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色々我慢が限界だった元悪役令嬢
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ただ、配慮が足りない点は前から変わっていない。入学してからすぐは節度があったけれど今となっては私に構う時間が露骨に増えている。いくら王宮では彼に仕えているからって婚約者のレオノールを蔑ろにして可愛がられれば反発を招くのは必至だ。
「わたしが迷惑しているのは分かってますよね?」
「平民の分際で王太子に馴れ馴れしくして、とかか? 言わせておけ。どうせ家や親のことでしか威張れない連中だ。聞くに値せんな」
「そのせいで陰でいじめにあうかもしれない、って想像出来ないんですか?」
「安心しろ。そうしてきた相手の実家は数日後には取り潰されているかもしれんなあ」
ジョアン様の発言にこちらの様子をうかがっていた何名かの令嬢が顔を青くする。自分の癇癪と自分の家とを天秤にかけたらどちらが下に傾くかはさすがに想像できたようだ。
当たり前だが王太子に国家の要である貴族の家一つを取り潰す権限は無い。出来るとしたら国王たる父親に願う程度だ。ジョアン様がこのような公の場でそう示唆するのは脅しの意味が強い。私に何かがあればただでは済まない、と。
しかし、私が過度にジョアン様と接触しながらも大事になっていないのは、そもそも私が彼から離れたがっていることを隠してないからと、肝心の婚約者たるレオノールが許容しているせいだ。
「それで、ジョアン様は結局わたしをどうしたいんですか?」
「どう、とは? 好きだと思った相手と一緒にいては悪いか?」
更に頭痛に拍車をかけるのが、もはやジョアン様は私への好意を隠さなくなった点だろう。散々フェリペ様方の醜態をこき下ろしながらもこのザマである。これでは私はイサベルと何ら変わりないではないか。
「そうではなく、レオノール様から冷たくされるから愛想が尽きて、わたしが興味をそそられたから好きになるのは構いません。ジョアン様だって人間ですから好みもあるでしょうし。でもジョアン様は王太子なんですよ?」
「もっと自覚を持て、か? 母上と同じことを言うんだな。わきまえているからレオノールとの婚約はそのままにしているんだろうが。何度も言わせるな」
「それじゃああまりにレオノール様が……!」
「可哀そう? 別に俺はレオノールを束縛していないぞ。むしろこんな関係でいようと言い出したのは彼女の方だ」
「……はい?」
曰く、ジョアン様は以前レオノールに言ったそうだ。「そんなに自分が嫌なら婚約解消してやる」と。レオノールはジョアン様からそう言いだすのを待ち望んでいる、と思いきや、「それは困る」と答えたらしい。
「レオノールの目的が王家との繋がりなのか王妃の座なのかはもう知らん。どうせ問いただしたところで答えんだろうしな。一方でこれも前に言ったが仕事仲間としては最良だ。よって俺か彼女がよほど下手を打たない限りはこのまま夫婦となる定めだ」
「ますます分かりません。じゃあジョアン様はわたしで遊んでいるんですか? 貧民のわたしじゃあ王太子の側室は務まりませんし、公妾になるなんて嫌ですよ」
「そこは考えてある。カレンはその時が来るまで黙って俺に従っていればいい」
「いい加減にして!」
もう頭に血が上った私は自分を抑えきれなくなった。癇癪を起した私は水差しの中に入っていた水を思いっきりジョアン様にぶちまけた。彼は反射的に身構えようとしたけれどあえて我慢したらしく、腕を組んだまま水を被る。
「もう嫌よ! 一体どれだけ私を弄べば気が済むの!? 愛していると言っても社交辞令みたいな笑みで僕もだと返すだけだったくせに! 私がどれだけ自分を磨いて頑張ってもそれが当然だとばかり受け止めてたくせに! 結局私じゃなくてイサベルを選んで突き放したくせに!」
「は? いやちょっと待て。一体何を言って……」
「ジョアン様なんて大嫌い! 私はこんなにも好きなのにどうしてジョアン様は私を苦しめて――!」
感情を爆発させて言ってはならない事まで口にしているような気がするけれどもう無理だった。彼への批判も零れる涙も止まらない。もう周りの目なんて気にならない。私はただ目の前のジョアン様に夢中になるばかりだ。
だからか、いつの間にか背後に回られ、気が付いたら首を絞められていた。そう言えば以前先生に習った覚えがある。首周りの血管を上手く圧迫すると相手をすぐに失神に追い込める絞め技がある、と。
