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第2-2章 私は魔女崇拝を否定しました
正義の聖女は不意打ちを受けました
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「一方的っすね。まああたしは戦ったりはしないんで当然の結果ってところかな」
「私に同行してもらえるかな? 正義の聖女の名において便宜は図るから」
「教会に与すれば良し、強情なら異端扱いの後魔女として処罰する、っすか? 教会の下僕になるのはお断りだよ」
「貴女の都合は聞いてない。さあ、一緒に来てもらおうか」
ルクレツィアは先生の腕を乱暴に掴んでその身を引っ張り上げました。直後、先生は往生際悪くもう片方の手でルクレツィアに触れようとしますが――、
「あいた、いたいいたいっ!」
「そんな不意打ちは効かないよ。観念なさい」
そこは聖女の方が一枚上手だったようです。すぐさま先生の後ろに回って腕をひねり上げました。
「き、君はここの人達からあたしを奪うつもりなの!? 教会がその場しのぎの施しを与えるばっかで根本的解決しないままごまかしているじゃないか!」
「そこは私が責任をもって改善します。もう貴女が気にする必要は無いわ」
「ここだけじゃないんっすからね! 教国連合中……いや、神の信仰が及ぶ全ての国々で教会が市民を苦しめているんだから!」
「そうした教会の至らない点は聖女として活動して改めるべきでしょう。いたずらに混乱を招くのは間違っていると思うけれど?」
「そんな内側から改善出来ないぐらい腐りきっているのは君だって分かっているでしょう!?」
「それも反省して改善に繋げればいい。安易に悪い一面ばかり指摘して教会を潰して何になるの?」
論争する先生とルクレツィアですが、あいにく私はどちらの意見にも賛同致しかねます。
ルクレツィアは地道に教会の悪い所を改めればとか思っているんでしょうが、長年私腹を肥やすため、権威を集中させるため神の教えを利用してきた教会は根底から腐っています。腐った大黒柱は変える他ありません。
逆に教会が気に食わないからと喧嘩を売るのも時期尚早ですね。貧民街の住人全てが決起しても容赦なく鎮圧されるのは目に見えています。そうなれば教会に歯向かった見せしめとして凄惨な最期を迎える他ありません。
プロテスタントの始まりのように地道な布教活動で賛同者を得るのが賢いやり方でしょう。先生も教会の方針に従わない聖女こそ正しいなどと余計なことは口走らず、ただひたすら人を救い続けていれば良かったのです。信仰は自然に付いてくるでしょう。
「さあ、もう観念しなさい」
「観念? ふふっ、面白いことを言うんっすねえ聖女さんは」
「何がおかしいの?」
すでに万事休すにまで追い込まれた先生はそれでもなお余裕そうでした。笑い声をあげたのでルクレツィアがやや気分を害して言葉を荒っぽく紡ぎました。それが可笑しかったのか、先生は口角を吊り上げました。
「まさか、教会の連中に取り囲まれた次の日にまたのこのこと一人で出歩くとでも本気に思っていたの?」
「……貧民街の住人をあてにしたって、私の正義の奇蹟ならいくらでも蹴散らせる」
「おお怖い怖い。いざとなったら守るべき人に暴力をふるうのが教会の聖女のやり方っすか」
「神の意志に背く愚者を愛せよとは教えには無い」
えー? 神は最終的にすべての生きとし生ける者を救済するのが教会の教えですのに。異端審問官や枢機卿共はどうしようもないとして、聖女までそんな異端者や異教徒を排除するだなんて言って欲しくありませんね。
と私がルクレツィアの評価を下げている間、先生は先ほどまでルクレツィアが構えをとっていた方向を眺めていました。住宅街のT字路なせいもありこちらから死角になって見えません。私は少し先生へと近寄って改めてそちらを見やりました。
立っていたのは小柄な子供でした。
深く頭巾を被り外套を羽織った彼は少年か少女かも分かりません。ただ先生とルクレツィアから目を離しません。
「野良聖女は一人じゃない、ってことっすよ」
次の瞬間、子供はルクレツィアに襲い掛かりました。先ほどのルクレツィアの踏み込みにも匹敵する素早さであっという間に近寄ります。
ルクレツィアは咄嗟に取り押さえていた先生を子供に向けて突き出しましたが……、
「えっ!?」
なんと、相手は先生の肩に手を乗せるとそのまま宙返りをしたではありませんか。
そして着地するまでもなく両足をルクレツィアに向けて突き出します。両足蹴り、とでも言いますか。しかし顔面に命中する前に正義の聖女に跳ね除けられて攻撃は失敗に終わります。
子供は着地と同時にルクレツィアの懐に入り込みました。咄嗟に迎撃態勢に入ったルクレツィアは子供の襟首と袖を掴んで投げ飛ばそうとしましたが、その前に子供が飛び上がるように放った上方向へのこぶしは見事にルクレツィアの腹部に突き刺さりました。
あろうことか、ルクレツィアが勢いのあまりに叩きつけられた壁はヒビどころは凹みすら生じさせました。それだけ強い衝撃を受けた聖女は何とか倒れまいと踏ん張りますが、そんな彼女の顎に子供のこぶしがめり込みました。
