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第2-2章 私は魔女崇拝を否定しました

先生は寝不足のようでした

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「先生、寝不足ですか?」
「ふえっ?」

 学院にて小試験を行っている最中、本来不正を働かないよう生徒達を見張るべき教員であるカロリーナ先生はあろうことか居眠りしていました。腕と足を組んで舟を漕ぐ様子はとても気持ちよさそうでして、口元からよだれすら垂れそうでしたね。

 授業の終了を知らせる鐘の音が学院中に響き渡ると先生は身体をびくっとさせて起き上がりました。そして口元をぬぐいつつ教室から眺められる日時計から色々と察し、慌てて答案用紙を回収する様子が滑稽で笑いが起こっていました。

「あまり夜更かししてはいけませんよ。次の日に支障をきたすなんて本末転倒です」
「あー、いつもは昼休み中に昼寝してるんっすけどね。今日は暖かかったものでつい」
「先生ってそんな深夜まで起きてるんですか?」
「やりたい事があってつい、って感じっすか」

 私やオフェーリアが訪ねると先生は苦笑しつつ頭を掻きました。いつもマイペースながらも真面目に生徒達と向き合っていた彼女らしからぬ気のゆるみです。心なしかいつもよりも元気が無いようにも見えます。

 とは言え、悩みを抱えているようにも見えません。本当につい何かに夢中になってしまっただけなのか、それとも事情があるのか。どのみち職務怠慢を怒られるのは彼女ですしそれ以上踏み込むのは差し控えますか。

「そう言えばさ、例の噂聞いた?」
「魔女崇拝の話だっけ? 貧乏人共が魔女を崇めて苦しみから救ってもらおうとしてるらしいわね」
「魔女を呼び寄せる為に生贄を捧げてるって話よ」
「そうなの? あたしは淫らな行為をしているって聞いたけど?」
「汚らわしいわね。そんな異端者共なんてとっとと捕まえればいいのに」

 そう言えばここ最近、魔女について話題に上がることが多くなりました。それだけ聖都中に広まりつつある証なのでしょう。とは言え、大半を貴族階級の子で占める学院においては下々のいかがわしい行いだと侮蔑の対象でしかないようですが。

「それとさ、貧民街地区で野良聖女が出るんですって」
「何それー。その言い方だと聖女様が教会に飼われてるって聞こえるんだけど」
「差別なく怪我や病気で苦しむ人を救っているんですって」
「他の聖女様と何が違うの?」
「教会の決定に従わない点よ。食べる物にも困ってる連中に手を差し伸べたって寄付金は貰えないでしょう?」
「疫病や飢饉で苦しむ村には聖女が派遣されても、お膝元の浮浪者は見て見ぬふりをするって言われてたりするの」

 それとよくよく耳を傾ければ野良聖女についても語られていました。私は恥ずかしながらオフェーリアに教わるまでその存在すら知りませんでしたのに。いかに他人や周りに興味が無いかを思い知らされた次第です。

「もうさ、さっさと異端審問官派遣して鎮圧しちゃえばいいのに」
「そうね。騒動とか起こる前に火消しした方がいいかも」
「もういっそ聖都に相応しくないあの汚い連中を追い出したらどうかしらね」
「教会に歯向かうなんて正気かしら?」

 中には物騒で過激な発言をする者までいました。平民など替えがいくらでもきく消耗品、とでも考えているのかもしれません。そして彼女達の常識では教会、または貴族である自分達が正義でたてつく者が悪。これが絶対なのでしょう。

「皆さん静粛に。不安に思う気持ちは分かりますが教会が適切に対処いたします。ですので憶測や偏見で語らず、噂に惑わされないように」

 食堂では生徒会長のミネルヴァが皆に言い聞かせるまで不穏な空気が漂っていました。それだけ貧民街の者達が一斉に決起して暴動に発展したら、との可能性が頭によぎってしまうのでしょう。

「んじゃあ今日の授業はこれで終わりっすけど学院から連絡があるっす。最近聖都内に物騒な噂が広がっているっすね。なので無用な夜の外出は控えて、奉仕活動もほどほどに日が暮れる前に下校するように」

 カロリーナ先生からの連絡事項が告げられて解散となりました。手芸会へと足を運んだ私はトリルビィと共に作業に勤しみます。交わされる雑談の内容はやはり大半が魔女崇拝や野良聖女についてが占めていました。
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