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第3-1章 私は聖地より脱出しました

私達は第二防衛線まで逃げ伸びました

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 撤退する道中で騎士達やチェーザレ達も倒れる者を担ぎました。アレだけ言った手前、私もアレッシアと一緒に負傷者を運ぼうとしたのですが、聖女にそんな真似はさせられないと騎士に怒られてしまいました。

 相手方の進軍速度はラーニヤの戦線離脱とマジーダの混乱、そして何より聖国側の奮戦もあって緩くなっていました。内側の城壁が見えた辺りで振り返ってもまだ敵軍の姿は遠く、この調子なら追い付かれる心配はありませんね。

「キアラ、アレッシア! 早くこっちよ!」

 城壁の上からリッカドンナが私達に呼びかけてきます。もう叫んで返事する気力も惜しかったので何とか手を振って答えました。ここまで来ると周りの兵士達も多くが安堵の表情をこぼしていました。 

 何とか城門を潜って、人が密集していない奥まで進んで、疲れ果ててその場にへたり込みました。荒くなった息を整えるべく何度か深呼吸して、青空を見上げました。戦場だと思わせないぐらい穏やかに雲が流れていました。

「聖女様のお帰りだ!」
「よくぞご無事で!」
「……は?」

 で、何故か聖女の凱旋だとばかりに出迎えられました。もういちいち否定する気力も残っていないのでされるがままです。生返事だけ返しつつ呑気にも懐かしいなあと思いました。奉仕への感謝はやはり報われたんだって嬉しい気持ちになりますから。

 そんなザマな私に代わって随伴した騎士達がリッカドンナへと一部始終を報告しました。ラーニヤの撃退にはよくやったわと喜び、マジーダの跪きには驚愕を露わにして深刻な表情を浮かべました。

「アレッシア……アンタ、とんでもないことをしでかしたわね」
「え……? わたし、そんないけないことをしましたか?」
「いけないも何も、アンタがやったのは――!」

 そこでリッカドンナは大聖女アンナの偉業をアレッシアや他の者達に語って聞かせました。周りは慈愛の大聖女の再来だと大騒ぎですし当のアレッシア本人は困惑するばかりです。まあ、普通自分がそんな偉人と同等な存在だなんて思いませんよね。

 ですがリッカドンナは最初にアレッシアと出会った時の喜びようとは打って変わり、真剣な顔をして彼女と向き合いました。その様子にアレッシアは戸惑いと不安を感じたようで、少し怯えました。

「いい? 慈愛の奇蹟はとんでもない代物よ。それこそこれからの歴史を左右するぐらいのね」
「慈愛……わたしにそんな奇蹟が?」
「何が何でも聖都に来てもらって聖女になるための教育を受けてもらうわ。それで聖女は何たるか、奇蹟はどう使うべきかををしっかり勉強しなさい」
「は……はい」

 物凄い剣幕だったものですからアレッシアの返事は反射的でした。それでも返事には変わらないと満足したリッカドンナは負傷した兵士達の治療に取り掛かりました。と言うより私達が戻ってくるまでの間ずっとそうしていたようですね。

 私も手伝おうと足を踏ん張りましたが膝に力が入りません。そのまま傾く身体をチェーザレが支えてくれました。礼を述べたのですが彼から無茶をするなと叱られたので大人しく体力回復に専念するとしましょう。

「命にかかわらない人は全員医者に診てもらいなさい! あたしは生死をさまよう人だけを見るから!」

 後退する兵士達が後から次々と門を潜ります。怪我人は不安なのか真っ先にリッカドンナに診てもらおうとしますが、大半は一蹴されて奥に向かいました。人手が足らないので役割分担は重要です。

「リッカドンナ様! 敵の姿が見えてきました!」
「ぎりぎりまで門は開けておきなさい! 一人でも多くの命を助けるのよ!」

 敵の到来が告げられたのは私がようやく立てるぐらいまで体力が戻ってきた頃でした。

 内側から階段を駆け上がって城壁から見下ろすと、獣人の軍勢がすぐそこまで迫ってきているのが分かります。しんがりを務める部隊が見る見るうちに削られていくのも見えました。ここまで来ると助かりたい一心で全力で逃げてくる者も続出しています。

「リッカドンナ様。ここの城壁は先ほどまで守っていた外壁より低いのですが、死守できる算段があるのですか?」
「あたしもこっちに来てから知ったんだけれど、アウローラ様が張った聖域の奇蹟って三重構造なんですって。丁度この城壁が二枚目よ」
「なんと……それは初耳です。けれど確かここの内側は……」
「そうよ。畑が結構な割合を占めてた外周区画とは違うわ」

 ――人が多く住む市街地区画が後ろに広がっている。

 もう私達にはここを死守する他無くなっていました。
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