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早速攻略し始めるヒロインに呆れる元悪役令嬢
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「素敵な名前ですね。確か大帝国時代からの由緒正しい氏族名でしたっけ」
「……よく知ってるな」
彼は私と同じように入学試験を突破した市民階級の子だ。得意とするのはからくり仕掛けの機械設計。趣味はその製作。故郷の村では水車や風車を独学で作ったそうだ。夢は技術士になって自分の設計した機械で恵まれない地域を豊かにする、だったか。
教会の力が強く神が絶対視されるこの世の中で理を解き明かす科学の分野はあまり発展していない。むしろ神への冒涜だと敵視される傾向が強い。そのせいで学園内でのアウレリオへの当たりも次第に強くなっていった。
そんな中で唯一の味方はイサベルだった……的な話をレオノールだった頃ジョアン様に婚約破棄された際に聞いた記憶がある。くだらないと当時は吐き捨てたが、生活を便利にしようとする彼の夢は庶民にとって神様より有難いと今は思うようになった。
「会えて嬉しいです。この出会いは素晴らしかったって思えるようになりたいですね」
「あ、ああ。そうだな……」
変人を見るような視線を浴び続けた彼にとって初めてとなる純粋な憧れがこもった眼差し。特に発明家なんて女性からは奇異に思われる存在だろう。異性への耐性が無いアウレリオにとってイサベルの笑顔はとても眩しいものに違いない。
(ああ……こうやってイサベルはジョアン様方の心を奪っていったのね)
レオノールだった頃泥棒猫だとか娼婦だと罵ったけれど、視点が変わった今ならその巧妙な手口には関心してしまう。多分だがイサベルはこんな風に対象の殿方を理解し、相手が求める自分を演じたのだろう。
一方のレオノールだった私はどうだった? ジョアン様に相応しくあれと教養と気品を身に着けて普段から己を律していた。そして恥ずかしくないように、なめられないようにと誇り高く振る舞った。その上で愛していると己の想いを告げて寄り添った。
それは、独りよがりだったのではないか?
イサベルは婚約破棄騒動の時私はジョアン様を分かっていないと語った。心が重要だと言い放つイサベルを嘲笑した。……将来を誓い合った相手の内面を見ようとしない者がどうして一生添い遂げられるのだろうか?
今やっと私はイサベルを理解した。
しかし、同時に私はどうやってもイサベルになれないとも悟った。
「……イサベルは凄いんですね」
私は殿方の苦しみや悩みをそう簡単に察することなんて出来ない。
愛があれば分かり合えるだなんて嘘だ。
私なら互いに打ち明けて支え合うのが限度だろう。
私はイサベルが怖いとさえ感じた。
(……とはいえ、私にはイサベルに横取りされる婚約者もいないし、もはや他人事なんだけれどね)
唯一気が楽なのは当事者ではないので静観していられる点だ。この調子だとイサベルはジョアン様やアウレリオだけでなくフェリペ様やアントニオ様とも仲良くなろうとするだろうが、騒ぐのは社交界の面々であって一般庶民とは別世界の話だ。
ジョアン様が今回もイサベルになびこうがこのままレオノールと添い遂げようが、つまり本当の愛に目覚めるのか王太子として正しい道を取るか、なんて私の知ったことではない。勝手にすればいい。
……そう、割り切っている筈なのに、どうしてこうも胸が締め付けられるんだ?
その正体は何となく分かるけれど……決して認められない。認めてはいけない。
私はただ私の平穏のために人生を費やすべきだろう。
己の身を焦がす程の愛なんて要らない。
「どうしましたかカレン? 何だか顔色が悪いですよ」
「……ううん。イサベルは誰とも仲良くなれるんだな、って思っただけです」
「えへへ。昔から友達作りは得意ですから」
だから、私は作り笑いを浮かべてイサベルに接する他なかった。
「……よく知ってるな」
彼は私と同じように入学試験を突破した市民階級の子だ。得意とするのはからくり仕掛けの機械設計。趣味はその製作。故郷の村では水車や風車を独学で作ったそうだ。夢は技術士になって自分の設計した機械で恵まれない地域を豊かにする、だったか。
教会の力が強く神が絶対視されるこの世の中で理を解き明かす科学の分野はあまり発展していない。むしろ神への冒涜だと敵視される傾向が強い。そのせいで学園内でのアウレリオへの当たりも次第に強くなっていった。
そんな中で唯一の味方はイサベルだった……的な話をレオノールだった頃ジョアン様に婚約破棄された際に聞いた記憶がある。くだらないと当時は吐き捨てたが、生活を便利にしようとする彼の夢は庶民にとって神様より有難いと今は思うようになった。
「会えて嬉しいです。この出会いは素晴らしかったって思えるようになりたいですね」
「あ、ああ。そうだな……」
変人を見るような視線を浴び続けた彼にとって初めてとなる純粋な憧れがこもった眼差し。特に発明家なんて女性からは奇異に思われる存在だろう。異性への耐性が無いアウレリオにとってイサベルの笑顔はとても眩しいものに違いない。
(ああ……こうやってイサベルはジョアン様方の心を奪っていったのね)
レオノールだった頃泥棒猫だとか娼婦だと罵ったけれど、視点が変わった今ならその巧妙な手口には関心してしまう。多分だがイサベルはこんな風に対象の殿方を理解し、相手が求める自分を演じたのだろう。
一方のレオノールだった私はどうだった? ジョアン様に相応しくあれと教養と気品を身に着けて普段から己を律していた。そして恥ずかしくないように、なめられないようにと誇り高く振る舞った。その上で愛していると己の想いを告げて寄り添った。
それは、独りよがりだったのではないか?
イサベルは婚約破棄騒動の時私はジョアン様を分かっていないと語った。心が重要だと言い放つイサベルを嘲笑した。……将来を誓い合った相手の内面を見ようとしない者がどうして一生添い遂げられるのだろうか?
今やっと私はイサベルを理解した。
しかし、同時に私はどうやってもイサベルになれないとも悟った。
「……イサベルは凄いんですね」
私は殿方の苦しみや悩みをそう簡単に察することなんて出来ない。
愛があれば分かり合えるだなんて嘘だ。
私なら互いに打ち明けて支え合うのが限度だろう。
私はイサベルが怖いとさえ感じた。
(……とはいえ、私にはイサベルに横取りされる婚約者もいないし、もはや他人事なんだけれどね)
唯一気が楽なのは当事者ではないので静観していられる点だ。この調子だとイサベルはジョアン様やアウレリオだけでなくフェリペ様やアントニオ様とも仲良くなろうとするだろうが、騒ぐのは社交界の面々であって一般庶民とは別世界の話だ。
ジョアン様が今回もイサベルになびこうがこのままレオノールと添い遂げようが、つまり本当の愛に目覚めるのか王太子として正しい道を取るか、なんて私の知ったことではない。勝手にすればいい。
……そう、割り切っている筈なのに、どうしてこうも胸が締め付けられるんだ?
その正体は何となく分かるけれど……決して認められない。認めてはいけない。
私はただ私の平穏のために人生を費やすべきだろう。
己の身を焦がす程の愛なんて要らない。
「どうしましたかカレン? 何だか顔色が悪いですよ」
「……ううん。イサベルは誰とも仲良くなれるんだな、って思っただけです」
「えへへ。昔から友達作りは得意ですから」
だから、私は作り笑いを浮かべてイサベルに接する他なかった。
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