暴露しかけた、というぐらいだ。
「すみません。レオノール様に止めてもらわなかったらもっと酷い事になってました」
「いいのよ。困ったときはお互い様、って言うでしょう」
「まさかレオノール様が絞め技をしてくるなんて思ってもいませんでした」
「ああ、アレは幾つか嗜んでいた隠し芸の一つよ。実際に役に立つ場面に遭遇するなんて、世の中本当に分からないものね」
私は深く頭を下げる。王太子への暴言など即刻処断されてもおかしくない無礼だ。今こうして拘束されずにレオノール様だけが傍にいる点からも、彼女もしくはジョアン様ご本人が私を庇ってくれたからに違いない。
しかし、それを差し引いてもレオノールは聞き捨てならない発言をしていた。
気を失う直前だってけれど確かに聞いたのだ。私をカレンとでもイサベルとでもなく、はっきりとレオノールと呼ぶ声が。
「それで、その……」
「どうして貴女をレオノールと呼んだのか? そうではないと言い張るつもり?」
「違いますよ。イサベルだった頃もありますけど、わたしはカレンです」
どうして今の私をレオノールと呼べよう?
私がレオノールだった証はもはや記憶のみだ。その記憶すらイサベルとして歩んでいる人生で上書きされつつある。大まかにはまだ思い出せても細部の記憶は結構曖昧になってきているのだ。
それに言葉遣いや発音も下町訛りが酷く、あれだけ身体に叩き込んだ行儀も失われている。外見の違いは語るまでもない。私がレオノールだった頃の各々に聞いて回っても例外なく私ではなく目の前の美しき令嬢をレオノールと呼ぶだろう。
「ねえカレン。以前レオノールは悪役令嬢でイサベルはヒロインって話をしたのを覚えているかしら?」
今、この世界においてレオノールとは彼女ただ一人であり、やはり私はもはやカレンと名乗るほかない。
「勿論ですが、それが?」
「私がどうしてそう断言出来たのか、理由は分かる?」
「……いえ。見当もつきません。まさか神からお告げがあったとでも言うんですか?」
「そもそも『ヒロイン』や『悪役令嬢』って表現の仕方、気にならなかったの?」
「比喩表現として劇を持ち出したじゃないか、とは思いましたけど……」
「そこまで分かっているなら私が言いたかった結論にも考えが及んでいるんじゃない?」
やめてくれ。そんなこと信じられない。
私がレオノールとしてジョアン様方と過ごした平和だった毎日、イサベルが現れてから抱いた憎悪と嫉妬、そして待ち受けていた破滅と終焉。あのレオノールだった私の全てが創造主の記した脚本上のものでしかなかっただなんて。
だったら何故私は嫉妬に狂って破滅しなければならなかったのか?
『悪役令嬢』としての役を全うしなければならなかったからか?
そんなの、あまりに残酷ではないか。
「そう、ここは『乙女ゲーム』の内容をそのまま投影した世界なのよ」
レオノールは愕然とする私に容赦なく現実を突き付けてきた。
笑みを崩さないるのに先ほどまでの受ける印象は大きく変わった。
そう、私は彼女に恐怖している。その得体の知れなさに。
天蓋の無い寝具に横たわっているのだと気付き、身体を起こす。それから辺りを見渡して、ここと同じように配置される寝具や薬や包帯、何らかの器具が並べられた棚から医務室だと分かった。
「あら、気が付いたのね」
声の主は私の横で椅子に座り、本を読んでいた。
私が声をかけようとすると手で制し、袖机の上を指差す。置かれていたのは花瓶と伊達眼鏡状の邪視殺し。私が眼鏡をかけて目の前の相手、レオノールはようやく視線をこちらに向ける。
「何があったかは覚えているかしら?」
「……はっきりと」
私はジョアン様に怒りを爆発させてレオノールに止められた。あまりに感情的になったものだから一体何を口走ったかまでは詳しくは記憶に残っていない。
断言出来るとしたら、私の怒りに身を任せてジョアン様にとっては迷惑なだけの真実を暴露しかけた、というぐらいだ。
「すみません。レオノール様に止めてもらわなかったらもっと酷い事になってました」
「いいのよ。困ったときはお互い様、って言うでしょう」
「まさかレオノール様が絞め技をしてくるなんて思ってもいませんでした」
「ああ、アレは幾つか嗜んでいた隠し芸の一つよ。実際に役に立つ場面に遭遇するなんて、世の中本当に分からないものね」
私は深く頭を下げる。王太子への暴言など即刻処断されてもおかしくない無礼だ。今こうして拘束されずにレオノール様だけが傍にいる点からも、彼女もしくはジョアン様ご本人が私を庇ってくれたからに違いない。
しかし、それを差し引いてもレオノールは聞き捨てならない発言をしていた。
気を失う直前だってけれど確かに聞いたのだ。私をカレンとでもイサベルとでもなく、はっきりとレオノールと呼ぶ声が。
「それで、その……」
「どうして貴女をレオノールと呼んだのか? そうではないと言い張るつもり?」
「違いますよ。イサベルだった頃もありますけど、わたしはカレンです」
どうして今の私をレオノールと呼べよう?
私がレオノールだった証はもはや記憶のみだ。その記憶すらイサベルとして歩んでいる人生で上書きされつつある。大まかにはまだ思い出せても細部の記憶は結構曖昧になってきているのだ。
それに言葉遣いや発音も下町訛りが酷く、あれだけ身体に叩き込んだ行儀も失われている。外見の違いは語るまでもない。私がレオノールだった頃の各々に聞いて回っても例外なく私ではなく目の前の美しき令嬢をレオノールと呼ぶだろう。
「ねえカレン。以前レオノールは悪役令嬢でイサベルはヒロインって話をしたのを覚えているかしら?」
今、この世界においてレオノールとは彼女ただ一人であり、やはり私はもはやカレンと名乗るほかない。
「勿論ですが、それが?」
「私がどうしてそう断言出来たのか、理由は分かる?」
「……いえ。見当もつきません。まさか神からお告げがあったとでも言うんですか?」
「そもそも『ヒロイン』や『悪役令嬢』って表現の仕方、気にならなかったの?」
「比喩表現として劇を持ち出したじゃないか、とは思いましたけど……」
「そこまで分かっているなら私が言いたかった結論にも考えが及んでいるんじゃない?」
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「そう、ここは『乙女ゲーム』の内容をそのまま投影した世界なのよ」
レオノールは愕然とする私に容赦なく現実を突き付けてきた。
笑みを崩さないるのに先ほどまでの受ける印象は大きく変わった。
そう、私は彼女に恐怖している。その得体の知れなさに。
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