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第2-1章 私は学院に通い始めました

妹は聖女にならないと宣言しました

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「聖女にならない、ですって?」

 初めの内はセラフィナが何を言っているのか理解出来ませんでした。当然字面は分かりますがその意味まで把握するのを頭が拒むと言いますか。
 そんな私の衝撃が面白いのか、セラフィナはいたずらっ子のように笑いました。

「あはっ、お姉様でもそんな風に驚かれる事があるんですね。いえ、もしかしたらお姉様ったらわたしには今までそんな人間らしい一面を見せてくれなかったんですか?」

 もしかして、私は今の今までセラフィナについて何一つ理解していなかったのでは? 前世のわたしの知識に引っ張られてひろいんだとか勝手に決めつけて。私が悪役令嬢役から逸脱したから身近にいたセラフィナも変貌した? それとも……。

「……神より奇蹟を授かったのは全てを救えとの天啓でしょう。セラフィナは使命に背を向けるつもりですか?」
「その言葉、リボンを付けてそのままそっくりお返しします。神はお姉様にも言っているでしょう。全てを救え、と」
「……っ」

 必死に表に出すまいとしましたが我慢出来ませんでした。図星を突かれて愕然としてしまいます。何か言い返そうとしても口から漏れるのは乾いた吐息とかすかな呻きだけ。息をするのも苦しくて胸が締め付けられたように痛いです。

「歴史上これまで何人偉大なる聖女が誕生しましたか? 彼女達はお姉様の言う神託、使命に従って怪我や病気を数知れなく治しましたし危機から脱した場面だっていっぱいあったでしょうね。で、それで人々は救済されましたか?」
「……。いえ、救助はされたでしょうが救済はされていませんね」
「でしょう? 勿論エレオノーラ様はご立派ですしルクレツィア様は見習いたいぐらいです。それをわたしがやるとなったら話は別ですって」

 命を守る、苦しみから解き放つ。確かに聖女は神の奇蹟の一端を授かって多くの人を救ってきました。けれどそうした活動は教会が謳うような救済ではないと断言出来ます。だって科学技術が発達して社会制度が充実すれば改善できる事柄ばかりですから。

 それに聖女が争いも苦しみも無くなる楽園へと導くのか、と問われたら首を傾げざるを得ません。キアラとして再び生を受けて思い知りましたが人は愛おしくも愚かなまま。結局のところ聖女が人の救済への道標になっているかも疑問です。

 それでも、世界の在り方に一石を投じるには十分。決して無意味ではありません。

 かつて魔女として排除された私と違ってセラフィナは人々に変革をもたらすかもしれない。ひろいんが授かった祝福と救済の奇蹟にはそれほどの可能性が秘められています。これまでの聖女が悲願としながらも達成出来なかった真の救いがもたらされるかも――。

 ……いえ、私ったら一体何を考えているのでしょうね?
 聖女になんかならないんですから他人の事なんて心配する必要無いのに。セラフィナが自分が聖女になったって無意味だからならないって言った所で私個人にはそこまで関係無いでしょう。彼女の人生なんですから私に影響を及ぼさない範囲で好きにすればよろしい。

「聖女になる必要が無い、と言うんですか?」
「違います。正確には嫌だなりたくない、ですね。尤もらしい屁理屈を並べましたけどそれにつきます」

 ただ我儘を口にしているわけでも面倒臭がっているわけでもなさそうでした。その態度とは裏腹に妹の目は並々ならぬ決意を秘めており全くふざけていません。それが有無を言わさない迫力を生んでいてこれ以上の追及を許さないとも見受けられます。

「勿体ないですね」

 ですから私からはその言葉を送るのが精一杯です。
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