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第3-1章 私は聖地より脱出しました

私は友人の故郷へ遊びに行きました

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 実家から聖都に戻ると今度はオフェーリアに海洋国家に遊びに来ないかと誘われました。折角でしたのでパトリツィアと一緒にお邪魔することにしました。初めての船旅はとても新鮮でしたよ。船酔いに悩まされて気分は最悪でしたが。

 海洋国家の首都は水の都と呼ばれるほど水路が発達した街です。出かける際も徒歩より小舟を使った方が便利だと言われるぐらいですし。教国連合でも珍しく共和制で、貿易で栄えてきました。

 滞在中は色々なところを案内してくださいました。街並みや建造物、人柄まで聖都とは異なる趣があってとても楽しかったです。
 一番印象に残ったのはやはり活気のある港でしょうか。見たことも無いぐらい大きな貿易船が並び、大量の荷物が出し入れされる様子には圧倒されました。説明するオフェーリアは誇りを持っているようでした。

 オフェーリアは夏季休暇中そのまま実家に留まり家の手伝いに従事するそうで、水の都で別れました。水の都と聖都との航路は教国連合の半島を大きく迂回する必要があり、パトリツィアが道中で折角だからと故郷の南方島国に招待してくださいました。

 オフェーリアは遺跡のような古臭い街並みばかりだと辟易していましたが、私は実際に目にした途端言葉を失ってしまいました。

「……」
「言葉を失っちゃうぐらい感動した?」
「そう、ですね……」

 なんと、かつて聖女マルタとしてこの地に赴いた時と何ら変わっていなかったのです。聖都を始めとしてどの都市、町も面影を残しながらも発展していった中で時代に取り残されたかのようでした。

 目に浮かぶのはかつての私と肩を並べて笑いかけてくるベネデッタと私達を先導するガブリエッラの姿。島内の抗争が激化して集ったんでしたね。あまりにも懐かしすぎて感涙を堪えるのが精一杯でした。

 あの頃は純粋に神より与えられた使命に従っていれば満足だったのに。今では神の言葉を聞かぬよう耳を塞いで自分のことばかり。もう不幸な目に遭いたくないからと心に決めたのに、それでいいの?との幻聴が心をさいなみます。

「それじゃあ道中気を付けなさいよ」
「船の中で寝ていれば聖都の港に着きますからご心配には及びません」
「そう楽観もしていられないわよ。ここだけの話、聖戦が長引いているせいでどの国も遠征費が財政を圧迫しているの。そのせいで地方は治安が悪化しているのよ」
「つまり、船旅の間に海賊に襲われかねないと?」
「オフェーリアのところは自前の海軍があるからおいそれと手出しされなかったけれど、うちのところはねー」
「分かりました。心にとめておきましょう」

 パトリツィアもしばらく実家で過ごす予定だったため別れ、私は教国への帰路につきました。不穏な忠告を受けましたが船という閉鎖環境では私にはどうしようもなく、なるようになるでしょうと気持ちを切り替えて船に乗り込みました。

 ――そう楽観視していたせい、なのかもしれません。
 私は当分の間聖都に戻れなくなる破目に陥ったのです。
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