「駄目よ『レオノール』。ここはまだ我慢のしどころだから」
暗転する間際、かつて自分のものだったレオノールの声を聞いた気がした。
「わたしが迷惑しているのは分かってますよね?」
「平民の分際で王太子に馴れ馴れしくして、とかか? 言わせておけ。どうせ家や親のことでしか威張れない連中だ。聞くに値せんな」
「そのせいで陰でいじめにあうかもしれない、って想像出来ないんですか?」
「安心しろ。そうしてきた相手の実家は数日後には取り潰されているかもしれんなあ」
ジョアン様の発言にこちらの様子をうかがっていた何名かの令嬢が顔を青くする。自分の癇癪と自分の家とを天秤にかけたらどちらが下に傾くかはさすがに想像できたようだ。
当たり前だが王太子に国家の要である貴族の家一つを取り潰す権限は無い。出来るとしたら国王たる父親に願う程度だ。ジョアン様がこのような公の場でそう示唆するのは脅しの意味が強い。私に何かがあればただでは済まない、と。
しかし、私が過度にジョアン様と接触しながらも大事になっていないのは、そもそも私が彼から離れたがっていることを隠してないからと、肝心の婚約者たるレオノールが許容しているせいだ。
「それで、ジョアン様は結局わたしをどうしたいんですか?」
「どう、とは? 好きだと思った相手と一緒にいては悪いか?」
更に頭痛に拍車をかけるのが、もはやジョアン様は私への好意を隠さなくなった点だろう。散々フェリペ様方の醜態をこき下ろしながらもこのザマである。これでは私はイサベルと何ら変わりないではないか。
「そうではなく、レオノール様から冷たくされるから愛想が尽きて、わたしが興味をそそられたから好きになるのは構いません。ジョアン様だって人間ですから好みもあるでしょうし。でもジョアン様は王太子なんですよ?」
「もっと自覚を持て、か? 母上と同じことを言うんだな。わきまえているからレオノールとの婚約はそのままにしているんだろうが。何度も言わせるな」
「それじゃああまりにレオノール様が……!」
「可哀そう? 別に俺はレオノールを束縛していないぞ。むしろこんな関係でいようと言い出したのは彼女の方だ」
「……はい?」
曰く、ジョアン様は以前レオノールに言ったそうだ。「そんなに自分が嫌なら婚約解消してやる」と。レオノールはジョアン様からそう言いだすのを待ち望んでいる、と思いきや、「それは困る」と答えたらしい。
「レオノールの目的が王家との繋がりなのか王妃の座なのかはもう知らん。どうせ問いただしたところで答えんだろうしな。一方でこれも前に言ったが仕事仲間としては最良だ。よって俺か彼女がよほど下手を打たない限りはこのまま夫婦となる定めだ」
「ますます分かりません。じゃあジョアン様はわたしで遊んでいるんですか? 貧民のわたしじゃあ王太子の側室は務まりませんし、公妾になるなんて嫌ですよ」
「そこは考えてある。カレンはその時が来るまで黙って俺に従っていればいい」
「いい加減にして!」
もう頭に血が上った私は自分を抑えきれなくなった。癇癪を起した私は水差しの中に入っていた水を思いっきりジョアン様にぶちまけた。彼は反射的に身構えようとしたけれどあえて我慢したらしく、腕を組んだまま水を被る。
「もう嫌よ! 一体どれだけ私を弄べば気が済むの!? 愛していると言っても社交辞令みたいな笑みで僕もだと返すだけだったくせに! 私がどれだけ自分を磨いて頑張ってもそれが当然だとばかり受け止めてたくせに! 結局私じゃなくてイサベルを選んで突き放したくせに!」
「は? いやちょっと待て。一体何を言って……」
「ジョアン様なんて大嫌い! 私はこんなにも好きなのにどうしてジョアン様は私を苦しめて――!」
感情を爆発させて言ってはならない事まで口にしているような気がするけれどもう無理だった。彼への批判も零れる涙も止まらない。もう周りの目なんて気にならない。私はただ目の前のジョアン様に夢中になるばかりだ。
だからか、いつの間にか背後に回られ、気が付いたら首を絞められていた。そう言えば以前先生に習った覚えがある。首周りの血管を上手く圧迫すると相手をすぐに失神に追い込める絞め技がある、と。
「駄目よ『レオノール』。ここはまだ我慢のしどころだから」
暗転する間際、かつて自分のものだったレオノールの声を聞いた気がした。
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