正義の聖女は魂が抜け落ちたかのようにその場に崩れ落ちたのです。
「私に同行してもらえるかな? 正義の聖女の名において便宜は図るから」
「教会に与すれば良し、強情なら異端扱いの後魔女として処罰する、っすか? 教会の下僕になるのはお断りだよ」
「貴女の都合は聞いてない。さあ、一緒に来てもらおうか」
ルクレツィアは先生の腕を乱暴に掴んでその身を引っ張り上げました。直後、先生は往生際悪くもう片方の手でルクレツィアに触れようとしますが――、
「あいた、いたいいたいっ!」
「そんな不意打ちは効かないよ。観念なさい」
そこは聖女の方が一枚上手だったようです。すぐさま先生の後ろに回って腕をひねり上げました。
「き、君はここの人達からあたしを奪うつもりなの!? 教会がその場しのぎの施しを与えるばっかで根本的解決しないままごまかしているじゃないか!」
「そこは私が責任をもって改善します。もう貴女が気にする必要は無いわ」
「ここだけじゃないんっすからね! 教国連合中……いや、神の信仰が及ぶ全ての国々で教会が市民を苦しめているんだから!」
「そうした教会の至らない点は聖女として活動して改めるべきでしょう。いたずらに混乱を招くのは間違っていると思うけれど?」
「そんな内側から改善出来ないぐらい腐りきっているのは君だって分かっているでしょう!?」
「それも反省して改善に繋げればいい。安易に悪い一面ばかり指摘して教会を潰して何になるの?」
論争する先生とルクレツィアですが、あいにく私はどちらの意見にも賛同致しかねます。
ルクレツィアは地道に教会の悪い所を改めればとか思っているんでしょうが、長年私腹を肥やすため、権威を集中させるため神の教えを利用してきた教会は根底から腐っています。腐った大黒柱は変える他ありません。
逆に教会が気に食わないからと喧嘩を売るのも時期尚早ですね。貧民街の住人全てが決起しても容赦なく鎮圧されるのは目に見えています。そうなれば教会に歯向かった見せしめとして凄惨な最期を迎える他ありません。
プロテスタントの始まりのように地道な布教活動で賛同者を得るのが賢いやり方でしょう。先生も教会の方針に従わない聖女こそ正しいなどと余計なことは口走らず、ただひたすら人を救い続けていれば良かったのです。信仰は自然に付いてくるでしょう。
「さあ、もう観念しなさい」
「観念? ふふっ、面白いことを言うんっすねえ聖女さんは」
「何がおかしいの?」
すでに万事休すにまで追い込まれた先生はそれでもなお余裕そうでした。笑い声をあげたのでルクレツィアがやや気分を害して言葉を荒っぽく紡ぎました。それが可笑しかったのか、先生は口角を吊り上げました。
「まさか、教会の連中に取り囲まれた次の日にまたのこのこと一人で出歩くとでも本気に思っていたの?」
「……貧民街の住人をあてにしたって、私の正義の奇蹟ならいくらでも蹴散らせる」
「おお怖い怖い。いざとなったら守るべき人に暴力をふるうのが教会の聖女のやり方っすか」
「神の意志に背く愚者を愛せよとは教えには無い」
えー? 神は最終的にすべての生きとし生ける者を救済するのが教会の教えですのに。異端審問官や枢機卿共はどうしようもないとして、聖女までそんな異端者や異教徒を排除するだなんて言って欲しくありませんね。
と私がルクレツィアの評価を下げている間、先生は先ほどまでルクレツィアが構えをとっていた方向を眺めていました。住宅街のT字路なせいもありこちらから死角になって見えません。私は少し先生へと近寄って改めてそちらを見やりました。
立っていたのは小柄な子供でした。
深く頭巾を被り外套を羽織った彼は少年か少女かも分かりません。ただ先生とルクレツィアから目を離しません。
「野良聖女は一人じゃない、ってことっすよ」
次の瞬間、子供はルクレツィアに襲い掛かりました。先ほどのルクレツィアの踏み込みにも匹敵する素早さであっという間に近寄ります。
ルクレツィアは咄嗟に取り押さえていた先生を子供に向けて突き出しましたが……、
「えっ!?」
なんと、相手は先生の肩に手を乗せるとそのまま宙返りをしたではありませんか。
そして着地するまでもなく両足をルクレツィアに向けて突き出します。両足蹴り、とでも言いますか。しかし顔面に命中する前に正義の聖女に跳ね除けられて攻撃は失敗に終わります。
子供は着地と同時にルクレツィアの懐に入り込みました。咄嗟に迎撃態勢に入ったルクレツィアは子供の襟首と袖を掴んで投げ飛ばそうとしましたが、その前に子供が飛び上がるように放った上方向へのこぶしは見事にルクレツィアの腹部に突き刺さりました。
あろうことか、ルクレツィアが勢いのあまりに叩きつけられた壁はヒビどころは凹みすら生じさせました。それだけ強い衝撃を受けた聖女は何とか倒れまいと踏ん張りますが、そんな彼女の顎に子供のこぶしがめり込みました。
正義の聖女は魂が抜け落ちたかのようにその場に崩れ落ちたのです。
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