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悪役令嬢と邂逅する元悪役令嬢
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レオノールがジョアン様と距離を置こうとする理由は未だ分からないけれど、私がイサベルのようにジョアン様を誑かすわけにはいかない。ラーラ女史には悪いけれどやはり私はこのままただの従者として生を全うすべきだろう。
「……カレンさんは賢いですから学園内でどのように過ごすべきかは自ずと分かるはずです。とにかく、私が保護者になっている以上、これは提案ではなく要求です」
「命令ではないんですね」
「別に断ってもいいんですよ。ただ、カレンさんの評価が私の中で変わるだけです」
「その言い方は卑怯じゃないですか?」
「それ程私はカレンさんを買っている、と好意的に受け止めてください」
ラーラ女史は朗らかに笑みをこぼして私の頭を優しくなでてくれた。
亡くなったお母さんを思い出してつい私は涙を浮かべてしまう。
「とにかく、入試対策としてこれからカレンさんも私が直々に教育します」
「……え?」
「無論、普段の業務に支障をきたすわけにはいきませんから、夕方から宵時に行いましょうか。教材はこちらで準備するので安心なさい」
「いえいえいえ、ちょっと待ってくださいよ!」
まずい。実にまずい。このままなし崩し的に話が進められたら確実にラーラ女史の授業を受ける破目になる。
別にそれ自体は厳しいけれど苦ではない。問題なのは、彼女が効率性を重視してあの人物とまとめて面倒を見ようとしている点だ。
「その時間帯はレオノール様の教育に当てていたと記憶してますけど?」
「そうですが、それが何か?」
「わたしなんかがあの方と一緒に? そんな、恐れ多いです」
「カルロッタ先生の教え子であれば問題無いでしょう。互いにいい刺激になればと思っています」
既にラーラ女史の中では決定事項のようだ。それでもここで諦めたらイサベルになった私とレオノールが接触してしまう。既にジョアン様とも知り合ってしまったのにこれ以上深く関わるわけにはいかない。勿論、私の平穏のために。
私が焦るのを余所にラーラ女史はそのまま私を引き連れて王宮内を進む。
窓からは茜色に染まった光が廊下を照らしている。既に太陽は西の果てに沈もうとしていた。もうすぐ月と星々が天を支配する夜へと世界は変貌を遂げるだろう。
とどのつまり、もう私にはラーラ女史を心変わりさせられる時間は無かった。
「ごきげんよう、レオノール様」
「こんばんは、ラーラ先生。本日もよろしくお願いいたします」
ラーラ女史が向かった先は王宮の一角、未来の王太子妃となるだろう者、すなわちレオノールに当てられた部屋だった。ラーラ女史の来訪を受けて彼女は手にしていた本を置いて立ち上がり、優雅に一礼した。
そして顔を上げた彼女は……私と視線を合わせる。
その瞬間、彼女が浮かべた表情は何と語るべきだろうか?
驚愕? 焦燥? 憤怒? いえ、そのどれでもない。
レオノールは私を見て、明らかに絶望した。
「紹介します。こちらは私が学んだカルロッタ先生の最後の教え子である……」
「イサベル! どうして……!」
レオノールは突然意識を手放し、その場で倒れ込んだ。
「……! レオノール様、どうしたんですか!?」
あまりに唐突だったのでラーラ女史も咄嗟には対応出来なかったようだ。彼女が我に返ったのはレオノールが気を失ってから少し経ってからだった。すぐさまレオノールに駆け寄って脈と呼吸、瞳を確認する。
「すぐにお医者様を連れてきます!」
「頼みましたよ!」
私はすぐさまレオノールの部屋を出て一直線に、イサベルになってから初めてだったのでレオノールだった頃の記憶を頼りに医務室へと向かう。王宮内を走るなんてあり得ないのだけれど非常時だから勘弁してもらいたい。
それにしても、私とレオノールが出会うのはこれが初めてだ。
更に言うとまだ私はレオノールに何もしていない。レオノールの未来に陰りは無く順風満帆だったはずだ。
ここから導き出される答えはただ一つだ。
「やっぱりレオノールは知ってたんだ。この先待ち受ける苦難を!」
やがて自分がイサベルに破滅させられる、と既に知っている――!
