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第3-2章 私は事後処理に追われました

私は寵姫達を見送りました

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 死の淵から蘇ったマジーダはようやく頭が覚醒したのか、飛び上がりました。そして自分の手を見つめ、握ったり開いたりしたり軽く跳躍して感覚を確かめます。夢ではないと確信したらしい彼女は何かしたらしい私へと視線を向けました。

 ――その目には恐怖の色が入り混じっていました。
 得体の知れない存在と対峙するかのように。

『キアラ、だったか? あたいに一体何をした?』
「激しく焼損していた肉体を癒し、神のもとに旅立つ間際だった魂を呼び止めただけです」
『ふざけんな! あたいは間違いなく死んだ! 陛下の裁きを受けて!』
「生命活動を停止したことを死と定義するならそうでしょうね。私は死後肉体から解き放たれた霊魂が審判を受けるまでの者を救う奇蹟を授かっていますので、違います」

 この説明は私の憶測だらけですがね。死後どれだけの月日が経過しても呼び戻せるかの検証なんてしていませんし。そもそもまさか骨と炭と化した肉体まで修復出来るとは思ってもいませんでしたよ。

 それでもマジーダは私の説明でようやく合点がいったようです。ただ頷きながらも私を恐れている様子は消しきれません。私とて手を組んで感謝されると逆に困りますので丁度いい反応だと受け止めますが。

「復活の奇蹟、と便宜上呼ばれています。他の方には内緒ですよ」
『……良かったのかよ? そんな仰々しい奇蹟を公の場で見せびらかせちまってよ』
「悔いはありません。私が救いたいと思ったから手を差し伸べただけですので」
『アンタがそう言うなら別にあたいは構わねえけど……いや、やっぱ構うわ』

 マジーダは自分で自分の頬を軽く殴りました。わずかに痣が出来ましたが、ようやく普段の彼女らしく強くて頼もしい表情に戻りました。

『なあキアラ。やっぱあたい達と一緒に……違えな。誘ったってどうせ断るんだろ?』
「よくお分かりで。教国で生まれたからには私は教国で何かを成すべきなのでしょう」
『じゃあもしそっちで迫害されるようだったらこっちに逃げてこい。絶対にあたいが守るから』
「……そのお気持ち、有難く頂戴いたします」
『その、何だ? ありがとうな』

 マジーダは照れ混じりに礼を述べると踵を返し、ヌールルフダーの前に跪きました。

『陛下。もとよりあたいは偉大なる神の僕。いかようにも罰は受ける覚悟はありましたが、そうもいかなくなりました』
『これ以上の罰は受けぬ、と申すのか?』
『聖女に救われた命を捨てるような恩知らずにはなりたくありませんので』
『故に妾にも歯向かう、か。妾が聞かなんだらそなたどうするつもりだ?』
『そうなったら逃げるしかないんじゃないんですかね?』
『……くははっ! 実にそなたらしいな! よいぞ、罰を受けたそなたは許された。妾が認めよう』
『有難き幸せです』

 ヌールルフダーは大笑いをすると背後の船を指し示しました。マジーダは深く頭を垂れた後に立ち上がり、こちらに振り向くと『じゃあな』と呟きつつ軽くお辞儀をします。それから跳躍、高く飛び上がって船へと乗り込みました。

『次の時代を担う良き後継者に恵まれたな』
「そう言う貴女だって素直な後輩を育てているじゃないの」

 正妃と女教皇が互いに笑みをこぼしました。聖国にて二人の間に一体どんなやりとりがあったかは存じませんが、単なる敵同士を超えた関係が築かれたのは明白です。地域も宗教も人種も超えた仲とはなかなか貴重ではないでしょうか?

『じゃあなアウローラ。神の導きあれ』
「お達者でヌールルフダー。偉大なる神のご加護があらんことを」
『……もう二度と会うことはあるまい。そなたとは同じ人種であったなら友だったかもしれぬな』
「いえ、案外また会えるかもしれないわ。その時には互いに歩み寄れる未来であってほしいものね」

 ヌールルフダーが号令をかけると獣人達は撤収していきます。ラーニヤが去り際に『じゃあ、また会えれば』と声をかけてくれたので私も「ええ、また会う日まで」と返しました。

 寵姫と聖女。神に奇蹟を授かり全ての救済を託された少女達。
 教えの解釈の仕方に差異はあれど、全ての救済するとの悲願は同じです。
 で、あるなら、人間と獣人がいつか手を取り合う日が来るかもしれませんね。

 そう思いながら私達は獣人達が水平線の彼方へ旅立っていくのを見送りました。


【後書き】

これで第三章は終わりになります。
お読みいただきありがとうございました。
終章となる第四章はおそらく冬頃からになると思います。
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みんなの感想(297件)

DiaboloXxX
2023.06.25 DiaboloXxX

都筑がとっても気になります
もう書かないのでしょうか?

福留しゅん
2023.06.27 福留しゅん

プロットは出来ているので、いつかは書こうと思っています。
今は他の作品に注力しているので、気長にお待ちいただければと思います。

解除
荒谷創
2020.08.16 荒谷創

ふむふむ。
キアラにとっても、世界にとっても大きな転換期となりましたね。
さて、めでたく一線越えたので結婚ですよ♪
貴族的にはアウト系な経緯の結婚ですけど、浄化の、や正義の、あたりは祝福してくれるでしょうし、表だってガタガタ抜かす奴は居ないでしょう。
まあ、所詮雑音です。
楽しみですね♪

福留しゅん
2020.08.23 福留しゅん

実を言うとこの先乙女ゲームの舞台になる二年生編に行く前にキアラの身の振り方をどうしようか迷っているのも期間を開ける理由だったりします。もうゴールインさせてしまうか、いっそ子を成して奇蹟を継承、失わせるか、とか。

解除
荒谷創
2020.08.16 荒谷創

くははは
奇跡が神より与えられた『自分の力』と勘違いしていないかい?
あくまでも『貸与された一部の権能』でしかない。
そして、神はマジーダがここで落命するのを良しとはしなかった。なんなら、もう一度マジーダを燃やせるか試してみるかい?
ま、既に断罪され炎に焼かれているのだから、もう燃やせないだろうがね。

福留しゅん
2020.08.23 福留しゅん

一度罰を与えたらもう二重には行う必要がない、って某少年漫画でありましたね。

解除

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