「……カレンさんは賢いですから学園内でどのように過ごすべきかは自ずと分かるはずです。とにかく、私が保護者になっている以上、これは提案ではなく要求です」
「命令ではないんですね」
「別に断ってもいいんですよ。ただ、カレンさんの評価が私の中で変わるだけです」
「その言い方は卑怯じゃないですか?」
「それ程私はカレンさんを買っている、と好意的に受け止めてください」
ラーラ女史は朗らかに笑みをこぼして私の頭を優しくなでてくれた。
亡くなったお母さんを思い出してつい私は涙を浮かべてしまう。
「とにかく、入試対策としてこれからカレンさんも私が直々に教育します」
「……え?」
「無論、普段の業務に支障をきたすわけにはいきませんから、夕方から宵時に行いましょうか。教材はこちらで準備するので安心なさい」
「いえいえいえ、ちょっと待ってくださいよ!」
まずい。実にまずい。このままなし崩し的に話が進められたら確実にラーラ女史の授業を受ける破目になる。
別にそれ自体は厳しいけれど苦ではない。問題なのは、彼女が効率性を重視してあの人物とまとめて面倒を見ようとしている点だ。
「その時間帯はレオノール様の教育に当てていたと記憶してますけど?」
「そうですが、それが何か?」
「わたしなんかがあの方と一緒に? そんな、恐れ多いです」
「カルロッタ先生の教え子であれば問題無いでしょう。互いにいい刺激になればと思っています」
既にラーラ女史の中では決定事項のようだ。それでもここで諦めたらイサベルになった私とレオノールが接触してしまう。既にジョアン様とも知り合ってしまったのにこれ以上深く関わるわけにはいかない。勿論、私の平穏のために。
私が焦るのを余所にラーラ女史はそのまま私を引き連れて王宮内を進む。
窓からは茜色に染まった光が廊下を照らしている。既に太陽は西の果てに沈もうとしていた。もうすぐ月と星々が天を支配する夜へと世界は変貌を遂げるだろう。
とどのつまり、もう私にはラーラ女史を心変わりさせられる時間は無かった。
「ごきげんよう、レオノール様」
「こんばんは、ラーラ先生。本日もよろしくお願いいたします」
ラーラ女史が向かった先は王宮の一角、未来の王太子妃となるだろう者、すなわちレオノールに当てられた部屋だった。ラーラ女史の来訪を受けて彼女は手にしていた本を置いて立ち上がり、優雅に一礼した。
そして顔を上げた彼女は……私と視線を合わせる。
その瞬間、彼女が浮かべた表情は何と語るべきだろうか?
驚愕? 焦燥? 憤怒? いえ、そのどれでもない。
レオノールは私を見て、明らかに絶望した。
「紹介します。こちらは私が学んだカルロッタ先生の最後の教え子である……」
「イサベル! どうして……!」
レオノールは突然意識を手放し、その場で倒れ込んだ。
「……! レオノール様、どうしたんですか!?」
あまりに唐突だったのでラーラ女史も咄嗟には対応出来なかったようだ。彼女が我に返ったのはレオノールが気を失ってから少し経ってからだった。すぐさまレオノールに駆け寄って脈と呼吸、瞳を確認する。
「すぐにお医者様を連れてきます!」
「頼みましたよ!」
私はすぐさまレオノールの部屋を出て一直線に、イサベルになってから初めてだったのでレオノールだった頃の記憶を頼りに医務室へと向かう。王宮内を走るなんてあり得ないのだけれど非常時だから勘弁してもらいたい。
それにしても、私とレオノールが出会うのはこれが初めてだ。
更に言うとまだ私はレオノールに何もしていない。レオノールの未来に陰りは無く順風満帆だったはずだ。
ここから導き出される答えはただ一つだ。
「やっぱりレオノールは知ってたんだ。この先待ち受ける苦難を!」
やがて自分がイサベルに破滅させられる、と既に知っている――!
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